004 ラークVSミク
ミクはたしかに美人だ。アジア系だろうか。
だが、血管が浮き出ていると台無しな気がする。
要するに、血液の流れを早くして、動きを俊敏にしているのだ。
「〝血液循環術式〟とでも名付ければ良いのか?」
「さぁな……!!」
再び空高く舞い上がるミク。やはり目では追えない。
そして、魔力がすり減っているのもわかる。
最前のような防衛がすこしずつ難しくなっていくだろう。
「かわいい顔踏み潰すのは悲しいが……仕方ねぇよな!?」
「……同情不要だ」
ことを優位に運ばせるのが魔力だ。それが切れてしまえば、優位どころかサヨナラだ。
ならばどうする、ラーク。
そのとき、金髪ロングヘアで濁りのない緑色の目をした少女は、的確に問題解決を行った。
話は簡単だ。自分に魔力がないのなら、誰かから拝借すれば良いのだ。
「……こりゃ驚いた」
只者ではないと思っていたが、まさかこの幼い少女にこれだけの才能があるとは思ってもなかった。
ジョニーは息を呑み込む。集中し、ラークの行動に干渉されないよう、片鱗を張っておく。
「──足りないものはかき集めれば良い」
ロスト・エンジェルスは神を否定し、オカルト的な文化も否定している。幽霊など存在しない、と断言するような国だ。
だからこそ、この光景は奇妙だった。白い幽霊のような現象が、ラークの身体へ集まってくるのだ。
「4つ目。片鱗は魔力も奪えるんだろう? 私の言っている意味がわかるか?」
「……けッ、知らねぇふりすりゃ、許してくれるのかい?」
ミクはややうろたえている。まさかこれほどとは、といった表情である。
「そして5つ目。抜き出した魔力は……」
気絶する者が20人ほどいれば、累計魔力も凄まじい。では、それらが全部銃弾のごとくミクを襲ったらどうなるか。
答える理由もない。つい最近クビになり、なにかの呪いで幼女となり、どん底まで突き落とされたラークは、ミクに背を向けて、手を挙げる。
「すべて操れる。『悪魔の片鱗』の本質は、すべての魔術の始祖であることだ」
大爆音が響き渡った。
ラークの攻撃とミクが交差するのは一瞬。
それですべて終わった。
「ジョニー。行こうか」
「ああ」
聖歌隊のようにきれいな声で、天使がささやくように、ラークはジョニーに命令を飛ばした。
ジョニーは人生悪いことばかりでもないことを知った。この幼女と一緒にいれば、天下をつかめるかもしれない。
「それで? これからどうするよ、ドン」
「オマエはメスガキに、『ドン』とか言って悲しくならねェの?」
マフィアの頭領をドンと呼ぶらしい。ロスト・エンジェルスにはあふれかえるほどマフィアがいるため、この単語も日常的に使われている。
「あんな片鱗見せられりゃ、夢見がちな男の子は辛れェぜ」
「男の子って年齢でもないだろ。年齢は?」
「24歳だけど?」
年下かよ、とラークは内心驚く。
そして他人に年齢を聞いておきながら、自分の歳をさらさないのも変だ。しかしこの見た目で25歳は無理しかない。どうしたものか。
「ドンはいくつなんだ?」
「あー、レディーに年齢聴くのは失礼だぞ?」
とりあえずそう返しておこう。
ジョニーはニコニコしながら「そうか」と返事する。
「さて、コイツをどうするよ」
ミクの処遇を決めなければならない。妙に男性ホルモンが多そうな見た目と顔つきをした、しかし女性らしい体型をした女の運命を。
「味方に引き入れる。戦力としちゃ上等だ」
「強ぇヤツほど、味方へ入れるのは難しいんだぜ?」
「上にいきたいのなら、それくらいクリアしないとな」
「ドンにはアイデアがあると?」
「ねェ。お、私が全知全能に見えるのかよ?」




