修行開始 4
ダナーの全身に力がみなぎり、足元が大地をしっかりと捉えた。目の前に立つリーヒンドの姿が、まるで巨大な壁のように感じる。その壁に挑みかかるのは、今までの努力と学んだすべてを凝縮した一撃だ。
「お前がどれだけ強くなったか、見せてみろ。」
リーヒンドの言葉が耳に響き、ダナーはその一言で再び体が燃え上がる。これまでの試練や修行が、今まさに彼の中で形を取っていく瞬間だ。
「くっ!」
ダナーは気合を入れて踏み込み、リーヒンドに向かって剣を振る。だが、その速度は、リーヒンドの目にとっては遅く感じるほどだ。リーヒンドはその剣を軽やかにかわしながらも、まるでダナーの動きが予測できているかのような余裕を見せる。
ダナーの剣が虚空を切る瞬間、リーヒンドはその足音すらも消し去るように、すっとダナーの懐に入り込んだ。
「早い!」
ダナーは咄嗟に剣を横に振り、その動きを封じようとするが、リーヒンドはそれを予測して、すでに次の攻撃を放っていた。無駄のない動きで、リーヒンドはダナーの側面に立ち、刃をすり抜ける。
リーヒンドの剣が、ダナーの腰元をかすめる。その一瞬、ダナーは呼吸を止めた。わずかな差で、命が繋がっていることを実感する。
「っ……!」
ダナーは背後に跳び退き、リーヒンドとの間に距離を取る。雪が舞う中、リーヒンドはその姿勢を崩さず、静かに立っているだけだ。その眼差しは鋭く、ダナーの動きをじっと観察している。
だが、その目に焦りは一切見られない。まるで余裕すら感じさせるその姿勢に、ダナーは一瞬、心が萎えそうになった。
だが、それでもダナーは戦う。心の中で叫ぶように決意を固め、再び足を踏み込む。
「ハァァッ!」
ダナーは今度こそ全力でリーヒンドに突っ込む。彼の剣を信じ、リーヒンドの急所を狙って全力で振るう。風のように速い剣の切っ先が、リーヒンドの胸を目掛けて迫る。
リーヒンドはそれを静かに見つめ、剣を構える。その一瞬の間に、リーヒンドの体が異常な速さで動き、ダナーの攻撃を見事にかわした。
そのスピードは目に見えないほどで、ダナーはその動きを一瞬も見逃すことができなかった。
「くっ……!」
ダナーの攻撃が空を切り、次の瞬間、リーヒンドの剣がダナーの肩に食い込んだ。
「ぐあっ!」
ダナーは一歩後ろに下がるも、傷を負った肩を痛みが貫く。だが、その痛みも不思議なことに、ダナーの意識を冴えさせる効果をもたらす。痛みを感じることで、逆に冷静さを保とうとする自分がいる。
「まだ、まだだ……!」
ダナーは肩を押さえつつも、その傷を無視して再び突進する。リーヒンドの攻撃に対して、次は自分の剣が通る番だと信じている。
だが、リーヒンドは再びその姿勢を崩すことなく、スッと引き、ダナーの横をすり抜ける。ダナーが振るった剣は、空を切り、何も掴むことなく振り返ると、リーヒンドはすでに背後に立っている。
「はやっ……!」
ダナーは驚愕するが、すぐさま反応しようと足を踏み出す。その瞬間、リーヒンドの剣がダナーの前を横切り、再びダナーの体に傷を負わせた。
「っ…」
ダナーは背を向けてその場で転がり、起き上がると同時に、さらに速く、精度の高い反応を求めて前進する。リーヒンドはその動きに一瞬だけ注意を向けるが、目の前のダナーの攻撃を再度、難なく避ける。
リーヒンドはその動きの中で、ダナーの成長を感じていた。
「お前も、良い所まで来たな。」
その言葉は、ダナーにとって何よりの励みとなる。リーヒンドの言葉には、決して侮る気持ちや油断はない。むしろ、ダナーの挑戦に対する敬意が感じられた。
ダナーは痛みと疲れを感じながらも、再度力を振り絞り、リーヒンドに向かって突進を続ける。
「今度こそ、食らわせてやる…!」
ダナーは心の中でその言葉を繰り返し、リーヒンドに向かって最速の突進を決める。剣を構え、全身を駆け抜ける力を込める。
リーヒンドの表情が一瞬変わった。それは、ダナーの覚悟とその攻撃の速度に対して、少しでも警戒したかのように見えた。リーヒンドの目の中に、一筋の鋭い光が宿る。
ダナーはその光を感じ取り、思わず身体が反応する。
次の瞬間、彼の剣がリーヒンドの懐に届こうとする…
リーヒンドは目の前に現れた一瞬の光を見逃さなかった。その光景は、まるで過去の記憶が甦ったかのような感覚を彼に与える。
「この光は……!以前のッ!!」
その言葉が、リーヒンドの脳裏に過去の激闘を蘇らせる。あの時のダナーとアリステリアの決闘。ダナーが放った、凄まじい一振り。あれこそが、彼の限界を越える力を示した瞬間だ。その力を、今度はダナーがさらに強化して放つのか。リーヒンドの心の中で、警戒の鐘が鳴り響く。
「まさか、あの技を再現したのか……!」
ダナーの左腕が光を放ちながら、彼は言い放つ。
「"絶"!!!」
その一言に続いて、ダナーの剣は再び空気を切り裂くように前へと突き出された。その速度は、先程の攻撃を遥かに上回っていた。リーヒンドの目にも、ついにその一撃が見えるようになった。
(俺の読みはあっていた!やはりヤツの限界は近いからこそ絶で決めてきた!)
リーヒンドはその一撃に対して、すでに対応する準備を整え、反応を見せる。しかし、ダナーのその一撃は予想以上に速かった。
(カウンターで終わりだ!)
リーヒンドは完全にそのように思った。だが、その瞬間、目の前に映ったのは、突如として現れる短剣だった。
「と、投剣!?」
ダナーが使う技としては考えにくい。二刀流の使い手であり、剣を投げるような技を仕掛けてくるはずがない。しかし、それを考えていた自分が甘かった。ダナーはすでにその隙間を見逃さなかった。
(どこに……!?)
リーヒンドは驚き、動きが止まる。だが、その動揺はすぐに行動に移せるだけの時間を与えなかった。
「ここだ!"先生ッ"!!」
その声と共に、リーヒンドはダナーの放った投剣を目の前で感じ取ることができた。その動きの先にあったのは、予想もしない攻撃だった。
「!」
リーヒンドはその瞬間、思わず息を呑む。投げられた短剣は、あたかもダナーの新たな技のように空を舞い、その軌道はリーヒンドの視線を引き寄せる。彼が最も警戒していたはずの「次の一手」に、ダナーは予測を完全に超えた技を繰り出していた。
その左手から放たれた剣が、地面に落ちる間に、ダナーはすでに右手に持っていた短剣で一撃を決めていた。
(カウンターを読み投剣で相手の集中を剣に向けてカウンター姿勢で生ずる隙を狙われた……!)
リーヒンドの頭の中で、その戦術がピタリと合致する。今までの戦いで、どこかで感じていたダナーの成長が、ついに形になった瞬間だった。
(カウンター返しをぶっつけでやってくるとは……!)
その瞬間、リーヒンドは完全にダナーの手のひらの中に落ちていた。自分が今まで考えた通りの結果が、目の前で繰り広げられている。彼の目が大きく見開かれたその時、ダナーが叫ぶ。
「やった……!やったあぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」
その声が、戦いの終焉を告げるものとなる。
そして、ダナーはリーヒンドに勝利したのだ。戦いは終わり、ダナーの成長と努力が、今、確かに証明された瞬間だった。