ひと仕事を終えて王都へ帰ろう
俺の召喚獣の正体を調べるために、領都の教会で数日ほど足止めをくらった。
「ケットシー」という幻の魔獣ではないか? と推察されたが、現在では絶滅しており確認ができず、似たような魔獣も存在しなかった。
極めつけは、この謎の召喚獣にはまったく魔力がなく魔法属性もないという衝撃の事実に、神官たちは打ちのめされた。
ようやくどこからか高名な爺さん、いや大神官様が来て、その爺さんの召喚獣ホーリーオウルの鑑定眼で見てもらったところ、俺の召喚獣は「猫」と判断された。
特に能力のない「猫」という生き物で、召喚主である俺の役に立つことはない。
この決定がされるまでの間、俺は何度も召喚の儀式を行い、その度に不発だったことを考えれば、この「猫」が間違いなく俺の召喚獣なのであろう。
ただの無力な小さな生き物が。
とっても憐れんだ神官たちの目と蔑むような家族の顔に俺は……俺は……、心に傷を負うなんてことがちっともこれっぽっちもなかった。
だって、とってもかわいいんだもーん。
俺の召喚獣に「にゃん太郎」という天からの啓示かと思う勢いで名づけを行い、その日から下僕のように尽くした。
結果、成人もしたし役に立たないし、家を出ていけということになったんだか、後悔はしていない!
それなりに地位のある貴族の家だからか、無一文で放り出すことはせず、十分な支度金と荷物、そして王都での家を与えてもらった。
まあ、成人まで育ててもらった恩と放逐する非道で、実家との関係はキレイに清算できたと思っている。
これからはにゃん太郎と俺と二人で楽しくのんびり生きていこう! て呑気に考えていたんだよなぁ。
そもそも召喚獣が魔法を使えなかったら、その主の俺も使えないのに。
俺……辺境伯の三男坊リュカ・ベトラルッチ、今はソロ冒険者のリュカの魔力量は王族並みの多さだっていうのに、トホホ、宝の持ち腐れだよ。
「にゃあん」
「はいはい。朝ごはんだよな。まずは水。それから、蒸した野菜の上に干した魚をほぐして。おまけにソーセージだ」
ピチャピチャと水で喉を潤したあと、にゃん太郎はハグハグと浅い器に顔を突っ込んで朝メシを食べ始めた。
後ろでは俺が作った朝ごはんをモリモリと食べているむさい冒険者たちがいる。
流石に十日近くダンジョンに潜っていれば、どこか汚れてくるものだ。
一応、生活魔法の「クリーン」はかけているけどね。
「リュカ。今日はこのままボス部屋にアタックしたら転移陣で外に出る」
「ほいほい。荷物はどうする? そのままギルドに立ち寄るか?」
そこそこ人の出入りが多いダンジョンには近くに冒険者用の集落ができ、屋台や簡易宿、冒険者ギルドの出張所などがある。
「うーん、いや。そのまま王都へ戻る。悪いが分け前は王都のギルドで頼む」
「あいよ」
俺のウエストポーチ型マジックバッグは容量が馬車三台分の時間経過が十分の一と思われている。
だからリーダーは預けている荷物の鮮度が落ちないうちに王都へ戻りたいのだろう。
ここで獲物を配分してしまったら、王都までに素材の質が悪くなるものもあるからな。
ギルドの出張所で買取を頼むと相場よりやや安くなるし、こんな所で大金を手に入れたら同じ冒険者仲間でも夜道には気をつけなくてはいけない。
俺もどうせ王都に帰るし、こいつらと一緒に帰りましょうか。
「なぁ~ん」
「お、ごちそうさまかな? よしよし」
ペロペロと前足を舐めて顔をこするにゃん太郎の顎あたりを擽るように撫でて、俺は出発支度を始めるのだった。
馬車に揺られて王都まで帰る間は、俺の仕事はほぼない。
ただの同乗者である。
できることがないからね。
リーダーの召喚獣の熊は馬車と併走して護衛してくれているし、魔法使いの召喚獣の風妖精は馬車の走りを助けてくれる。
俺の召喚獣は……うん、みんなに愛嬌を振りまいて場を和ませているね!
ちゃんとメシ作りと夜の見張り番はしています。
ただ、街道で出くわす魔物と盗賊の対処ができずに、馬車の中でブルブルとにゃん太郎を抱いて震えるだけですけど。
「やぁぁ、かわいいわ! にゃん太郎」
魔法使いが人差し指をにゃん太郎の顔に近づけると、不思議そうに目を丸くして顔をフンフンと指に近づけるにゃん太郎。
俺はニコニコ顔で見守っている。
今日も、俺のにゃん太郎がかわいい!
たまに、召喚獣のにゃん太郎を金持ちの愛玩物として売るように勧めてくる奴がいる。
誰が売るか! バカなの?
にゃん太郎は最早、俺の家族、相棒、半身。
失ったら生きてはいけないのだ!
まあ、王都に来てからしばらくはそういう誘いがうるさかった時期もあったが、三年も経てば静かになるものである。
うむ、そろそろ王都に着くぞーっ。
帰ったら風呂に入ってエールでも飲みたいなぁ。




