祝祭
「てかマジこれヤバくね?」
ヤバいと思う。
このギャルに全面同意だ。
私とギャルとその他数人の前に広がるのは、立ち入り禁止の看板が建てられたトンネル。
夜だから、当然トンネルの先は真っ暗なのだが、私にはわかる。
そういう問題じゃない。
ここはまずい。
「そんなことないっショ、みっちゃん。全然気配しないよ~」
今日の会の主催者の青年がそう言った。
みっちゃんと呼ばれたさきほどのギャルは顔を顰める。
「じゃあみんな行こっか~」
私とギャル以外の参加者はぞろぞろとトンネルに向かう。
今からでも逃げていいだろうか。
いや、駄目だ。私はもう逃げないと決めたのだ。
先生に貰った数珠のブレスレットをそっと撫でる。
私は意を決し、一歩踏み出した。
「全員死ぬぞ」
低い声でぼそりと、ギャルがそう呟いたのを私は聞いてしまった。
私は半泣きになりながら、それでもトンネルへ向かっていった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
私の名前は霜田優那。
ごく普通の女子高生……とは言い難い。
私は見えてはいけないものが見えてしまう、らしい。
死んだ人とか、この世のものとは思えない化け物、とか。
でも、見えるだけ。
そいつらが私に害を為すことはない。なぜか。
かと言って、そいつらが悪いものではないかというと、そうではない。
災いは私以外の人間にもたらされる。
両親は、私が首のない女の人を見た翌日、交通事故にあって死んだ。
二人の遺体はぐちゃぐちゃだったが、なぜか頭部がどこにもなかった。
その後私を引き取った祖父は、私が熊ほどもある大きな黒い犬を見たその日に野犬に食い殺されて死んだ。祖父を襲ったらしき野犬は結局見つからなかった。
同様のことが、仲良くしていた同級生らにも起こった。
私は他人と距離を取ることを決めた。
幸い、私のことを気味悪がった祖母は、私の面倒は見てくれるが、いないものとして扱ってくれたお陰か、まだ生きている。
そんなとき、街で「先生」に話し掛けられた。
「あなた、呪われてるわね」
「先生」は占い師で、かつ霊能力があった。
「先生」は年齢がよくわからなかった。母親ほどにも見えるし、私と大して変わらないようにも見えた。
「このブレスレットを付けて、よくないモノが集まる場所に行きなさい。そうすれば、よくないモノとあなたの呪いが反発しあって、消えるはずよ」
普通に考えれば、胡散臭いことこの上ない。
でも、私はもうそういうものに頼るしかなかった。
誰かと関わらずには生きていけない。でも、関わるとその人が死ぬ。
SNSで心霊スポットを訪ねる人間の募集を見つけた。
もちろん、全員見知らぬ人だ。
私の被害が行くのは、あくまで親しくした人、身近な人だから、その人たちには害を及ぼさないだろう。
最寄り駅で私たちは落ち合った。
集まった人たちは性別も年齢もバラバラだったが、大抵私よりは年上のようだった。
その中で一人目立ったのが、焼いたらしき褐色の肌に、ど派手な金髪、濃い目の化粧で、制服姿の少女だった。スカートの下は膝まであるジャージを履いていたのが、少しアンバランスだった。
「みっちゃんとハナコちゃんは未成年か~ うーん、困ったな……」
主催者と名乗った青年は、ギャルと私を交互に見て言った。ハナコは私のハンドルネームだ。
「あーし、19なんで平気っす。ちょっち留年しちゃって」
「あ、私も……」
嘘である。嘘だがギャルに便乗させて貰った。
ギャルはコイツマジかという顔で私を見たが、口には出さなかった。
「そっか~ ならいっか~」
青年は軽く言った。
そして私たちはトンネルの前まで来た。
私の後ろからギャルがトンネルに入る。
皆、持参した懐中電灯を付けた。ギャルは手ぶらだった。
「あの…… よかったら……」
「あーしは要らない」
一緒に懐中電灯を使おうと提案しようとしたが、提案前に断られた。
ギャルは苦手だ。
「みんな入ったね~ はい、ここが昔崩落事故で生き埋めになっちゃって死んだ人が沢山出るトンネルで~す」
青年の明るい声音の説明に場違いにも笑いが起こる。
私は笑ってはいられなかった。既に原型を留めていない人らしき形をした影が私たちの周りを蠢いている。
ギャルもつまらなさそうにしていた。この子、なんで参加してるんだろう。
「でもその犠牲の被害者ってバス一台分の乗客だけですよね? しかもガラガラで運転手含めて10人もいなかったって」
大学生らしき眼鏡をかけた女の人が言った。
「いや、多いだろ」
サラリーマンらしき男の人が反論する。
「世の中には何百人単位で死んだ人がいる心霊スポットもあるんですよ!」
「数が多ければ優れているのか?」
「はいはい、喧嘩しないで~ それにウニ子さんも安心してください」
主催者はにっこりと笑って、女子大生とサラリーマンに言った。
「ここで死んだ人は100人を超えてますよ」
「はあ? そんな話ネットのどこにもないんだけど」
「そりゃそうですよ。死人に口なし。これからのあなた方のように」
女子大生が「え」と声を上げてすぐ、彼女の顔が私のすぐ目の前に飛んで来た。そして、ぐしゃりと音を立てて地面に落ちた。
「ぎゃあっ!」
声がする方に懐中電灯をあてると、サラリーマンの手足があらぬ方向に曲げられていた。
周りの者たちも悲鳴を上げる。
その中で主催者だけが普通だった。
「よかったですね、あなたたちで108人になりますよ」
そう言ってから、主催者はゆっくりと私の方を向いた。
「今夜は大変特別な方もいらっしゃるから、ここもより賑やかになりそうですね」
「な、どういうこと……?」
「『先生』が紹介してくださった貴重な贄ということですよ、霜田優那さん」
主催者はにっこりと微笑んだ。
「ようこそ、我らの祝いの場へ」
「何……それ」
「あなたたちの死を寿ぐ祝いです」
主催者は嬉しそうに、言った。
ああ、美味い話はあるはずもないんだ。
主催者が私に近付く、周りは阿鼻叫喚の有り様だった。
私は凍り付いたように動けなかった。
そのとき、はあ、とため息が聞こえた。
「死ぬのはテメエだよ」
冷え冷えとした女の声が聞こえた。
そして、主催者は笑顔のまま、上半身だけが斜めに滑り落ちていった。
きらり、と何かが光った。主催者の下半身がぐらりと倒れた。
私は悲鳴を上げた。
「うるせえな」
声がした方を向くと、日本刀らしきものを手にしたギャルがいた。
「あなた、何して……」
「ゴミ掃除だよ。お前はとっとと外出な」
先ほどまでと違い、荒いぶっきらぼうな口調でギャルは言う。
ギャルは散歩でもするように軽い歩調でトンネルの奥に行った。
私は、逃げた。
私には、逃げることしか、やはり出来なかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
空が白み始めた。
トンネルの入り口で、私とギャルは突っ立っていた。
目の前では生き残った人たちが救急隊に治療を受けていた。
「何だったの、あれ……」
「アホどもを燃料にして盛り上がる別のアホどもだよ」
「……意味わかんない」
「お前も同じアホだしな」
「は?」
「てーか、いつまで付けてんの、それ」
ギャルはそう言うと、私の腕に付いたブレスレットを毟り取った。
そして、地面に叩きつけた。
「ちょ……」
「あーしは餌です、召し上がれ、って書いてあんぞ、それ」
私は「先生」に騙された、ということか。
「さいてい……」
「命があるだけマシじゃね? てかアンタ、面白いね」
「は?」
ギャルは楽しそうに口を大きく開けて笑った。
「特大に呪われていやがる」
それが私と三丈光の最悪な出会いだった。
刀一振りで戦う怪異退治の彼女に、私はこの先ハチャメチャに振り回されることとなる。




