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ラディヴィータの伝説と、ソルミラの詩から。  作者: 荒間文寧


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19/44

3-6

 持参した酒瓶はすっかり空になっていた。手元のカップにももう半分も残っていない。「俺の話はそんなところだ」と最後に零して、メラはカップの中身を全て煽った。隣にしゃがみ込んでいたセルペが「そっか」と呟く。

「メラさん、話してくれてありがとう」

 おう、と適当に返事をしつつ、メラは隣の少年へと向き直る。

「それでな、セルペ」

「うん」

「この村のこと、頼んだぞ」

「……いいの? こんな得体の知れないやつに」

「ああ」

 しょんぼりと眉を下げるセルペに向かって、メラは「ただし」と続けた。

「俺の後任がどんなやつかは分からない。だから移動までに冒険者としての常識、ギルド側の建前をたたき込んでやる。安心しろ。オルソとスコイアはこれからもここにいる。後任とぶつかるなよ。上手くやれ」

 自信なさげに、それでも小さく頷くセルペの肩をメラはそっと叩いた。

「魔獣からソルミラを守れるのは、今はお前だけだ。頼りにしてるぞ」

「……はい」

「来てくれてよかったよ。本当に」

 飲み干したカップの底を見つめながら、メラは本心からそう呟いた。



 山の頂上付近は、まだあちらこちらに白く雪が残っている。麓、そしてソルミラ村の雪は殆ど解けきった。がらんとした所長室の、まっさらになった職務机の前にメラは一人で座っていた。結局買い替える余裕はなく、最後までサイズが合わないままであった。今日のメラは体調が万全、とは言いがたい。昨晩、飯屋の女将さんが「朝までやっていいよ」なんて言ってくれたおかげで明け方までどんちゃん騒ぎであった。村の人たちも代わる代わる顔を出してくれた。ありがたい話だ。

 飼っていた二匹の魔獣は、送別会の前に共生具を外して山へと帰した。オルソは最後まで渋っていたが、セルペが魔獣の顔を覚えているから大丈夫だ、と説得し最後は納得してくれた。無事に山で生きていけることを願うしかない。

 六年の歳月をぼんやりと脳内で反復するメラの耳に、ノックとともに「所長、来ましたよ」とスコイアの声が届く。ホールへ赴けば、中央が寄越した護衛用の冒険者二人がメラを待っていた。その二人に簡単に挨拶をして、メラはカウンターへと向き直る。中にスコイア、そして前にはオルソとセルペ。三人ともやけにしゃんとして立っていた。後任は入れ違いにやってくるらしい。名を聞いたがメラの知らぬ人物であった。人物像を探ろうにも、ソルミラからでは情報の仕入れようがない。でもこの三人ならきっと上手くやるだろう、とメラは勝手に思っていた。

「世話になったな」とメラが投げかける。

「共生化、頑張ってください」

「次はやらかしちゃダメですよ」

 などと二人は好き勝手に言ってくれた。セルペはと言うと、静かににこりと笑うだけであった。

 それじゃあ行きますか、と冒険者二人に呼びかけてギルドを出ようとしたところ、後ろから「メラさん」と呼びかけられる。振り返った先のセルペはやはりいつも通りニコニコと笑っていた。

「いってらっしゃい」

 まるで近所に遊びに行く人を見送るかのように、セルペはそう言った。メラは一瞬面食らったが、すぐににやりと笑って「行ってくる」と彼に返した。

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