1話 前日単ー始まり
周りに見える街並みは、どの建物も崩れかけたりヒビが入ったりしている。時折銃声の聞こえる道徳のなくなった街。
戦争は全てを奪う。人も国家も人道も、公園のベンチに背を預けた青年は空をにらむ。銀色に変色し、金属光沢を帯びた彼の右手にはコーヒー缶が握られている。
それは戦場で生まれ、魂装の使い手として人殺しに育った彼の大きな代償。
いや、使い手と言うのは語弊があるだろう。正しくは生けにえとして、かもしれない。魂装を体に埋め込まれたものは超人的な力を手にするが、代償として使えば使うほど魂装に魂を吸い取られる。いつかは『銀の屍』となる。
魂装という機械に支配されたまま生きる。機械仕掛けの人間とでも言うべきかな、と彼は皮肉に笑う。
生まれたときから戦争の第一線にいた青年のことを知るものはほぼいない。彼が最後に所属していた第67師団は激戦区ウェルキウス戦線で壊滅、今のところ生存が確認されているのは彼1人。
「やめてください!これは絶対渡しませんから!」
突然近くでそんな声が聴こえた。
「へぇ、そんなこと言うのか。わかってんだろうなぁ!」
何だ、ギャングか。だが、俺の視線はギャングの右腕にくぎづけになった。銀に変色した手。
「…あいつも」同じ境遇なのか。
金のためにやっているのだろうか。ドスのきいた声だが、全身から苦痛と悲嘆が滲んでいる。人の死は幾度も見てきたはずなのに、何かいたたまれなくなってベンチから腰を上げた。
押さえつけられている少女と目があった。いや、少女と言うほどおさなくはない。けれどまだ、あどけなさが残る顔立ちだった。
助けて、と懇願するような表情に立ち去ろうとした足が止まる。
「おい」
気づくと声をかけていた。
彼の名前はウィル。その時はまだ、自分が戦いの渦中に飛び込むことになるとは思わなかった。
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