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ラディヴィータの伝説と、ソルミラの詩から。  作者: 荒間文寧


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3-2

 ギルドで飼育しようと思ったが「怖いから絶対中に入れないでください」とスコイアにきっぱり拒否されてしまった。当然の主張である。メラもセルペも反論できなかった。今の時期に山でうろちょろしていたのなら寒さにも強いのだろう。ギルド職員とセルペの四名で相談した結果、屋外でいいのでは、との結論になった。よって急遽ギルドの玄関前に柵を設置した。日中の世話はオルソが引き受けてくれた。とはいえ夜も野外放置では流石に都合が悪い。魔獣の生態もはっきりしていない上に、動物や魔獣が寄ってくる可能性すらある。とメラが懸念点を上げるとセルペがあっさり引き受けてくれた。ヴェルドが来た日同様、夜は自宅へ連れ帰ってくれるらしい。

 そんなわけで飼育開始から三週間が経過したが、未だ問題はゼロである。人に危害を加えたり、柵から脱走することもない。村唯一の飯屋で昼食をとったメラがギルドまで戻ると、ちょうど玄関口でオルソが魔獣に餌を与えているところだった。両手に器を持ったオルソが柵の中に入っていく。それに反応した魔獣は、彼の足下に駆け寄ったのち落ち着きなく見上げている。

「どんな感じだ?」とメラは柵の外から声をかけた。

「可愛いものですよ。噛みついたりもしませんし、俺のことを覚えたみたいです。自ら寄ってくるし撫でても平気な顔をしてます。冒険者時代に駆除してたことにちょっと罪悪感を覚え始めました」

 オルソがしゃがんで地面に器を置くと、魔獣は警戒も躊躇いもなくそこへ頭を突っ込み出す。ガツガツと食べる姿を眺めながら、オルソは「共生、いけるんじゃないですか」などと呟く始末だ。

 よくないなあ、と思うも口には出さず、メラは苦笑するに留めた。完全に情が湧いているらしい。一応釘は刺しておくべきだろう。「愛玩用に飼っているわけじゃないからな? あくまで研究対象だ。餌代だってかかるんだから、不要になったら飼育は中止する」

「この変な器具を外して山に返す、ってことです?」

「できそうならそうするけど、野生に戻れそうもなければ殺処分するしかないな」

「したら俺が引き取って飼います」

 だめだ、と即答してメラは首を振った。

「民間による魔獣の飼育は違法だ。中央発行の免許と魔獣一体ずつ個別の申請がいる。お前だって知ってるだろ」

「……そうですけど、それを言ったら現状がすでに違法じゃないですか」

「勝手に柵の中に入り込んでるだけだから、こいつらが」

「セルペが連れ帰っているのは」

「夜は勝手にセルペの家に入り込んでるだけだから、こいつらが」

 と言いながらメラは二匹の魔獣を指さす。その向こうでオルソは「うわあ」と呟きながら見下げるような表情をしていた。ダブルスタンダードであることはメラ自身も否定できない。

 こうして飼えるのはこの村にはわざわざ取り締まったり中央へ告げ口するような人がいないからだ。それも冬の間だけである。雪が解けたら外部の出入りもゼロではなくなる。そうすればこんなギルドの目の前で堂々と飼育などできない。

「最近は凶暴化も全然いませんし、こいつらも山で生きられるといいですね」

 そうだな、とメラは頷いておく。今冬の凶暴化魔獣の依頼は未だにゼロだ。冬眠している個体も当然いるが、それにしたって少なすぎる。ヴェルドがなにかしていったのか、それともセルペが毎日のように山に入っているせいだろうか。住人の目撃より彼が先回りしている可能性もある。抑止は大事だ。しかしギルドとしては、実態を把握できない上に案件が増えないので困ることもある。それから、冒険者に対する住人からの評価が変動する懸念もある。知らないところで抑えてしまうと、周囲からも功績が見えなくなってしまうのだ。

 じゃあ被害が出るまで放置するのが正解かと問われると、メラはそうは思わない。ギルド職員の中には、そうしろと平気で言い放つ輩もいるだろう。メラからしたら信じられない話だ。凶暴化魔獣による人的被害など一件でも少ない方がいい。今完封してしまうことで未来の被害が増える可能性を危惧しているに過ぎない。

 オルソは柵の中から一向に出る気配を見せず、メラは指先の冷えが限界を迎えたのでギルド内へ引っ込むことにした。所長室へ戻ろうとしたが、スコイアが「なんか中央から手紙が来てますよ」と引き留める。

「なんでしょうね、こんな時期にわざわざ山越えしてまで届けさせるなんて」

 差し出された手紙は一通のみである。確かに封筒はギルドが使用しているもので、中央のマークが押印されていた。訝しみながらもメラはそれを開封する。転勤辞令。書面上部に記載されたその文字を認識した瞬間、メラは目を見開いた。

 ソルミラ支部は異動者なしの通知が、九月の時点で送られてきたはずである。驚愕しながら必死で書面の文字を追うメラとは対照的に、スコイアはのんきに茶を啜っている。

「どうしたんです? そんなびっくりした顔して」

「移動命令だ」

「誰が」

「俺が」

「どこに?」

「……中央魔獣制技部」

 カップを置いたスコイアが「聞いたことないですよ、そんな部署」と呟く。メラも同様に聞いたことがない。おそらく新設されるのだろう。そして名称から察するに、共生化にまつわる部署で間違いない。一度は決まった来期の人事を覆し、メラを共生化関連部署にねじ込んだ奴がいる。そんなの一人しか思い当たらない。

「何考えてんだよ、あいつ」

「この間来た人ですか」

「他に誰がいるんだよ」

 ふざけるなよ、と嘆きながら辞令を握りしめるメラを余所に、スコイアはまた茶を啜りだした。

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