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今ここであなたと出会えたことは 本当の家族編  作者: 安田 木の葉


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009 綱引き

「え?は?ちょっと、何なのよ、これ。」

「え?」


 荷物を置き真っ先にラックへと向かい手紙を手にした稑が詩帆の声がする方へと振り向くと、詩帆はベッドの上にある自身が等身大に印刷された抱き枕とガッツリ対面していた。


(は!!しまったッ!!!)

「見ちゃダメェーーー!!!」


 稑はそこからものすごい勢いでベッドに向かうとそのままヘッドスライディングをしてその抱き枕を庇った。


「は?!?ちょ、ちょっと何してんのよやめてよ!!」


 詩帆はまるで自身に抱きつかれているかのような錯覚に陥り一気に平常心を失うと、自分も慌ててベッドにズカズカと上がり込み稑が必死に庇う背後から抱き枕を引き摺り出そうとした。


「ダメッ!やめて!!これは僕がみんなからもらった大事な大事な誕生日プレゼントなんだから!!」

「はぁ?!そっか、これが例の誕プレかッ!!通りでやたら嵩張ってたわけだ!って何本人に無許可で勝手にこんなん作ってんのよ!!どう考えたってアウトでしょーがッ!!離れろ稑ッ!没収だ!!没収ッ!!」


 やはり見つかった行く末は稑の想像通りだった。


「ダメダメ!!この2週間僕がギリギリ情緒を保てていたのはこれのおかげなんだから!」

「そんなん知るかッ!!これを易々と見過ごしたらこの先私の情緒が不安定真っしぐらだわッ!!」

「分かったッ。じゃあもう何もしない!何もしないから没収だけは勘弁して!」

「もう何もしない?!あんたこれで一体何してたのよ?!」

「え…、えっとぉ…。」

「はぁ?!もう即アウトッ。没収だ没収ッ!!!」


 詩帆は稑が考え事をしたその隙に一気にその抱き枕を引き摺り出すと、そのままドアまで駆け出した。


「待って!!今詩帆さんが持っていくのはそっちじゃなくてこっち!!」


 稑は慌てて手にしていた手紙をかざしながら追いかけた。


「あッ、そうだった、それが本来の目的だった。」


 一瞬詩帆の気が逸れた隙に、今度は稑が奪還を試みた。が、詩帆の切り替えの早さには敵わず、ドアを挟んで2人の抱き枕の綱引きが始まった。


「いい加減に放しなさい!!稑!!!」

「いや、それだけは絶対にイヤッ!!」

「稑ぅーーッ!!」


 すると奥の方から明の声がした。


「ちょっとぉ、何の騒ぎかと思ったらまたこの2人ぃ…?うるさくて宿題に集中できないんだけど。」


 そして今度は詩帆の背後の部屋から同じく光が顔を覗かせた。てるてるは最近ようやく1人部屋を与えられ、詩帆の向かいの部屋に明が、稑の向かいの部屋に光がそれぞれ生活を始めていた。


「明!ちょうどいいところに!お願い!!加勢して!!」

「え、やだ。面倒くさい。」

「分かったッ、じゃあもし無事確保できたら、明用に新のも注文してもらえるようにメンバーにお願いするから!!」

「うそ?!ほんと!!おぉっしゃあーーッ!!」


 すると明はものすごい勢いで詩帆のサポートに加わった。


「光!!あなたも見てないで手伝いなさい!!」(明)

「…、ウッザ。」


 この頃の光はもう幼い頃のかわいい面影はなくなっていた。


「ちょっと明ちゃんまで!ひどい!光君ッ、お願い!助けてッ!!」


 状況はやや詩帆寄りに有利になってきたが、黙って見届けていた光が怠そうにとぼとぼとその攻防戦が繰り広げられているすぐ目の前までやって来ると、ぼそっとひと言呟いた。


「じゃあこの抱き枕は僕が預かるよ。」

「へッ?!」


 光のあまりにも想定外の言葉に稑は驚き急に力を抜いてしまったため、詩帆と明は思い切り尻もちをついてしまった。


「いったぁ〜い。」

「明!大丈夫?!ちょっと稑!急に離したりしないでよ!!」


 しかし稑は固まったまま動かなくなっていた。そんな稑に、抱き枕を拾うと光はさらに追い討ちを掛けるように言った。


「何?僕如きに焦ってるの?」

(い、言い方…。)


 光は今まさに、まだ世の中を知らないとっきんとっきんだった頃の章[令和版]だった。詩帆は思わず当時の章が重なって見えた。


(な、なんか今光君の眼差しに一瞬章さんの血を感じたような…?!)


 一方稑もそんなことを感じながらも、詩帆の手に渡ってしまったらその後はいよいよ本当に燃やされてしまうかもしれないと思うと、ここは光に託すのが賢明に思えた。


「い、いえ、じゃあ僕がこの家を出るまで、よろしくお願いします…。」

「うん、分かった。」


 すると光はここぞとばかりにその抱き枕に顔をすり寄せぎゅうっと抱きしめた。


(ふ、複雑ッ…!!)


 詩帆も稑もこれで良かったのか悪かったのかいまいちスッキリしなかったが、とりあえずは一件落着ということで、どっと疲れた身体を引きずりながらそれぞれの部屋に引き上げていった。


「え、新の抱き枕は?!ちょっとぉーーー!!」




 翌朝7時過ぎ、羽田空港に向かうため詩帆は滝本家の車を運転しながら魂狼のメンバーたちが住むマンションまで向かった。蓮たちはすでにエントランスに待機していた。


「おはよー。」

「おはようございまぁす。」


 後部座席のスライドドアが開くと、中から稑がひょこっと顔を覗かせた。助手席には章も座っていた。


「よぉ、稑ッ。」(勇)

「おはよー。」(優)

「稑ッ!おはよーっす!!」(新)


 やんちゃ三人衆は稑に声を掛けながら乗り込むと、いつもの定位置である三列目に次々と座った。彼らはデビューから今に至っても未だに移動の時は極力このメンバーが最小単位となって行動していた。そして最後に助手席の後ろに蓮が乗り込んだ。


「おす。」

「うん。」

「もう、大丈夫なのか?」


"明日は予定通り移動から同行します。"


 昨夜稑からは、その一言だけ魂狼のグループチャットに流れた。表情も声色も分からないそのメッセージだけでは、メンバーたちは皆今稑がどんな状況なのか詳細を把握することはできなかった。なので皆平静を装いながらも、内心は少しそわそわと落ち着かなかった。そんな気配を感じ取り、稑は恐る恐る言った。


「うん…。…プラマイ…、ゼロです…。」


 報告の内容に恐縮しているのかとても控えめにそう答えた稑だったが、その顔はどこかはにかんでいて、昨日まで稑をギチギチに取り巻いていた邪気は一切の欠片もなく消え去っていた。


「ッは?何だよそれ!」


 蓮はそう答えた稑をけなしつつも、久々に見るまだ寝起きであどけない幼顔の、そのいかにも末っ子らしいいつもの稑を笑いながら嬉しそうにどついた。


「プラマイゼロってことはぁ、もう後はプラスでしかないよね、そうでしょ?蓮!」(新)

「おぉッ。」

「わーー稑!じゃあここからはもうガァーッと前に突き進むっきゃないねッ!!」


 そう言いながら新も嬉しそうに後ろから稑の肩を掴むとこれでもかというくらい前後にゆすった。


「ちょ、ちょっと!やめて!首がもげる!ちょ、新ッ!!」


 車内は一気にみんなの笑い声に包まれた。そして後続する誠の車に荷物を預け要と3人で簡単にミーティングを終わらせた詩帆が最後に運転席に乗り込んだ。


「よしッ。じゃ、出発するよー!!」

「うぃッ!」(勇)

「いざ!出陣ッ!!!」(新)

「ちょっとぉ、何そのテンション、今からそんなで大丈夫?!」

「大丈夫でーす!!!」(優)


 こうして満を持して、いよいよ大阪公演の本番を迎えようとしていた。






閑話


誠 : 「ったく何で蓮の荷物はいつも人一倍デカいんだよッ。んな重くはねぇけどよ。運送料別途請求すっぞッ。」


 移動の際の蓮、勇、優、新の荷物は、誠の車に載せている。蓮のバカップルアイテムは、今も健在だった。彼らの荷物は若干ぞんざいに扱われる中、詩帆から少しだけ預かる荷物は別枠で助手席に鎮座していた。


誠 : 「当然だろ!」

要 : 「え、僕何も言ってないよ…?」




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