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蛙化

作者: 雉白書屋

 とあるお笑い芸人。彼は若手ながら飛ぶ鳥を落とす勢いで売れに売れた。最近は落ち着いたが、それは飽きられたのではなく安定期に入ったということ。その証拠にレギュラー番組をいくつか抱えている。順調そのものであった……が、そんな時だった。


「これ……」


 マンションの部屋にて、テーブルの上にある週刊誌を見下ろす彼。その顔は険しい。そう、スキャンダル記事だ。彼は彼女と同棲中と、週刊誌にすっぱ抜かれたのだ。

 若い女が主な支持層なだけに手痛いが、彼が今、気にしているのはそのことではない。


「芋丘ブバミ似の彼女……?」


 いや、わかる。○○似の彼女とデート! とか、交際相手が一般人である場合、そう記事に書かれることは知っている。だが、その場合、美人女優や女性タレントの名で書かれたりするものだ。

 それがこの『芋丘ブバミ』……まったく知らない名。いや、ふざけすぎだ。親はどういう気持ちで付けた。そもそも女なのだろうか。そう考えた彼はすぐにネット検索。そして、それがとある漫画の登場人物だと知り、名前の件は一応納得した。が……


「似て……るか?」


 記事にはやたら『激似!』『驚愕!』『実写化決定!』など記者の興奮具合が覗えるほどにやたら似ていることが強調されていた。

 むしろ、そっちのほうがメインなのではないかというほど。悪意はそれほど感じられず、まるで新種のそれも珍獣発見といった風。

 尤も、その漫画キャラが美人であるならば問題ない。むしろ大歓迎。喜ぶべきところだが……


「ブタとゴリラ……それに……なんやっけあれ……」


 まるで、いくつかの動物を組み合わせて作った未確認生物の死骸。平たく言えばとんでもないブサイクであった。おまけに性格が良いわけでもないし、男であった。


「こんなの……いいんか?」


 無論、漫画家に罪はない。そういう役回りのキャラを作っただけのこと。しかし、これと似ているというのは明らかな侮辱。尤も、相手が一般人ということで記事の写真にはモザイクがかけられているが、それがなんだというのだ。むしろ読んだ者が勝手に想像するだろうその酷い顔を。

 そしてなにより、この記事を目にした彼女がどう思うか……。


「もー! やだもー! 結婚間近か! ですってもー!」


「いや、喜んでるんかーい! もーもーって、牛も混じってんのかお前!」


 と、笑い合う二人。彼はホッとした。彼女はどうやら気にしていない様子。当然だ。そもそも似てない。彼女は美人。そしてそんな自分に絶対的な自信があるのだろう。そういうところも彼は好きで……好き……す……


「あれ……?」


 美人……か? 


 ソファーの隣に座り、むほほほほ、と笑う彼女をじっと見つめ、彼はそう思った。

 いや、今夜はほら、化粧をしていないだけだ。出歩くときはちゃんとするし、まあ、いつも家でゴロゴロしてるみたいだから最近は全然だけど、でもその割に体型は……


「いや、太ってるやん!」


「えー? なに急にっ」


「いや、ポーズ決めてるけどハニワみたいやん! なんやそれ!」


「ねえ、しってる? ハニワってぇ、昔の人が宇宙人を見て作ったものらしいよー」


「知らんわ! そんなどこぞの雑誌のオカルト記事を真に受けんなや!」


「もーっ、何怒ってるのよっ。そんなんじゃ私がせっかく集めた宇宙の波動が逃げちゃうわよっ」


「お前はその集めた脂肪を発散しろや! えー、なんやこれぇ……なんでこの記事みた途端こんな気持ちになるんや……これがあれか? 最近よく言われている……あれ……なんやっけ……いや、なんやこの引っ掛かりは……彼女は美人な……はず……いや……違う……のか……?」


「ねえ、あなた、さっき雑誌の記事を真に受けるなって言ったわよね?」


「……え、おお。言ったけど?」


「そういうことよあなた。Q・E・D」


「いや、何やそのしたり顔! 全然納得できへんわ! お前はU・M・A!」


「もぉー。しょうがない人ねぇ……」


「もう、頭が変になりそうやわ……なあ、悪いけど今夜はどっか行っててくれん? 一人でじっくり考えたいわ……。今後の俺らのこととか、あ、あ、う、う」


「そうよ、この輪をよーく見つめて。その奥の私の目をジッと見るの。そうよ、そう、この音楽に身を委ねて。リラックスリラックス……私は美人でしょう? キスしたいでしょう? 結婚したいでしょう?」


 ああ……そうだ……あと何に似ているか……わかった……カエル……か……。

 

 心の引っ掛かりが取れた彼。まるで無重力。浮かぶような感覚に身を委ね、迫る唇も何もかも再び受け入れたのだった。

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