表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/11

第一章 雨上がりの丘で

今回は、幻想と現実が曖昧に交差するような雰囲気のローファンタジー寄りの物語となります。

気に入っていただけたら幸いです。

 雨が上がった午後、俺は旧市街のはずれにある丘へ向かった。

 この街に帰ってくるのは、何年ぶりだろう。すっかり舗装された通りを歩きながら、それでもところどころ残る石畳の感触が、昔の記憶を引き寄せる。


 丘の上には、何もない。ベンチがひとつ、傾いたまま放置されているだけだ。

 けれどこの場所には、昔から「風が鳴く」という噂があった。俺とアイリが、最後に言葉を交わしたのも、ここだった気がする。


 そのとき、風が吹いた。


 ふと、あの声が聞こえた気がした。

 ――リュカ、と。

 だが振り返っても、誰もいない。

 ただ風だけが、午後の街を抜けて、音もなく流れていく。


 アイリがいなくなったのは十年前。

 正確には“失踪”という形だったが、警察も町の人間も、誰一人彼女を見つけることはできなかった。

 あのとき、俺はまだ十四歳だった。


 記憶は曖昧だ。

 けれど、アイリは“風の声を聞ける”と言っていた。まるで本気でそう信じているようだった。

 俺にだけ打ち明けてくれたその秘密は、当時の俺には、なぜか少し怖く感じられた。


 「……君を、守れる気がしたんだ」


 そんなことを言ったのは、俺の方だったはずなのに。

 守るどころか、何もできなかった。

 彼女は風のように消えて、俺だけが取り残された。


 今日この場所に来たのは、たまたまじゃない。

 古書店で見つけた、ある一冊の本がきっかけだった。『記憶の風と忘れられた門』――著者不詳、発行元不明。

 その本の中には、俺とアイリしか知りえないような言葉や、記憶にそっくりな場所の描写が書かれていた。


 そして、最終ページにはこう記されていた。


 > “風の門は、心の鍵によって開かれる”

 > “そのとき君は、記憶の狭間で彼女に出会うだろう”


 ありふれた都市伝説のようでいて、それが俺には妙にリアルに思えた。

 そして今、風が吹くたびに、胸の奥がざわめく。


 ――あの日、きちんと手を伸ばしていたなら。

 この風が、ただの自然現象でなければ。

 もう一度、彼女に会えるのなら。


 そんなふうに考えてしまうのは、きっと、大人になりきれなかった男の、未練なのだろう。


このような調子で、「幻想を現実が侵食してくる」ような世界観で進めていきます。

ファンタジー要素はじわじわとにじませていき、「風の門」や「記憶の狭間」は後半に初めて確信に変わる…そんな展開にしていく予定です。

次回は第2章「本の記憶と“風の門”の手がかり」です。

気に入っていただけたら、どうぞ次回もご一読ください。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ