バーサーカー
「打開策が見つからないわね…。」ツキが苦々しく呟く。
片手剣を構え直しながら、目の前の異常な防御力を持つブラドーを見据えた。
「変に殺さないようにしてたら、まず攻撃が通らないじゃない!!」ニナもレイピアを握り締め、苛立ちを隠せない。
ツキとニナは協力し、正確な攻撃を仕掛け続けていたが、ブラドーの防御力は常識を超えていた。どんなに正確に、どんなに力強く攻撃を放っても、その硬さは彼女たちの攻撃を嘲笑うかのように跳ね返すばかりだった。
「もう、どうしろっていうのよ!」
苛立ちの中、ライトが片手で軽々と扱っていた大剣を肩に担ぎながら、静かに口を開いた。
「やるか。」
その一言に、ツキとニナは目を見開いた。
「ちょっと待って。何をするつもり?」ツキが問い詰めるように声を上げる。
「なに、こいつの防御力だ。ちょっくら痛い目に合ってもらうだけだ。」ライトの声は静かだが、その背後に隠れた力の片鱗が見え隠れする。
「時間を無駄にさせた報いって奴だ。」
その言葉に、ツキの背筋が凍りついた。目の前の少年が纏う雰囲気、その言葉遣い、そしてその力の予感――。
「似ている…。似すぎている…。流石は彼女(校長アリステリア)の義理の息子ね…。」ツキは心の中で呟いた。
その時、ライトの両手剣が突然輝きを放ち始めた。片手で軽々と扱っていた剣を、彼は初めて両手に持ち替える。
「見せてやるよ。俺の力をな。」
ライトの目が鋭く光り、その剣がさらに眩い光を放つ。その輝きは、まるで天から降り注ぐ聖なる光のようだった。
「"ジ・セイバー"。」
彼の口から放たれた言葉と同時に、両手剣がさらに輝きを増し、波動が周囲に広がった。その波動は地面を震わせ、空気を切り裂き、ブラドーへと一直線に向かっていった。
「……っ!」
波動をまともに受けたブラドーは、一瞬で防御が崩れ、その巨大な体がズタボロに削り取られる。その圧倒的な破壊力に、ツキとニナは言葉を失った。
ブラドーは怯えたように後ずさりすると、獣のような叫び声を上げながら、その場を去っていった。
静寂が訪れた。
ツキとニナは、ただそこに立ち尽くすライトを見つめていた。彼が放った力、その圧倒的な実力は、恐怖すら感じさせるものだった。
【こんな怪物を超えないといけないのか】
ツキとニナの心には、そんな思いが深く刻み込まれていた。
ライトは腕を組みながら、真剣な表情で2人に向かって言った。
「都市の中心部分に行かないか?」
ツキとニナは顔を見合わせ、しばらく黙った後、ツキが口を開いた。
「私達が戦っても無意味なんじゃ…?」
「そーよ。めんどくさいじゃない。」ニナも同意するように言った。二人の声には、少しの苛立ちと、戦いへの疲れが混じっている。
ライトは、少しだけ微笑んだ。「"俺達"の本来のバトルロワイヤルの意味ってなんだと思う?」
二人はその言葉に思わず顔を見合わせた。しばらく考えた後、ツキが答える。
「生存能力?」
「戦闘力?」ニナも続ける。
ライトは首を振った。どちらとも違うと。
「違うな。答えは簡単だ。あくまで、都市の中心部に集められた剣士たちだ。」
2人はその言葉に驚き、考え込みながらも、ライトの言葉の真意を測りかねていた。
「確定合格者って、すでに合格しているわけでしょ?」ツキが反応した。
ライトは頷きながら言葉を続ける。
「そうだが、このバトルロワイヤでの俺達の本当の目的は、剣士本来の力を見極めるためだよ。」
「え?」
「つまり、校長が本当にやりたかったのは人材の発掘、相手を見極めるための審査だ。君たちはそのためのサンプルにすぎない。」ライトの目が鋭くなる。
ツキとニナはそれを聞いて、やっと理解したように顔を見合わせる。
「でも、あたし達確定合格者でしょ?そんな事して意味ある?」ニナが呆れたように言った。
ライトは肩をすくめる。「馬鹿言え。この審査で確定合格者が異例の不合格になった前例もあるんだ。」
その言葉にツキは驚き、少し息を呑んだ。「そんなことが…?」
「だから、俺達が戦う事は無駄に等しいが、戦いそのものが無駄って訳じゃない。」
ニナは不満そうに口を尖らせながら言う。「でも、だからってわざわざ中心部に行く必要なんてないじゃん。だって、確定合格者ってことは、もうこれ以上の審査もないんでしょ?」
「だからこそ、だ。」ライトは冷静に答える。「合格してる者でも、今の自分がどう戦うか、どう反応するかを観察し、さらに上を目指すために訓練するんだ。あとは…」
ライトは一瞬だけ静まり、ニナとツキを見つめる。
「いかに気配に敏感な剣士に対して、どうやって気配を隠すか、っていう訓練にもなる。」
その言葉に、ツキとニナは思わず息を呑んだ。
「つまり、これはただの戦闘じゃない。実戦での冷静さ、機転、そして気配を隠す能力を試す場なんだ。君たちも、ここからが本番だって覚悟を決めろ。」
ツキとニナはそれぞれ深く頷いた。理解した。今の自分たちは、ただの実力を見せつける場所に立っているわけではない。それ以上のものを試されているのだ。
「行こう。」ライトが先に歩き出すと、ツキとニナもそれに続く。
そして、3人はバトルロワイヤルの最終舞台である都市の中心部に向けて、足を踏み入れた。