006 一際眩しく輝く星
「え…、あのさ、今の話の流れの中で、どこがどうなってそうなった??」
「ん?」
「いや、"ん?"じゃなくて、」
しかし稑はそれを遮りさらに続けた。
「あ、前に詩帆さんは僕のことを、"もうすっかり家族になったね"って言ったけど、僕が言う"家族"っていうのは、章さんとあゆみさんだったり、迅さんと小百合さんだったり、そういう家族です。」
「え、それって家族?!どっちかっていうと夫婦じゃない…??」
「え、あ、うん。まぁ…、じゃあそういうことだね。」
「"じゃあそういうことだね"じゃないッ!!」
詩帆はピシャリと言い切った。そして何とか平静を心掛けて言った。
「あのね、気持ちは嬉しいけど、稑はまだ若いの。だからそういうことはまだこの先いくらでも、」
「何それ。いかにも大人が言いそうなことだね。」
「はぁッ?!だってそうでしょッ!?!」
詩帆の平静は秒で崩壊した。しかしここで張り合ったら自分も子供だと、詩帆は何とか平静を取り戻した。
「稑、あなたはまだ幼い。だから何も分かってない。この先、また新しい出会いはいくらでもある。そしていろいろなことを知るうちに、あの時はあんなことを言っていたと、今は過去になっていくの。いつか必ず、稑にもこれで良かったと思える時が来るよ。」
その直後だった。稑を見上げる詩帆の目線の先の夜空に、それはそれは一際眩しく輝く星が一瞬稑の背後を横切った。
「へッ?!」
それは夜空に背を向けていた稑でさえも、見つめる詩帆の瞳にその気配を感じるほどだった。
「えッ?!」
稑も思わず振り返り夜空を見上げた。
「…流れ、星…?」
「いや、今のはもうそんなレベルじゃなかったよ…。小惑星…?隕石衝突ッ?!?」
すでに稑の隣りに立ち上がっていた詩帆は、慌ててポケットからスマホを取り出すとリアルタイムで話題になっていないか検索し始めた。
「あれぇ…、おかしいな、全然何の反応もない…。さすがにあれだけ眩しい物体に誰も気付かないはずないでしょー…。」
詩帆は尚もスマホの画面に食いつき検索を続けていた。すると隣りから稑の声がした。
「詩帆さんに、僕の思いが届きますように。」
声のする方に振り向くと稑はおでこの前で手を組み目を閉じて、夜空に向かってそう祈っていた。
「ちょっと、何言ってんの?」
「え、願い事だよ。あんな立派な流れ星、絶対にご利益ありそう!!」
「…願い事って、叶うまで口にしちゃいけないんじゃなかったっけ?」
「いや、思いは声に出さないと伝わらないからね。それに僕は神頼みはしない。」
「いや、今めちゃくちゃしてたよ?ん?あれは星頼みか…?」
「あ!!!詩帆さん!!!」
「へッ?!今度は何?!」
「お願い!ここで少しだけ待ってて!!」
そう言うと稑はすっ飛ぶように突然テラスを出て行った。
「…何もぉ忙しいやっちゃなぁ…。」
半分呆れ、つい笑いが込み上げた詩帆は再びデッキチェアに腰を下ろした。稑は自分の部屋に向かっていた。
(あれ、そう言えばさっき、テラスのガラス戸が少し開いてたような…。ま、いっか!)
部屋に戻ると稑はラックに飾ってある写真立てのすぐ隣りにこれまでずっと置いてあった小さな紙袋を一心に掴むと、踵を返し再びテラスへと向かった。
「詩帆さん!」
呼ばれて振り向くと、少し息の上がった稑が何かを持って戻って来た。
「詩帆さん、ちょっとだけ、目を瞑ってて。」
「…えぇ。」
「いいから!お願い!!」
(お願い多いな…。)
若干気だるそうに、詩帆は渋々といった様子で目を閉じた。すると稑は、その小さな紙袋に入っているものを取り出しながら、詩帆の背後にゆっくりと近づき、そして膝立ちをした。稑の手に握られていたのはネックレスだった。稑は尚も目を瞑っている詩帆にそのネックレスを掛けようと、その両端を持った手を詩帆の頭の上に潜らせた。そしてゆっくり詩帆の方へと下げていったが、ネックレスがいよいよ詩帆に触れるか触れないかのところでその手はふと止まった。そのまま少し固まっていた稑だったが、考えた末そのネックレスは再び小さな紙袋に収めた。
「いいよ、目を開けて。」
詩帆は恐る恐る目を開いた。すると稑が、また膝をついて詩帆のことを見つめていた。
「これあげる。」
そう言うと稑は、その小さな紙袋ごと詩帆に手渡した。
「ん?ありがとう。でも、今日は稑の誕生日だけど。」
「うん、いいから開けてみて。」
詩帆は言われるがまま中に入っているものを取り出した。すると中からゴールドのか細いチェーンに一つの小さな八分音符が付いたネックレスが出てきた。
「さっき、稜太さんのことを聞いた直後で、ちょっと厚かましいなとも思ったんだけど…。でももし僕が今詩帆さんの一番傍にいるなら…、いや、僕はいつも詩帆さんのことを誰よりも思ってるってことを、詩帆さんにはいつも感じていてほしいから…。」
詩帆はあまりにもストレートな稑のアプローチに、もう言葉が見つからなかった。しかし、そこには稑の気持ちには応えられない詩帆がいた。
「稑…、あのね、」
"永遠に添い遂げることを誓うって、どんな気持ちなんだろう。どういうタイミングでそんなふうに決められるんだろう。私には、先の分からない未来を誓うだなんて…、無理だな。"
詩帆は今もその思いは変わらなかった。しかし稑のあまりにも真っ直ぐで、今は自身が抱く疑念など微塵もふるいに掛からないであろうその眼差しに、詩帆はその場で気持ちを伝えることはできなかった。
「そういうことだから。もう隠さないから、残りの共同生活、僕、頑張るからッ。」
「え、ちょ、頑張るって何を?!」
詩帆はつい身構えてしまったが、そんな詩帆などお構いなしに、稑は俄然やる気に満ちていた。そしてその場にすくっと立ち上がると再び力強く夜空を見上げた。
(あのネックレスは、今僕が付けても意味がない。詩帆さんが、自分で付けたいと思えるように、思ってもらえるように、そのために僕は、もっと頑張るッ!!)
「大丈夫!!今はマイナスじゃないッ!この瞬間がゼロだッ!!」
「は?何のこと?!」
「ふんすふんすッ!えいッ!えいッ!オーーー!!」
そう叫びながら両手を激しく高々と突き上げ稑は自分を鼓舞した。そんなあまりにもまっすぐ過ぎる稑に、詩帆は次第に微笑ましくなり気付くとクスッと笑っていた。
閑話 1
- 部屋に戻る2人 -
詩帆:「そう言えば、メンバーからの誕プレは結局何だったの?」
稑:「え?!あ、あれはまだぁ…、開けてない。」
詩帆:「開けてない?ふーん。」
(んなわけあるか。なんか怪しい。)
- 稑、自室にて -
稑:"みんな、詩帆さんの等身大抱き枕!どうもありがとう!!
勇:"おぅ。それ抱いて毎晩詩帆さんの夢でも見てろ。"
稑:"でも、これはすぐに見つかっちゃうよッ。それにもし見つかったら、きっと速攻燃やされちゃう…。お願い!誰か僕が一人暮らしするまで預かってて!!"
勇:"俺は断る。あんなんが部屋にあったら落ち着かない。"
蓮:"俺は美琴命だから。美琴以外の女人は立ち入りを禁ず。"
新:"重ッ。"
優:"ちなみに人じゃないからね、枕だからね。でも僕も彼女が嫌がるから無理だよ。"
新:"だよねー!というわけで僕が預かるよッ!"
稑:(もや…。)
"あ、ありがとう!でもやっぱりもうちょっと考える…!"
新:"え…。"
閑話 2 (黙ってられない人たち)
章:「稑、すまなかった…。」
稑:「え…?何がですが?」
章:「ジャブ、3連発も喰らわせて…、ごめんな…。」
稑:「章さん!!そんなこと全然気にしないでください!!確かにマネージャーの担当割は若干不服ですけど…、いや!嘘です!僕、新プロジェクト頑張りますッ!!」
あゆみ:「アウトレットじゃないわよ?」
詩帆:「稑の誕生日プレゼントは、アウトレットじゃないです。」
あゆみ:「うんうん、もうだいぶ前に私たちは用意してたよねー!」
詩帆:「ッんねーーー!!」
詩帆:"付けてますか?今日も。"
篠山:"はい、付けてます。今日も。"
秘書とマネージャー、似たもの同士に芽生えたささやかな交流。
蓮:(グッジョブ)
要:「蓮さん、ここはジェスチャーだけでは伝わりません。」
蓮:「これで伝わらないヤツは三つ星編で俺のエピソードを読め。」
要:「へ?俺のエピソード?」
蓮:「ep.27だ、言わせるな。」




