003 悪魔の片鱗
その金髪翠眼の幼女と、背丈の高い男前は笑みを浮かべる。これだけの人数に囲まれているのにも関わらず。
「おめェら!! 大義名分はこっちにあるぞ? 降伏するんなら今のうちだ!」
「誰が降伏なんてするか──!?」
ラークが主に使う術式は、いや、魔力量的にこれしか使えないのだが、非常に単純なものだ。
「──後方不注意」
速度を操る術式である。ただし、能力が設定できるのは移動のときだけ。ものに速度を注入したり、肉弾戦で速さを活かした攻撃したりできるわけではない。
だから、正直不安だった。ジョニーの語る『悪魔の片鱗』とやらを信じていないからだ。
しかし、その疑念は確信へと変わった。
「──!?」
拳の運び方は雑そのもの。不良学生の喧嘩と変わりない。足の運び方だって、いい加減なものだ。
だが、結果は見事であった。
グチャ!! という肉が溶ける音とともに、男の腹部がねじ曲がった。
魔力をまとったことで、この体重40キロにも満たない少女の拳はヒトを殺すための兵器へと変わり果てたのである。
「このガキがァ!!」
そしてジョニー。ラークは片鱗の使い方こそ冴えているが、それ以外はカラッキシなことに気が付き、咄嗟にテレポートでラークを狙う者との間に入り込む。
彼はどこからともなく拳銃を取り出す。服から取り出したわけではない。別次元から引っ張り出してきたかのようだ。
彼は迷いなく、二丁の拳銃で狂いなく敵性の足を撃っていく。
「戦争だな、こりゃ!!」ラークは邪悪な笑みを浮かべる。
「あしたの飯には困らんだろうさ!!」
あとは単純作業だ。ほとんどの者が足を撃たれたので、まともに立つこともできない。
だから、最後っ屁と言わんばかりに、なにかしらの術式が展開され、ラークへ放射された。
「危ねェッ!!」ジョニーが警告する。
だが、現実は非情であった。
ラークの身体へ魔術が着弾した瞬間、その攻撃は砂のように溶けていった。
「そうか……わかってきたぞ」
恐れを抱いたら、終焉を抱くのと同意義だ。
「〝悪魔の片鱗〟は3種類の効能がある。ひとつは魔力を身体のどこかへ集中させることで、触れた瞬間爆発みてーな現象を起こす」
ラークは勝利宣言も兼ねて語っていく。
「次に魔力を察知できる。魔力の動きを読めれば、ヒトの気配を感じ取れるわけだ」
少しずつ、消灯していくかのように、魔力が消えていく。
「最後。これはすげぇな。おそらくだが、相手の魔力が一定水準以下だと、どんな攻撃をしてこようが身体のどこかに当たれば砂みてーになる。雑魚がいくら攻撃しても、絶対に届かないわけだ」
新しいおもちゃを手に入れて喜ぶ子どものように、ラークは無邪気な笑みを浮かべていた。
「そういうことだな。だが、オマエだいぶ魔力消費したろ? メインディッシュの前に疲れてどうするんだ」
「オマエも片鱗使えるの?」
「オマエほどじゃねェけど、使えるぜ? だから言ったろ? 実力者だって」
「なるほど……」
裏路地とはいえ、白昼堂々と殺し合いをしたのだから、そろそろボスが現れるだろう。
「ミク、とか言っていたな。コイツら。能力わかる?」
「見りゃわかるだろ。美人が必ずしも、スマートな闘い方をするわけではないって」
そういったころには、殺気が訪れていた。
「よお!! あたしのシマ荒らしたの、オメェらかい!?」
目で捉えられない。
だが魔力は動いている。
彼女は必ずラークを狙うはずだ。首をへし折るために。
ラークは目をつむり、冷静に相手の動きを読む。
「そこかァ!!」
高いところからミクが現れた。ラークは猛り、邪悪な笑みを浮かべながら、ミクの蹴りを腕で防ぐ。
「悪魔の片鱗かぁ!? てめえ、やるなあ!」
手がヒリヒリと震える。しかし、ガードはできた。
「つい最近クビになったもので」
「くだらねえ嘘つくんじゃねえ! だったらこれはどういうことだよ?」
「どういうこととは、どういうことだよ?」
「ぶち殺す!!」




