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片腕の聖女  作者: 月森冬夜


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5.5 死者之書

「まあ、あったわ」


 ココが桟橋に行くと、ひと抱えもありそうな木箱が置いてあった。

 いつもどおり、隅にうずまきのマークがある。ブッシュ・ド・ノエルからの差し入れだった。


「お菓子も入ってる。うれしい!」


 ナタ・デ・ココが追放されて一年。

 三、四か月に一度は木箱があった。

 森での暮らしはぎりぎりなんとかやっていけていた。ノエルの支援も大きい。

 甘い菓子類はご馳走である反面、人里を思い出してさびしくなる薬でもあった。




 膝をついて木箱の中身を見ていると、ふと、寒気を感じて、ココは身体をブルッと震わせた。

 肩を抱いてあたりを見まわす。

 すると、なにやらやかましい音を立てて、見たことのない生物が二体、空を飛んできた。それに人のようなものが乗っている。

 向こうもココに気づいたようで降りてきた。

 桟橋の上はせまいのでひとりだけ降りてもう一方は着水した。


「こんにちは」


 桟橋に降りたほうが言った。少女だった。年は十代半ばくらいで、輝くセミロングの金髪と、聡明そうなエメラルドグリーンの瞳が印象的だ。

 もうひとりは長身の男のようだ。ようだというのは、黄色い衣をすっぽりとかぶっているので顔もよくわからないからだ。


「こんなところでなにをしているの?」


「……」


 ココはとまどっていた。異形の生物と男があまりに邪悪な雰囲気をまとっていたからだ。

 正確には邪悪とも言いがたかった。人間の善悪でははかれないような巨大な存在である。ココは、自分の想像がおよばない生き物だから拒否反応が出ているのだと思った。

 対して、少女のほうはまるで邪気が感じられない。それも、とまどう一因である。あまりにも異質な組み合わせなのであった。


「わたしは、ミア・ブラックウッド。こっちは……ええと……夫なの。この二匹の動物もあやしいものじゃないのよ……ええ、きっと」


 ミアと名乗った少女は自分の名前以外は歯切れ悪く紹介した。


「わたしはナタ・デ・ココといいます」


「こんなところでなにをしてるの?」


「とくになにも……ここに住んでいるんです」


「え、ここで暮らしてるの?」


「はい」


「家族とかいるの?」


「いいえ、わたしひとりです」


「え……ここに、ずっとひとりで?」


「ええ、まだ一年くらいですけど」


「一年……なにか理由があってここに?」


「はい……西側のヴァンバルシア王国で罪を犯して追放されたのです」


「あなたみたいな子供を追放するなんて……いったいなにをやらかしたの?」


 質問攻めのミアに、ココはこれまでのことを簡単に話した。


「それはひどいわね。わたしたちは北の果てに向かっているのだけど、いっしょに連れていってあげましょうか? 北まで行かなくても途中で別れてもいいし」


「いえ、お申し出はありがたいですけど、わたしは罪人ですから状況が変わるまではここにいなくてはならないのです」


「しかし、ここは物騒だぞ」


 突然男が口を開いたので、ココは肩をビクッと震わせた。


「ええ……そのようですけど」


「なにか感じるか」


「いえ……でも、こんな広い森で水も豊富ならもっとほかに少数民族の集落とかがあってもいいはずなのに、まるで人の気配がしないのは、きっと人が住めないなにかがあるのだろうとは思っています」


「そうか……まあ、わかっていても子どもひとりではどうしようもなかろう。これをやるから目を通しておくといい」


 男は懐から一冊の本を出した。古そうなもので、表紙はまるで人の皮を張ったような不気味な装丁だった。


「これは……?」


 ココはおそるおそる受けとった。とてつもなく禍々しいものを感じる。


死者の書(ネクロノミコン)だ。写本だが。その若さで聖女と呼ばれるなら理解できるかも知れん」


「なんであれ本を読めるのは助かります。ありがとう」


「じゃあ、あたしたちはもう行くね。おどろかして、そのうえ力になれなくてごめんなさい」


「とんでもない。ひさしぶりに人と話せて楽しかったです」


「頑張ってね!」


 少女と男は、なんとも名状しがたき奇怪な生物に乗って飛び去った。




 第6話 「邪神召喚」につづく






番外編2 未公開シーン「召喚直後」



 ココは桟橋によじ登ろうとして自分の右腕が肩口から無くなっていることに気づいた。

 邪神が大きな口を開き、呼び出された駄賃とばかりに通り過ぎざまにバクンとココの腕をむしり取っていったのだった。


「片腕ですめば安いものか……」


 なんとか桟橋に上がったココは、咳き込みながら傷口を押さえて言った。


「少し漏らしたけど、川に落ちたおかげでわからなくなったわ」


 顔を上げると、小船が近づいてきているのが見えた。

 その向こうの大きな船に将来の夫が乗っていることなど、このときは知るよしもなかった。

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