009 一文無し
結局、一文無しだ。
ラークは公園のベンチにて寝転がりながら、タバコに火をつける。身体はガタガタだが、少し休憩したからか、はたまた……? ともかく、かろうじて動ける。
そして、煙に喉を犯され、ゲホゲホと咳き込む。
「タバコなんて、吸うモンじゃねぇな」
年齢と性別が違うのならば、それはもはや別人だ。いっそのこと禁煙してしまおうか。
そして、知育玩具でも買い与えられたかのように砂場で城を作る白髪の少女も同伴している。
最前の記憶が正しければ、この少女はラークの『妹』だ。
(放ってもおけないな。なぜか)
というわけで、
「ラキナ、帰るぞ」
「もう少し待ってよ。ロスト・エンジェルスの旗を掲げないと」
「別に良いが、それならおれはオマエ置いていくぞ?」
「せっかちだな~ラークは」
「オマエにおれのなにがわかるんだい?」
「妹だもん。全部だよ」
なかなかクレイジーな少女だ。一方的に妹と名乗ってきて、全部知っていると豪語する。
だからラークは、なんとなく聞いてみる。
「おれがきのう食ったものもわかるのか?」
「ガリアパン一個でしょ? 値段は2メニー。食べた時刻は夜の9時28分。2分で完食。お金がないから、それだけしか食べられなかった」
「子どもにストーカーされている場合でも、警察って動くのかね?」
完全に当てられた。しかも当人が覚えていない時間まで。
ラークはうつむき、意気消沈とした態度でもう一度タバコに火をつける。
「ラキナにとって唯一のお兄ちゃんなんだから、それくらい知ってないとダメでしょ。あと、未成年喫煙は良くないよ」
「中身が25歳でも?」
「だって買えなくなっちゃうもん。やめられるうちにやめなよ」
「それもそうだな……」
「ポイ捨てもダメだよ? DNAが悪用されちゃう。まあ、だいたいラキナが回収するんだけど」
「なあ。すっとぼけた態度でストーカー告白やめようぜ? 全く、今どきのガキは不思議だな」
「ねぇ、ラーク。欲求を我慢して良いことあるの?」
子どもは、時々簡単で難題な質問をしてくるから嫌いだ。
しかも欲求がラークをストーキングすることなのだから、いよいよ止められないかもしれない。
「そしてラークはませなさすぎ。美人系の幼女やってる自覚ある?」
「ねぇよ。身体がガキのころに戻っただけだ」
「服装もいい加減だし。元カノの服でしょ? 後生大事にとっておく必要ある?」
なお、ラークの服は元彼女のものである。小柄な女子だった。結局別れたが、こうやって忍びないと感じて捨てなかった服が、なぜだか役立っているのだ。
「別にどうでもよくないか? 野郎に好かれて良いことないし」
「女の子に好かれれば良いじゃん」
「女性の同性愛者は60人にひとり。そのなかから好みを選別するのは至難だ」
「ラキナはいつでも準備できてるけど」
「おれはロリコンなんかじゃない。誰がオマエみてぇなガキで勃つか……勃つものもないって思ったな?」
「うん。事実だからね」
悲しき我が人生。ひょっとしたら二度とこの姿から抜け出せないかもしれない。それはつまり、男性としてのラークの終焉なのだ。
そうやってラークは自身の持つ惨めさを嘆くように、吸い殻を携帯灰皿へ捨てた。
「悔しい、悔しすぎる……」
あまりにも忙しくて忘れていた。今のラークは幼女だ。誰がどう見たって美形の幼女だ。
そんな立派な美幼女は、その顔立ちと雰囲気に似合わず、頭を抱ぇてうつむく。
「まーまー。女の子も楽しいよ」
「なにをどうやって楽しいって感じるんだよッ!! 野郎の性欲集めて、発散できるものなんてないだろうが!!」
「変なこと言うね。お金払ってでも、ラークみたいになりたいヒトたくさんいるだろうに」




