012 うるせぇ、ワキガ
現状、ラークたちには頭脳がない。
手足があって武器まで持っているが、それをどこへ運ぶかを決める脳みそが足りないのだ。ジョニーやミクに妙案があるとも思えないし、ラークも同様である。
「ドンの部屋なんもねぇ。テレビすらねぇのかよ」
「テレビなんて高いもの買えないさ。こっちは金がないんだ」
「テレビくらいあたしが買ってやるよ。でも、そういうことじゃないんだろ?」
「なんだよ、ミク。気前良いな」
「オマエのことは嫌いだけど、オマエの顔立ちは大好きだ。胸に顔うずめて良いんなら、たいていのモンは買ってやるぞ?」
「ロリコンかよ……。しかも同性愛だし」ラークは若干距離を置く。
「幼い命はすべてを救うんだぞ? エロイ思いなんてねぇ。ただすべてをゆるしてもらいたいだけだ」
そんな性癖を聞いたあと、隣に座ろうなんて思う人間がいるのならば見てみたいものだ。ラークはミクから1番離れた場所に座り、スカートを抑える。
「さて……脳みそが腐り果てて食べごろのお二方。仲良くなれたのかい?」
「水と油は同居できんぜ、ドン」
「油はオマエのほうだけどな」
「うるせぇよ、ワキガ」
「あ?」
ファーストコンタクトからこんな感じなので、端から建設的な会話など期待してはいけないのかもしれない。
されど、ラークが勝ち上がっていくのにこのふたりは外せない。プライドがないような男と、鼻に〝つんと〟くるスパイシーな体臭を持つ女。……こう考えると、ラークの成り上がりは始まる前から終わっているようにも感じる。
「落ち着けよ。ジョニーはいきなり突っかかりすぎだし、ミクは体質もあるだろうが……うん、まあ、否めない。だから、あまり喧嘩するな」
ジョニーは「あいよ。ドン」と追撃を止める。ここで困るのはミクのほうだ。
「……あたしってワキガなん? ラーク」
「あー、まあ、うん、まぁ……」決して目をあわせない。
露骨にうつむく。
無理もない。女性に対して体臭を指摘できる者などそうはいない。同性である女性も、異性である男性も、繊細な問題がゆえになかなか切り出すことができない。少なくとも、ラークはそう思っている。
ましてやミクのプライドは高いだろうし、実際あれだけの部下をまとめる求心力と管理力はある。だからなおさら、ミクのメンタルは傷ついていくのだろう。
「ふふ……良いんだよ。そうさ、男なんてさらってやっちまえば良いんだ。なんなら腋の匂いだけ嗅がせながら犯してやる。あたしは強ぇんだから、それくらいできるさ……」
とても悲しいことを口走る。これにはさしものジョニーも、涙目になったミクへハンカチを差し出すほかなかった。
「すっごく虚しい会話聞こぇるけど、なんの話~?」
混沌を極める彼らへラキナが乱入してきた。この少女、わかっているのかわかっていないのかも分からない。
「……誰だ? ドン」
「妹だ」
「妹? それにしちゃ身長高くね?」
「最近の子は食べ盛りなのさ」はぐらかす。
「ヒトのことデブみたいに言わないでよ。ただラークの身長が低いだけなのに。あ、ラキナです。ラークとは前世『死がふたりを分かつまで』という関係でした」
ジョニーは怪訝な顔でラークを見据ぇる。こんなクレイジーな妹がいたのか、と言いたげな顔である。
「大嘘つくな、真実に聞こぇるだろうが」
「嘘じゃないもんね」
「嘘は何億回繰り返しても嘘のままだし、同時に空虚さがましていく。自分を傷つける真似したくなきゃ、くだらないことは口にするな」
「ノリわるいな~ラークは」
この間ラキナは表情筋を一切使っていないので、なんとも不気味な光景に見えるのだろう。
「……よ、幼女の声が聞こぇる」
「お、ロリコンが生気を取り戻したぞ?」ジョニーが嫌味を言う。
だが響かない。ミクはラキナへ夢遊病のように近づいていく。
「君かわいいな……。なあ、胸に顔当てて良いか? 呼吸が荒くなると思うけど、気にしなくて大丈夫だからさ……」
ミクの声質は割ときれいなので、そこまで変質者感はないが、台詞は変態のそれだ。
「良いよ~」
「ひぃーひゃおー!!」




