修行開始3
修行期間は1年ですが、書くのがめんどくさいんでかなり省略してます。なんでってはよ、物語進めたいし。
リーヒンドとの特訓が続く中、季節がどんどん過ぎていき、気がつけば1年が経とうとしていた。最初は単純な基礎の繰り返しだったが、今ではもはやそれは決闘のようなものになっていた。リーヒンドが俺に向ける目は、最早単なる指導者のそれではなく、対等の戦士を見るような鋭さを帯びていた。
「ゼー…!ハァ……!ゼェ…ハー……つ、強すぎますって……!」
息を切らしながら、俺は自分の立ち位置を必死に守ろうとする。リーヒンドの攻撃は予測できても、どうしても間に合わない。動きが速すぎて、反応が追いつかない。
「いや、お前もかなり成長したもんだ。いくら手加減してるとはいえ、俺一応元帝国剣術学院の首席だからな?自信持ちな。」
リーヒンドが余裕の表情で笑う。だが、その笑顔に裏打ちされた確かな実力が、余計に悔しい。
「手加減とか言われたら凄い腹が立ちますね……!悔しい……!」
俺は歯を食いしばりながら、再度構えを取る。怒りと悔しさが湧き上がってくる。このままで終わりたくない。必ず、一撃を――!
「ま、その方がダナーらしいわな。さぁ、続きするぞ。ダナー。そろそろ俺にイッパツ食らわせてみろ。」
リーヒンドが言う。冷静に見えて、その目の奥には挑戦を促すような輝きが宿っている。
「クソーッ!今度こそっ!」
俺は一気に踏み込む。踏み切り足を使って、これまでよりも大きく弾み、リーヒンドの懐に飛び込んだ。しかし、リーヒンドはすでにその動きを読んでいるようだった。
「読んでるぞ。」
リーヒンドは冷静に後ろに飛び退き、俺の攻撃をかわす。だが、これだけでは終わらない。次の瞬間、俺はリーヒンドが予測する間合いをさらに縮め、無理やり攻撃を繰り出す。
「もう、少しだ……!」
俺の体力は限界に近いが、必死で剣を振り抜く。リーヒンドはそれをしっかりと受け止め、さらに反応を速くしている。
「ふん。だが、まだだな。」
リーヒンドの一撃が、俺の防御を突破する寸前まで来る。俺は瞬時に反応し、無理矢理にその攻撃を避けたが、今度は距離が取れない。リーヒンドの素早い動きが脳裏をよぎる。
「もう一歩か……!」
だが、その瞬間、リーヒンドが一歩後ろに下がった。その表情に、少しの余裕が浮かぶ。
「お前、やっと俺に届きそうなところまで来たな。」
その言葉に、俺の体が自然と力を抜く。
「え?」
驚きと同時に、俺はその意味を完全には理解できていなかった。だが、すぐにリーヒンドの言葉を反芻し、今の自分の成長を実感する。確かに、最初の頃とはまるで違う。
「1年、いや、それ以上に鍛え抜かれたからな、ダナー。」
リーヒンドはにっこりと笑いながら言う。その笑顔には、どこか誇りのようなものが込められていた。
「まだまだやれるはずだぞ。俺に勝って、剣王祭でその実力を見せてみろ。」
リーヒンドの言葉に、俺は胸の奥から込み上げてくる何かを感じた。
(……やれる。絶対にやってやる。)
心の中で誓う。
島の雪は淡く、白く静かに舞い降りる中、修行最終日を迎えた。空気は冷たく、肌に触れる雪の一片すら鋭く感じるほどだ。風も冷たく、ただ雪の中に佇んでいると、その冷たさがすべてを支配しているように感じられる。
リーヒンドが、無言で立っていた。いつもの師匠としての余裕を一切見せず、その瞳の奥には何かを決意したような、深い覚悟を秘めた表情が浮かんでいる。
「最後の日は修行なんかじゃない。」
リーヒンドが、静かに言ったその言葉に、ダナーは思わず目を見開く。
「これは勝負だ。」
その一言で、今までの訓練が全く別物であったことを感じ取った。ダナーは瞬時に理解する。今日の勝負は、ただの鍛錬ではない。今までのように、リーヒンドが優位に立っていることがない。いや、むしろ、何か違うものがそこにある。だが、その空気はかつてアリステリアと戦った時のものに似ていた。試合に臨む者の、死力を尽くす覚悟が漂っていた。
「勝負内容を説明しておこう。」
リーヒンドが冷静に続ける。
「ダナーが1発喰らわせたらお前の勝ちだ。だがその代わり……」
言葉の端々に無駄はない。ダナーはしっかりと聞き逃さないように耳を傾ける。
「俺もトレーニング、させてもらうぞ。」
その一言で、ダナーは今までに感じたことがない威圧感を感じる。今までの決闘形式の訓練は、彼にとってはウォーミングアップにすぎなかった。だが、今、リーヒンドが言ったその言葉には、明らかな覚悟と重みが乗っていた。
「どれほどの強さなのだろうか。本質が明らかになる。」
ダナーはそう思い、覚悟を決める。だが、同時にその不安が胸をよぎった。リーヒンドの全力が、どれほどのものなのか。試されるのは、今までの自分がどれだけ成長したかということだ。最終的な答えを出す瞬間が来た。
そして、勝負が始まった。
リーヒンドが一気に仕掛けてきた。
「"絶"。」
その一言と共に、リーヒンドが一瞬にしてダナーの前に現れた。
「え?」
ダナーはその動きに反応できなかった。目の前に現れたリーヒンドは、まるで瞬間移動したかのようなスピードで、ダナーの隙間を突いてきたのだ。何もかもが予想外で、頭が追いつかない。
「いつのまに……」
ダナーは呆然としながら、その動きに反応できずにいた。リーヒンドの攻撃が、見えた瞬間、ダナーはその衝撃を受ける前に、数十メートルも吹き飛ばされた。背中から地面に激しく叩きつけられ、息が止まりそうになる。
「言ったろ。これは俺のトレーニングでもある。だからお前の使う技、剣を使って戦ってやる。」
その言葉がダナーの耳に届いた時、体中に冷たい感覚が広がる。リーヒンドは、ただの指導者ではない。敵であり、仲間であり、何よりも真の強者だ。その強さに、ただ圧倒されるだけではいけない。
ダナーは起き上がり、震える手で剣を握る。リーヒンドは一歩も引かず、無表情で立っている。その視線は、今まで以上に鋭く、戦う者としての冷徹な決意を感じさせた。
「つまるところ、この戦いは……自分との戦いだ。」
その言葉が、ダナーの心に深く響く。
「そうだ、自分との戦い。」
ダナーは心の中で何度もその言葉を繰り返す。これまでの努力、修行のすべてが今、この瞬間に集約される。リーヒンドの言葉が、そのプレッシャーとなって圧し掛かるが、逆にそれを力に変える。ダナーは立ち上がり、今までで最も冷静に、自分の剣を構える。
そして、リーヒンドが一歩踏み込んだ。その足音が、雪の上で響く。
ダナーは、リーヒンドの動きに目を凝らす。リーヒンドの動きは、まるで時間が止まったかのように見えた。だが、それは錯覚ではない。リーヒンドのスピードが、ダナーの目に収められないほど速かった。
リーヒンドは、すでにダナーの懐に入り込んでいた。ダナーの剣が振るわれる前に、リーヒンドの一撃がダナーの胸に食い込む。
「ぐっ…!」
ダナーはその攻撃を必死で防ごうとするが、リーヒンドの力強さと鋭さには到底敵わない。だが、その一撃を受けても、ダナーはまだ諦めない。彼の心の中にあるのは、ただ一つ。自分がどれだけ強くなったのか、それを確かめるために。
「まだだ、ダナー!」
リーヒンドは、さらに圧倒的な力で攻撃を繰り出す。ダナーはその攻撃を受けながらも、必死で反撃を試みる。だが、リーヒンドのスピードは、それ以上に速く、ダナーの攻撃は完全に空振りとなる。
「くっ…!」
ダナーは息を切らしながら、もう一度立ち上がる。体は限界に近いが、心は燃えている。リーヒンドが見せる強さ、その中に隠された意味を理解するために、ダナーは戦い続ける。
「お前がどれだけ強くなったか、見せてみろ。」
リーヒンドの言葉が響き、ダナーの中に新たな力が湧き上がる。彼の攻撃が、今までのようにただの反応ではなく、意図を持ってリーヒンドに向かっていく。
「負けない……負けないんだ!」
ダナーは決意を込めて、再びリーヒンドに向かって突進する。