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ラディヴィータの伝説と、ソルミラの詩から。  作者: 荒間文寧


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14/44

3-1

 所長室に備え付けられた、年季の入った薪ストーブの前にしゃがみ込んだメラはひたすら「寒い、寒い」とごちる。十二月、本格的に冬が来た。ソルミラの冬はとにかく暗くて重い。冷たいを通り越して、痛い。

 家からギルドへ、ギルドから飯屋へ。その移動すらメラは億劫であった。とにかく室内から出たくない。そんなメラとは対照的に、セルペは前よりも熱心に山へ通うようになった。確かに初雪の日、雪を見るのは初めてだ、と言っていた。パトロールも兼ねて雪山に慣れようとしているようだ。地元の人たちからも雪山の危険性は散々聞かされたらしい。それを聞き漏らさずきちんと聞いて、理解し、そして自身で登りながらセルペは少しずつ豪雪地帯の雪山に適応しようとしていた。殊勝な心がけであり、メラからしてもそれはいいことであった。ただし無茶だけはしないように、と毎朝セルペに声をかけている。気をつけていようが、慣れていようが、一瞬の油断と判断ミスで命を持っていかれる。五年と少ししか住んでいないメラですら、あの山から帰らなかった人を何人か知っている。

 幸いなことに降雪後は凶暴化被害の報告はゼロである。冬になったらどうしよう、とギルドも住人も気にもんでいたが杞憂だったらしい。冬眠している魔獣も多いようだ。山が静かで、明らかに生き物が少ない、とセルペが語っていた。

 配達もこない、魔獣も暴れない。よってギルドは暇を持て余している。雪解けとともに中央ギルドへ送る書類を用意するくらいしかやることはない。メラはのんびり書類仕事をこなして過ごしていた。

 落日のころ、セルペはギルドへと戻ってきた。なぜだか手に二体の魔獣を提げている。なんで捕まえてきた? とメラが眉をひそめると、セルペは「こいつ、中央の偉い人が連れ帰ったやつだよ」とメラによく見せてくる。

「確かに同じ種だな」

「そうじゃなくて、同じ個体だよ。一晩面倒見てたから分かる」

 ほう、とメラは改めてそれを観察した。セルペは片手で、二体の後ろ足を纏めて鷲づかみしている。大きさはうさぎほどで、メラ側からは背しか見えない。淡い水色の毛皮には特徴的な模様もなく、メラには個体を判別することはできない。セルペの言うことが正しければ、ヴェルドがあの日、山で逃げられたか、もしくはわざと逃がしたかのどちらかだろう。

「でもなんか……変なのついてるんだよね」

 なんだろうねこれ、とセルペは険しい顔をする。メラは首を傾げつつ、魔獣をよく見るために近づいた。胸側、ちょうど心臓の部分に宝石のような緑色の石が輝いている。そこから黒い金属製の金具が六本のびて、魔獣に食い込んでいた。メラは「共生具だ」と呟いた。

「……きょうせい?」

 ああ、とメラは頷く。中央ギルドが何年も前から、それこそメラがまだ向こうにいたころから研究と開発を進めている魔獣用の器具だ。

「魔獣を大人しくして、家畜化するための器具だな。まだ公にはされていない」

「あいつらが着けたの?」

「それ以外にありえないな」

 メラにとっては因縁深い研究である。ヴェルドの思惑を読み取ろうと言わんばかりにメラは魔獣を凝視するが、当然それで分かることなどない。

「これ、なに? つけると具体的にどうなるの?」

「……悪いが、具体的には話せない」

 メラも詳細を正確に把握している訳ではない。ギルドが関わっていることは間違いないが、中央所属のなかでもごく一部しか詳しい情報は開示されていない。職員ですらない、一介の冒険者にべらべらしゃべるわけにはいかないのだ。ましてや先日、ヴェルドに大人しくしていろと釘を刺されたばかりである。

 魔獣を凝視するメラ、をじいっとセルペは見つめていたが、暫くして諦めたらしい。小さくため息をついて「じゃあこれだけ教えて? 俺はこいつをどうしたらいい? 山に戻していいの?」と尋ねてくる。そしてメラは即答ができなかった。共生具をつけた魔獣自体に害はないはずだ。山に戻したところでソルミラにもギルドにもデメリットはない。ないが、メラ個人としてはそのまま手放すのは惜しい。しかし元を辿れば間違いなくヴェルドの仕業であり、やつの息がかかっている以上、下手に手を出すのも怖いのが本音だ。

 一向に返事をしないメラにしびれを切らしたのか、セルペはもう一度小さくため息を吐いた。

「メラさんはどうしたいの」

「……飼いたい」

「じゃあ飼おっか」と、セルペは意外にもあっさり言った。

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