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Sword King  作者: ふんころ
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ヘナチョコ剣士と天才剣士

剣王と魔神の戦いは、数百年にわたる歴史の幕を下ろす最後の一戦となった。激闘の末、魔神が剣王を討ち取り、これによってすべての戦争が終わりを告げたと言い伝えられている。

剣王の最後の一撃は、彼の信念と魂のすべてを込めたものだった。それは彼自身の存在を超え、平和の礎を築くための象徴となった。そして、その時代の戦乱は終わり、人々は新たな時代へと歩みを進めていった。





西暦1192年、ラッセル島の少年






時は流れ、戦争が終わってから約500年。

この平和な時代、人々は戦乱の影を知らず、穏やかな生活を送っていた。その中でも特に静かで平和な超小規模の島「ラッセル島」。そこには地図にも載らないほどの小さな村があり、人々は日々の平穏を楽しんでいた。


島の片隅、草むらに横たわる一人の少年が目を覚ます。


「長い夢だったなぁ。まさか自分があの“剣王”になった夢を見るなんて。」


10歳の少年「ダナー」は昼寝の最中に、剣王として祭り上げられる夢を見ていた。彼が目覚めた島「ラッセル島」には、かつて剣王がこの島を救ったという伝説が語り継がれており、その影響で島の子どもたちは剣王に憧れる者が多い。


島の伝統では、「剣を極めることは己を極めること」として、子どもたちは木刀を持ち歩き、村の住人同士で決闘を申し込む文化が根付いている。もちろん、本物の剣ではないため、危険はないものの、勝負には真剣さが求められる。




「やい、ヘナチョコダナー!この俺と決闘だ!」


声をかけてきたのはダナーの同年代の少年、イェレス。彼はラッセル島で将来有望と噂される剣士の卵だ。島では誰もが彼の才能を認めており、逆にダナーは一度も勝利したことがない「ヘナチョコ」としてからかわれていた。


「なんだと!今度こそお前をぶちのめしてやる!イェレス!」


木刀を構え、勢いよくイェレスに向かっていくダナー。しかし、技術も力量もイェレスには遠く及ばない。


「どうしたダナー!もう疲れたのか!?」

「うるせぇ!イェレス!お前の膝も疲れて震えてんじゃねーのか?」

「ヘナチョコ相手に疲れる訳ねーだろバーカ!」


二人はお互いに言葉を投げ合いながらも、木刀を振るい続ける。イェレスの木刀さばきは見事なもので、ダナーの攻撃はことごとく弾かれてしまう。だが、それでもダナーは諦めることなく立ち向かっていく。





剣士としての約束


イェレスはどれだけ弱くても、ダナーの挑戦を受け続けていた。それには理由があった。

かつて二人は、共に剣王を目指し、「神と王の間」と呼ばれる剣王祭の闘技場で戦おうと約束していたのだ。


「コノヤロウ!!!」 「おら、そうやって剣より感情を優先するから太刀が甘くなるんだよ!言葉に惑わされるんじゃねぇ!」

「チクショウ…わーったよ!」


お互いに喧嘩腰ながらも、イェレスはダナーに剣術の基礎を教え続けている。イェレスにとって、ダナーは島でただ一人の親友であり、剣士としての成長を願う存在だった。一方、ダナーもまた、イェレスの助言を真剣に受け止め、弱さを克服しようと努力を続けていた。




ラッセル島は剣王の伝説を守り続けてきた島だ。

そして、その伝説に憧れる二人の少年は、今日も小さな木刀を手に互いに技を磨き合っている。


ダナーはまだ弱い。それでも、彼の瞳には諦めない強い光が宿っていた。いつの日か、「神と王の間」でイェレスと再び剣を交えるその日を夢見て、ダナーの挑戦はこれからも続いていく。


彼らの物語は、静かで平和な島から始まった。しかし、その先に何が待っているのかは、まだ誰にも分からない。


戦いの終わった世界でも、剣を通じた夢と絆は続いていくのだ。



運命の船来


いつものように特訓を続けるダナーとイェレス。二人の時間は穏やかに流れ、気づけば数ヶ月が経っていた。

しかし、その日――島の平穏を揺るがす出来事が突如として訪れた。



---


「大変だ! 島の向こうから巨大な船がやってきたぞ!」


村の若者が息を切らしながら知らせに駆け込む。その報せに、村中が騒然となった。

普段外部との交流がほとんどないラッセル島では、外からの訪問者は珍しいどころか、異例の出来事だった。


「超絶大きい船?」

ダナーとイェレスもその話を聞きつけ、剣を握りしめながら村の中心に向かった。



---


数十分後、船から降り立ったのは50人ほどの一団だった。その中心には、ひときわ背が高く堂々とした女性が立っていた。

彼女は美しい黒髪を背中に流し、見るからにただ者ではない雰囲気を漂わせている。長いコートをまとい、その腰には立派な剣が吊るされていた。


「この島で一番の剣士に用がある。」


女性のはっきりとした声が村全体に響き渡る。その場に集まった住民たちはざわめき、互いに顔を見合わせた。

そんな中、島の長であり剣士たちの統率者でもあるリーヒンドが前に出た。






リーヒンドは屈強な男だった。白髪交じりの短髪と鋭い目つき、鍛え抜かれた体躯が彼の威厳を物語っている。

彼は女性の前に立つと、静かに問いかけた。


「…この俺に何か用か? '校長先生' さんよ?」


その言葉に女性は眉をひそめ、一歩前に出た。彼女はリーヒンドの目をまっすぐに見据え、静かに言葉を紡いだ。


「すまない、リーヒンド。言い方が悪かった。訂正させてもらう。」


彼女は一度息を整えた後、再び宣言する。


「リーヒンド。この島で最も有望な剣士はどこだ?」


リーヒンドは少し考え込みながら、低い声で答える。


「……すぐに呼べ。近くにいるはずだ。」


その言葉を受け、リーヒンドの側近たちがすぐに動き出した。






その頃、イェレスとダナーはいつものように剣を交え、熱中していた。

特訓が終わりに近づき、息を切らしている二人のもとに、リーヒンドの使者が駆けつける。


「イェレス!村長が呼んでいる!」


「え?俺が?」

イェレスは驚きながらも木刀を置き、体についた土を払い落とした。


「何の用だよ?」


「わからんが、急げ。村長のもとにすぐ来るようにとのことだ。」


「…わかった。」

イェレスは顔を引き締めると、村の中心部に向かう準備をした。


「俺も行く!」

ダナーは慌ててついて行こうとする。イェレスは少し迷ったが、ダナーの真剣な表情を見て首を縦に振った。


「しょうがねぇな。来いよ、ダナー。」


こうして、二人はリーヒンドと謎の女性が待つ村の中心部へ向かった。





村の中心に到着すると、すでに住民たちが集まり、その場には異様な緊張感が漂っていた。

女性はイェレスが現れると、彼をじっと見つめる。そして、一歩近づくと口を開いた。


「君がこの島で最も有望な剣士、イェレスか。」


「…そうですが…あなたは?」

イェレスは女性を警戒しながら問い返した。


「私はアリステリア。帝国剣術学院の校長だ。」


その言葉に、村の住民たちは驚きの声を上げた。帝国剣術学院とは、剣士を育成するために設立された名門中の名門であり、島の住民たちにとっても憧れの存在だった。


「帝国剣術学院が…俺になんの用です?」


アリステリアはイェレスを見据えたまま答える。


「…首席卒業したリーヒンドの島に、10歳ながら天才と呼ばれる剣士が現れた、と聞いてな。」



「イェレス、といったかな。君は今から帝国剣術学院に特待生として入学してもらう」



イェレスはその言葉に固まる。そして、影に隠れるダナーもまた、自分の親友がこの島を離れるかもしれないという現実に動揺していた。






「胸を借りるつもりでやらせてもらいます。」

イェレスは真剣な表情で言ったが、アリステリア――校長は、にやりと笑いながら答えた。

「貸す胸なんかありゃしないよ、はっはっは!!!」

その自虐的な冗談に、リーヒンドが冷ややかに突っ込む。

「自虐ネタはやめとけ。」

その言葉を発した瞬間、リーヒンドは地面に埋まっていた。


そして、ついに決闘が始まった。



イェレスは、最初から全力で「千斬り」を使う覚悟を決めた。

「これが俺の全力だ!」

彼の剣は風を切り、疾風のようにアリステリアへと迫る。しかしアリステリアは冷静だ。彼女の表情は変わらず、まるですべてを見透かすような余裕が感じられた。


「素晴らしい剣筋だ、イェレス。」

校長は微笑みながら言ったが、その言葉には一切の褒め言葉だけでなく、鋭い挑戦的な響きも含まれていた。


だが、突然、アリステリアの雰囲気が一変する。

その場の空気が張りつめ、まるで周囲が彼女の動きに引き寄せられるような感覚がイェレスの体に走る。

「不思議な力を感じる……!」

イェレスは一瞬、動揺した。その時、アリステリアが無言で彼の前に現れ、"不可視の刃"が突然イェレスを貫いた。


イェレスはその刃に全く気づくことなく、無防備な状態で吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた。

「……っ!」

力の差を思い知らされ、イェレスは息を呑む。彼がどれだけ全力を尽くしても、アリステリアの存在そのものが圧倒的だった。




アリステリアは、イェレスの反応に満足そうに微笑みながら呟いた。

「特待生候補相手に、3%も力を使うなんて君が初めてだ!嬉しいよ!」

その言葉を聞いて、イェレスは驚き、目を見開いた。

「今のが……3%?」

声すら出なかった。信じられない。あの圧倒的な力が、たったの3%であったことに、イェレスは言葉を失う。




イェレスは悔しさと同時に、心の中に新たな目標を見つけた。これまで島の中で1番だと思っていた自分が、初めて本当に勝てない相手を目の前にしたのだ。

その表情は、悔しさと喜びが入り混じったものだった。

「でも……これで終わりじゃない。」

イェレスは、自分の中で何かが燃え上がるのを感じた。


その時、イェレスは思わず言葉を漏らす。

「あそこの影に隠れてるヘナチョコも見てやってくれませんか?」

イェレスが指差した先には、控えめに立つダナーと数人の野次馬がひっそりと見守っていた。



それを聞いた周囲の野次馬たちは猛反対を示した。

「待て待て!そんなことしたら、後で取り返しのつかないことになるぞ!」

「やめとけ、イェレス!」

と、次々に反対の声が上がる。しかし、ダナーはそんなことを気にせず、両手を広げて校長に向かって叫んだ。

「お願いしまーーす!」

その声には、まるで子供のように純粋な願いが込められていた。まさに「バカ丸出し」のお願いだが、ダナーにとってはこれが本気だった。


アリステリアはしばらく黙ってダナーを見つめ、やがて笑みを浮かべた。

「ふふ、分かったよ。仕方ないな、ちょっとだけね。」

そして、彼女はダナーのお願いを受け入れると、軽く手を振って影に隠れていた者たちを呼び寄せた。


その時、イェレスは心の中で誓う。

「次は、あの人に……!」

新たな目標を得たイェレスは、これから先の試練に向かって歩みを進めることとなった。







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