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backup2  作者: 黒い映像
第一章 竜と異邦人と底辺宿屋
33/33

33.後の祭り、死屍累々

少女三人、おっさん一人で回すには客が多すぎた。

俺たちの処理能力を大幅に上回っているのである。

俺とジーナはまだいいが、エウリィとバレッタが限界に近い。

そろそろ店を閉めた方がいいかと思い始めた頃、ブラックリスト三人衆とエカーテさんが宿に戻ってきた。

早速手伝いに入ってもらい、なんとか事なきを得るのであった。


***


あれだけあった殺人猪のモツが全て無くなったところで店仕舞いとなった。

酒だけでも提供してくれと客に言われたが、そろそろこっちの疲労も限界なので断ることに。

ブーイングが起きたが、また明日来てくださいとエカーテさんに笑顔で言われると、皆満足そうに帰っていったのであった。


ようやく一息吐いた俺たちは、地面に腰を下ろしてぐったりと項垂れた。

あぁ……疲れた……。

拙者もう働きたくないでござる……。


「旦那ァ、まさか昨日の今日で屋台を開いてるとは思わなかったぜ! 相変わらずハチャメチャだなァ!」

「この屋台、ジーナの嬢ちゃんが作ったのかい? すげぇ出来だなぁ……」

「やはり……モツ焼きは売れると思ってましたぜ。客の口コミからして、明日はもっと人が集まってくると思いますぜ」


売れるのはいいが、このペースで働いてたら過労死してしまうな……。

人員が足りなさ過ぎた……主に俺の役割が一番キツイんだぜ。

面倒な客の対処に気を取られると、あっという間に仕事が溜まってしまう。

この辺は今後改善していかないといけないな……。


「エウリィ、疲れたのならちゃんとお部屋で眠りなさい?」

「まだ大丈夫~……」


子供店長がウトウトしながら答えていた。無理せず眠ってくれ。

接客担当としてよく働いてくれたからな。


「ぐぅ……すぅ……」


魔女っ娘は屋台に身体を寄せて既に眠っていた。

警戒心というものはどこに置いて来たのだろうか。

無防備過ぎて逆に心配になるレベルだ。


「いっぱいおきゃくさんがきましたね! だんなさまのおみせににんきがでて、なーちゃんもほこらしいです!」


そしてジーナはまだ元気いっぱいだった。

疲れを知らぬ子供といった感じか。


ジーナの言う通り、ものすごく人気が出たな。びっくりするくらいに。

一体このスラムのどこにあれだけの人数が潜んでいたんだと言わんばかりの大盛況ぶりだった。


売り上げはちゃんと計算してないが……コンロ代の元くらいは取れたのではなかろうか。

明日はこれ以上売れると考えると、すぐに黒字になりそうだ。

そう考えると気分も少し楽になるな。


さて……後片付け……するか…………。




*** *** ***




眠ってしまったエウリィを担いでベッドに運び、無防備に眠るバレッタを担いでベッドに運び、背中に引っ付いてきたジーナは無視して屋台を裏庭に運んだ。

ジョッキやらディスペンサーやらはブラックリスト三人衆が食堂に運んで勝手に酒盛りを始めていた。クソ野郎どもが。

もう混じる気力も湧かないほどに疲れていたので、さっさと風呂に入って寝ることにした。


「はふぅ……あついみずあびはくせになりますね……」


当たり前のように一緒に風呂に入ってきたジーナが蕩けていた。

湯船に仰向けに浮かびながら、幸せそうに目を細めている。

風呂好きなのはいいこっちゃ。皆は中々入らないからな。

風呂は贅沢だからって身体を拭くだけじゃなくて、もう少し気軽に入ってもいいと思うんだぜ。


「てっぱんやきをするのは、すこしあつくてたいへんでした。がんばりましたけど」


……前から思ってたが、お前熱に弱いのか?

その割に風呂は平気な顔して入ってるけど。


「よわくはないですが、つめたいほうがいいですね。このおふろはちょうどいいおんどです」


つまり苦手なわけだな。熱弱点だ。

今のところ倒す予定はないが覚えておこう。

とすると、水風呂も用意してやった方がいいか。


インベントリから剣を取り出して、浴室の隅に桶型の氷を生成する。

そこにシャワーで水を貯めてやれば簡易の水風呂の完成である。氷風呂と称した方がいいか?

突然剣を取り出した俺にビビったジーナだったが、作ったものが分かると即座に飛び込んでいった。


「うあぁう」


氷水に浸かって気持ちよさそうな声を上げている。

気に入ったようで何よりだ。

俺も湯に浸かって身体が火照っていたので、ジーナを押しのけて水風呂に飛び込んだ。

つめたっ!


***


風呂から上がったのでもう寝るんだべさ。

バスタオル一丁でうろつくジーナに注意できないほどに疲れているんだ……。

部屋に戻ってベッドに倒れ込むと、定位置の左腕に滑り込むようにジーナが全裸で飛び込んできた。

随分と流されてきているが、もしかしてこいつを傍らに置いて寝るのがこれからのデフォになっていくのだろうか……。

なるんだろうな……。


「そいえば、レーヴェがいませんでしたが、あいつはどこにいってるんですか?」


お嬢様は冒険者だ。

ソロで迷宮探索してるもんだから、帰ってくるのは大抵遅い。

依頼の場所次第では日を跨いで帰ってくることもあるんだ。


それがいつも通りのお嬢様の帰宅ルーチンである

だが、今はスラムの情勢が変わって単独行動は危険だ。

一人で帰ってこさせるのは俺も心配なのだが……流石にいつ帰ってくるか分からないお嬢様をずっと待ち続けているわけにもいかない。

これがフラグになっていなければいいのだが……。


「そーなんですか。めいきゅうたんさくって、そんなにじかんがかかるものなんですか? だんなさまはあっさりこうりゃくしてましたけど」


俺とアルゼット迷宮へ行った時のことは参考にするなよ?

あそこは階層も少ないしフロアも狭い。

お嬢様のような上級者向けの迷宮は深くて広い上に罠もある。

そもそも迷宮への移動だけで時間がかかるし、準備にだって時間をかける必要があるんだ。


「ふぅん……そういうものなんですね」


ジーナはそう言って興味深そうに聞いていた。

またその内連れて行ってやるさ。

なんせもう普通の移動手段じゃ満足できないからな。

上がってしまった文明レヴェルはもう戻せないのだ。


……そういえば、上がってしまった文明レヴェルはもう一つあったな。


「あっ……」


左腕にぴとりとくっ付いていたジーナを持ち上げた。

ひんやりするような、温かいような、不思議な温度。

三日ほど一緒に寝て分かったが、どうにもこいつと一緒だとリラックスして安眠できるようだ。

安眠枕だな。一流のお嫁さんは旦那を癒やすのも上手いというわけか。


「……ん」


何を勘違いしたのか、瞳を閉じて唇を突き出してきた。

ご期待通り唇をぷにぷに指で押して遊んでやると、不満そうに眉をひそめた。


「ん~……」


ほっほっほ、おませな子じゃのう。

仕方ないので抱き枕にすることにした。


「ひゃっ! あっ、あっ、だんなさま……!」


うーん、美少女ボディは最高ですな……。このすっぽり収まる感じがいい。

小っちゃくて柔らかいし、ちゃんと女の子の匂いがする。

普通なら興奮するところだが、俺は今途轍もないほどに心が安らいでいる。

ドラゴンテラピーだ……悪くない……。


「からだがむずむずします……だんなさま……もっとぎゅっとしてほしいです」


少しアブない気配を感じたが、言われなくともしてやるさ。

ギュッと抱きしめて頭を撫でてやると、俺の胸に顔を押し付けてきた。


「……なーちゃん、だんなさまのやくにたってますか?」


おっとー?

その問題は昼に解決したと思ってたんだが……。

今日だってお前大活躍だったじゃないか。

屋台を始めることができたのはお前のおかげなんだぞ?


「なーちゃんがいなくても、おなじことはできました。だんなさまと、もとからここにいたヒトたちだけでも、きっとなんとかしていたとおもいます」


まぁ……確かに。

代えが効かないって意味で言うなら、お前が居なくても屋台は始められただろうな。

ホルモン焼きの屋台を出すという案は俺が思いついたかもしれないし、屋台や竹串はあらくれ1が作ってくれたかもしれない。


だけどな、お前が来てなかったら、俺はそもそも宿を復興させようとして屋台を始めようとは思わなかったぞ。

だから、お前は役に立ってるんだよ。


「……ほんとうに?」


ああ本当だよ。

それにな、お前は産まれたての赤ちゃんの癖に、役に立つとか立たないとかで小賢しく物事を考え過ぎだ。

お前が何もできなくたって、拾った責任はちゃんと取ってやるさ。

だから安心しろ。


「……」


返事は無かったが、俺の身体に回された腕の力が少し強まった気がした。

そろそろ眠気も限界なので、おやすみと言って目を閉じる。

すぐに意識が遠のいていった。


「……………………♡」


薄れる意識の中、唇に何かが触れたような気がした。

それが何度か繰り返されたが、段々とそれが心地よくなってきた頃に俺の意識は完全に闇に飲まれた。

ぐぅ……。

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