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俺はリヴェッラって村の生まれでな、ここよりも王都に近いところにあった。ソルミラから見ると南西の位置だな。ここほどじゃないが小さな村だったよ。十八年前に廃村になった。俺が十四歳のときだ。
知ってるか? そうか知らないか。俺以外全員死んだんだよ。凶暴化した魔獣に襲われてな。地獄みたいな光景だった。親父とお袋が必死にかばってくれたから俺だけ生き残った。あの晩の村の様子はまあ、いい。お前が知りたいことには関係がないだろうし、聞いていて気持ちがいい話でもない。
とにかくあの日、大量の凶暴化魔獣によって村一つが滅んだんだよ。たったの一時間で。
逆に言うと一時間で俺は救出された。外の連中がその早さで村の異変に気がついたんだ。同時にその晩、隣の村の連中がほぼ全員王都に連行されていった。村って言うか集落だな。ギルドすらなかった。数十年前に急に流れてきた連中で作ったらしい、って俺の祖父母世代がよく言ってた。まあ俺はガキだったからよく分かってなかったけどな。
そこの連中が秘密裏に魔獣の研究をしてたらしいんだよ。集落とは別に、うちの村に近いところでデケェ研究所を構えてたらしい。それが原因で大量の凶暴化魔獣が発生してうちの村が餌食になった。政府は前から警戒はしていたけど研究所の場所が分からず踏み込めきれなかったんじゃないかって話だ。なんにせよ全員連れて行かれたよ。それが十八年前の話だ。
それで俺は王都の孤児院行き。一番食いっぱぐれない職に就きたかったからギルド職員になったわけだ。冒険者になろうとは思わなかったな。魔獣を退治するなんてまっぴら御免だし、なによりガキの頃からどうにも体が弱くてな。背も低いし、どう考えても戦闘には向かない。だからギルド職員を目指したわけだ。
前に統括官が見に来ただろ? あいつは学生時代からの同期で……ああ、ギルド職員ってのは専門の学校行かなきゃなれないんだよ。学費? 死に物狂いで勉強すればまあ、タダにもできる。で、あいつな。いいところのおぼっちゃんなんだよ。
王族貴族ってのも大変でな。政治派閥とかあるんだよ。お前内状分かるか? 分からないよなあ。本来なら俺ら庶民にはあんまり関係のない話だ。後継候補が直系男児優先なのは知ってるだろ? それも知らないか。男優先なんだよ。だから第二王妃が産んだ王子が第一後継者で、ここと現王に着いてるのが宰相であるブルスケッタ家と……ああ分かった。すまん。そんなに困った顔をするなよ。王と王子派、王女派の二つに分かれてるんだ。あいつの家は王女派だ。そんであいつは次男だから、家は継げない。だけど貴族としての矜持は持っている。
ギルドってのは国家機関だから、上部は王政とも深く結びついているんだ。だから田舎生まれの、それも廃村で孤児院出の俺なんか碌に出世できないんだよ。天井なんてたかが知れてる。別に俺としてはそれでもよかった。成り上がろうなんて考えちゃいない。寝るところと食うものに、残りの人生で困らなきゃいいと思ってたんだ。だけどあいつがなあ。
野心家なんだよ。次男で家は継げない分、中央のトップになるって張り切ってるんだ。一緒に上まで連れて行ってあげるからついておいで、なんてしょっちゅう言ってたな。昔の話だよ。実際、根回ししてくれてたらしい。三年くらい地方の、それも王都近くのギルドで現場の仕事をしたあと中央に呼ばれたよ。典型的な出世コースだな。あいつも一緒だ。
ただな、そこで気づいちまったんだよ。政府が秘密裏に魔獣の実験を行っていることに。
最初はな、王都付近と地方とでの凶暴化の差について調べてたんだよ。だけどそれに気がついたらもう、それどころじゃなかった。
当然末端の俺なんかに情報は開示されていない。だからもう、バレたら首が飛ぶようなことやって調べるしかなかったんだよ。一人でやるしかなかった。一介のギルド職員がそんなこと知ってどうするんだって話だし、なによりあいつを巻き込むわけにはいかない、って当時は思っていた。それでも調べずにはいられなかったんだ。未だに故郷の夢を見る。今も、昔もな。
ある程度解明したら話そうとは思っていたよ。でもなあ、調べれば調べるほどどうしていいか分からなかった。この研究、完全に王女派が抱え込んでたんだよ。あいつの家もばっちり中枢を担っていた。始まったのは今から十五年前、あの事件から三年くらい後だった。村の側で行われていた実験がなんだったのか、どれだけ調べても資料は見つからなかった。だけど未だ王都で行われているやつと同一の可能性は十二分にある。俺はそれが怖くて仕方がなかった。もしまたあの惨劇が繰り返されたら。しかも寂れた地方の村じゃなくて王都で。立場も考えずに恐怖心だけで突っ走ってたけどな、それも強制的に止められたんだよ、あいつに。
いきなりお偉いさんの執務室に呼び出されたと思ったら、会話したこともないような上層部数名とあいつが待っててな。
明日から来なくていい。来週からソルミラへ行け、だってよ。
別になにも言われなかったよ。これからは地方の治安維持にでも精力してくれ。それもギルド職員の重要な職務だ、だったかな。あいつなんて一言も発しなかったな。ただ、すごい目をしてた。道ばたのゴミでも見るような表情だったな。やってたことを考えれば首にならなかっただけすごい話なんだが。気づいたなら、直接俺に忠告してくれるもんだと思ってたよ。勝手にそう思ってただけだったな。
でも俺も馬鹿だったからさ。お偉いさんの前だからじゃないか、なんて思って、王都を出立する前日の晩に会いに行ったんだよ。変わらず蔑まれた。忘れないよあいつの第一声。何しに来たの? お前の顔見たくないんだけど、だったな。家柄も後ろ盾もない孤児に目を掛けてやってたのは何のためだと思ってたの? その分僕の言うことだけを素直に聞くと思ったからだよ。手を噛んでくるような飼い犬はいらないよ。一生田舎にいれば? って。びっくりしたよな、自分の甘さに。
それから当然、一度も会ってなかったのにここに来て急に……。
いや、違うよな。そんな話はどうでもいいか。
お前が知りたいのは、あのとき俺が調べて知った内容だな。すまん脱線しすぎた。
その名のとおり共生具ってのは、魔獣を大人しくさせるための道具だ。人間を含めた他の生き物に対して、極端に敵意を持たなくなる。本来肉食の魔獣すら他の生き物を襲わなくなるらしい。俺が盗み見た手紙が正しければな。
つけた魔獣に健康被害はないらしい。ただ肉食の魔獣は自力で餌が取れなくなるから、外では生きられない。
共生具についている石の出所だが、これは最後まで分からなかった。人工的に作られたものには見えないから、どこかから採掘してるんだろうけど。魔石って呼ばれていたな。ただ、色の違いとかも知らない。現物は数回しか見たことがなかったが、どれも、そこにいる魔獣たちと同じ緑色だった。お前についている赤いやつは初めて見た。
さっきも言ったとおり王女派が主導して行っている。研究所や実験場の場所までは特定できなかった。でも、なんだ。悪用しようという気配は見つからなかったよ。魔獣を大人しくさせる。そして将来的には家畜化させたい。その一点しか俺には見受けられなかったな。
でも見つけられなかっただけなんだろうなあ。だって実際、お前にこうしてつけられているんだから。俺が知っているのは小型の魔獣ばっかりだった。それも直接見たわけじゃない。正確な実態なんて掴めなかったよ。
で、最近はまあなんか共生化とか言ってるから、あれからもっと進んで成果も出てきているんだろうな。王都を離れてからのことはもっと分からねえよ。こんな辺鄙な田舎じゃあ、なんの情報も届かないからな。
王都に住んでる民間人のほうが今はもうよっぽど詳しいだろうよ。




