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#1 ようこそ狂気へ

このまま無事で行かせてくれ、とアレックスは思った。

外から何か話し声が聞こえている。

時々荒っぽい声も聞こえるので、その様子が余計に彼の不安を煽る。


アレックスの隠れている大型トラックの荷台スペースには、彼の他にも10人ほどが隠れていた。

荷台の扉の隙間からまばらに光が入ってくること以外は真っ暗で、顔は見えないがきっと他の人間も不安に思っていることだろう。


トラックには子連れの女性も乗っていた。

外ではまた怒鳴り声のようなものが聞こえ、今度は銃声が2発響いた。

隠れている女性の一人が軽い悲鳴を上げる。

それから他の者も次々口を開いた。


なんだ?

外はどうなってる?

軍の連中にバレたのか?


皆が不安を口にする中、一人の男が立ち上がった。


「このまま居てられるか!もう国境に近いんだから、俺は自分で逃げる。お前らもそうした方がいい。」


男はそう言って荷台の扉を開けた。

中に陽の光が入ってくる。

気候は乾燥していて、コンクリートのボロボロの道路の周りには薄緑色の草木がまばらに生えていた。

男はそのまま地面に飛び降り、走り出そうとした。

その瞬間、一発の銃声とともに男の頭から血が飛び散り、男が倒れた。

倒れた男の頭の周りに血溜まりができていた。

また悲鳴と動揺が広がる。


人間というのは、このような命の危機が迫っている状況では冷静な判断が出来ないものだ。

パニックになりその場から逃げようと、隠れていた人々は立ち上がり、次々と外へ走り出して行った。

「逃がすな!」という声が聞こえ、逃げる背中へデザート迷彩の戦闘服を来た兵士たちが銃弾を浴びせていた。


逃げる人々が次々倒れていく中でアレックスだけは外

へ行かなかった。

もっとも、このまま一緒になって逃げれば兵士たちに射殺されるのは分かっていたから、彼はとどまった。

しかし、どうすべきかここにきてアレックスは考えていた。


このまま隠れていては、兵士が多分荷台へ中を調べにやって来る。

見つかれば撃ち殺されるか、捕まって収容所へ送られるか、どうなるかわからないがとりあえず碌なことにならないのはあきらかだ。


AK-103を手に持った一人の兵士がこちらへ向かって来ていた。

暗闇でアレックスがいることはまだバレていないが、すぐにバレるだろう。

ついてないな、とアレックスは思った。


アメリカ人の彼は、ミャンマーとインドの間にある小国「ラサ」に旅行に来ていた。

ラサは元々情勢が不安定で、独裁体制を築いている現在のラサ政府とそれに反発する武装組織との間で内戦状態に陥っていた。


アレックスが帰国しようとしたタイミングで、出国禁止令がラサ政府から出されたのだ。

それはラサの国民だけではなく、アメリカ人の観光客とて対象外ではなかった。


そのような行動に出ればアメリカやその他の国との国際関係の悪化は避けられないが、ラサ政府はお構いましたと言った状況だった。


そんな状況で、アレックスは何とかラサを出ようと思い、密かにインドの方へ自分を運んでくれるというトラック運転手へ大金を払い運んでくれるよう依頼した。同じように密かに出国しようとする者たちも一緒だった。道は悪くトラックの乗り心地も最悪だったが、ここを出られるならそれでもいいとアレックスは思っていた。


しかし国境付近で警備にあたっていた兵士たちに見つかってしまった。

兵士が荷台へ足を乗せたタイミングで、また別の銃声が聞こえた。兵士は銃声の聞こえた方向を向き、「なんだ?」と言ってそちらへ移動した。

立て続けに銃声がなり、爆発音が一回響いた。

それからしばらくして銃声が止んだ。


アレックスが様子を見るために外に出ると、そこには先ほどの兵士たちの死体と、バラバラの格好をして56式自動歩槍などを持った軍とは違う兵士たちが、なにやら死体を漁っていた。

その兵士たちのリーダーと思しき人物がアレックスへ話しかけた。


「まだ生存者がいたのか。大丈夫か?」


アレックスに話しかけた男は、大きな傷があってどこか気品のある顔をしていた。

周囲を見ながらアレックスは答えた。


「ずっと隠れていたから大丈夫だ。それより、あんた達は誰なんだ?」


「俺たちはラサ人民解放軍だ。政府の圧政から国を解放するために戦ってる。俺はそのリーダーの、ダナンだ。お前、ラサの人間じゃないな?」


ダナンと名乗ったその男の質問に、アレックスはため息をつきながら答えた。


「そうだよ。俺はアメリカ人のアレックスだ。アンソニー·アレックス。それが俺の名前だ。観光中に出国禁止になって、こっそり帰ろうとしたらこれだ。ついてない」


その言葉に、ダナンは少し笑った。


「内戦中のラサに来ようだなんて、随分物好きなんだな」


アレックスは更に大きなため息をついた。


「人民解放軍ねえ。戦争はもううんざりなんだ。このまま行けば国境を越えられるか?」


「もちろん行けるぞ。兵士がウヨウヨいるけどな」


「はあ、くそ。どうすればいいんだ」


その言葉を聞いたダナンが思いついたように口を開い

た。


「俺たちが連れてってやれるぞ。軍も知らないルートを知ってる。でもそれには条件が···」


そう言いかけたところでトラックの裏から赤い信号弾が打ち上げられた。

それを見ていた解放軍の兵士が叫んだ。


「ダナン!一人生きてやがった!援軍を呼ばれたぞ!」


ダナンは叫んだ兵士の方向を向いて、ため息をつきながら答えた。


「クソ。兵士が来るぞ!全員戦闘の準備だ!車はどこだ?」


「あと8分ほどで到着です!」


「そんなんじゃ軍が先にこっちへ着くな」


そう言いながらダナンは軍の兵士の死体から奪った

AK-103とその弾倉を一つアレックスに投げ渡した。


「また兵士が来るぞ。お前、銃は使えるか?」


「ここに来る前はアメリカ陸軍にいたから、問題ない」


「頼もしいな。じゃ、車が来るまで耐えるぞ」


「分かった」


少し経つと、正面から3台の輸送トラックがこちらへ向かってきているのが分かった。

3台の車両はアレックスたちのいる場所に向かってきて、30メートルほどの距離で道路を塞ぐように停車し、次々と兵士を吐き出している。

軍の兵士はバラバラに分かれ、車両に隠れながら解放軍の兵士へ撃って来ていた。

身を隠していたトラックに弾が当たり、金属と金属がぶつかる甲高い音がなった。


「撃ち返せ!車が来るまで耐えろ!」


ダナンがそう叫び、解放軍の兵士たちも各々軍に向かって発砲し出した。

アレックスは持っていたAK-103を構え、別の方向へ撃って体を出していた兵士の体へ数発撃った。

アレックスが撃つタイミングで兵士はアレックスに気がついたが、撃ち返す暇もなく胸に銃弾を浴びて倒れた。


直後に頭を銃弾がかすめてアレックスは慌ててトラックの裏に身を隠した。

アレックスを撃っていた兵士に気付いたダナンがすかさずその兵士へ連射すると、その兵士は倒れ込んだ。


「やったぞ!アレックス!」


ダナンが叫んだ。

更に二人の兵士が並んでこちらへ移動してくるのが見え、ダナンはその兵士へ向かって弾倉の残りの弾丸をフルオートで撃ち込んだ。

前にいた敵が足から胸にかけて銃弾を受け、血を吐いて倒れた。


ダナンが急いで弾倉を交換しようとすると、さっき倒した敵の後ろにいた兵士がダナンの方へ銃口を構えていた。


ダナンがまずいと思ったその瞬間、銃口を向けていた兵士の頭を2発の弾丸が貫いた。

アレックスの射撃だった。

ダナンは笑いながら声をかけた。


「いい腕だ」


「そっちこそ」


また更に兵士の一団が左右に別れてこちらへ射撃しながら迫っていた。

ダナンの隣にいた解放軍の兵士が一人、頭と腹に銃弾を受けて倒れた。


「クソっ、一人やられた!」


「ダナン。敵を片付けるから、ちょっと援護してくれ」


アレックスはそう言って、右側の兵士たちの所へ飛び出す。それと同時に連射して、素早く二人の敵を倒す。そのまま敵の目の前で伏せる。

後ろからダナンの援護射撃が飛んできて、敵が倒れた。


アレックスは死体の裏に身を隠し、兵士の死体のベルトから破片手榴弾を取り出した。

ピンを抜いて起き上がり、敵の車両の方へ投げる。

コンクリートの道路に手榴弾があたるカツンという音がして、それから兵士たちの叫び声が聞こえた。

数秒後に爆発音がして、車両の裏に倒れた兵士が数人見えた。


立ち上がってトラックの裏に戻ろうとすると、アレックスの肩に突然熱と、次に激痛が走った。

アレックスはそのままバランスを崩した。

1話目です。

暇がある時に書きます。

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