表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/11

第七章 風が吹く場所へ 〜 終章

それでは、物語は静かに終章へ――

別れではなく、風のような“再接続”としての別れを描きます。

 目を開けたとき、そこはもう祠の中だった。

 時間が経ったのか、まったく経っていないのか、それすらわからない。


 ただひとつ確かなのは、

 あの“空白”のような場所で起きたことが、夢でも幻でもないということだった。

 風の匂いが変わっていた。

 空気の粒子ひとつひとつに、誰かの“気配”が宿っている気がした。


 それからというもの、俺はまた丘へ通いはじめた。


 あの丘には何もない。

 古びたベンチと、少しだけ風の抜ける空。

 それでも、そこに座って空を見上げると、胸の奥がすこしだけ、静かになる。


 それで充分だった。


 誰かを想い続けることは、きっと、祈りに似ている。

 宗教的な意味ではない。

 もっと個人的で、生活に根ざした、ささやかな祈り。

 朝、窓を開けて風に挨拶するような。

 夜、灯りを消して名前を呼ぶような。

 そんな形で、人は記憶のなかの誰かと、生きていけるのかもしれない。


 風が吹くたびに、思う。


 アイリは、もうこの世界にはいない。

 でも、消えてしまったわけじゃない。

 失われたのでもない。

 ただ、“もう別の時間”にいるだけだ。


 そして俺たちは、その“別の時間”とすれ違いながら、

 ほんのときどき、風の音や、空の色や、夕焼けの匂いの中で、

 ほんの一瞬だけ、交差する。


 その一瞬を“再会”と呼ぶなら、

 俺は何度だって、風のなかに君を見つけるだろう。


 「また来るよ」


 丘の上、空に向かってそう呟く。


 風が答えた気がした。

 ささやかな音とともに、枝葉を揺らして。

 まるで、微笑んでいるように。


終章 ―そして、風はつづく―


 忘れない。

 どんな時も。

 きっと、そばにいるから。


 そう信じられることが、

 人が人として生きていくために必要な、“祈り”なのだと思う。


 風が吹く限り、

 俺は、君を探しつづけるだろう。

 君の記憶のなかで、

 そして、自分自身のなかで。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

このローファンタジー小説『風の記憶と翡翠の空』は、ここで終了となります。

次に登場人物紹介をしてから、もう少し詳しい個別エピソードを追加していく予定です。

もしよろしければ、次回もどうぞご一読くださいませ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ