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backup2  作者: 黒い映像
第一章 竜と異邦人と底辺宿屋
28/33

28.屋台は一日にして成る(Ⅰ)

妙にスッキリとした目覚めだった。

何かとても良い夢を見た気がするが、どんな内容だったのかは思い出せない。


寝ぼけ眼を擦って起き上がろうとしたが、身体の上に誰かが乗っかかっており、起き上がれない。

見れば乗っかっているのはエウリィであった。スヤスヤと気持ちよさそうに就寝中だ。

両腕でガッチリと俺の身体を抱き枕のようにしてしがみ付いておるわ。

結局あの後俺の身体の上で眠ったのか。

そのまま眠った俺が言うのもなんだけど、寝にくくないか?


そして左腕をガッチリホールドしているのは、やはりというかジーナであった。

涎垂らして幸せそうに眠ってやがるな。可愛い奴め。


肝心の右腕には、温もりが感じられなかった。

そちらの方に視線をやって見ると、マットレスの脇で誰かが立ち上がっているのが見えた。

小ぶりでぷりんとしたお尻が可愛らしい。うーん、眼福。

が、すぐに下着で隠されてしまった。残念。


お高そうな光沢のある白いシルク生地が、朝日に照らされて輝いている。

全く以て良い朝だ。


付ける必要があるかどうか疑問の残るブラを付けたところで、ようやく輝かしい銀髪の持ち主はこちらを振り向いた。

おはよう、レーヴェ。


「ッ!?」


瞬間湯沸かし器のようにお嬢様の顔が真っ赤に染まる。

そして俺のほっぺたも真っ赤に染まった。紅葉マーク!

全く以て良い朝だ。


***


気を取り直して朝食だ。

さて何を作ろうかと思案していたところ、ジーナに厨房から追い出された。

ちくしょう、最近仕事を奪われがちだ。


「だんなさまはそこでゆっくりしていてください。こんどはなーちゃんのあいさいりょうりをあじわってもらいます」


嬉しいことだが、仲間外れにされた感が強い。

宿の女性陣は皆ジーナ先生の朝食クッキング教室に参加しているというのに。

ずるいや先生! 俺にもコーチをお願いします!


無視された。


***


そうしてお出しされた朝食メニューは……なんだかすごくおしゃれなものだった。


何かを焼いた生地に具材が包まれたもの……これは、ブリトーか?

断面から見えるのは……ハムととろけたチーズ、色とりどりの野菜などの具だ。


それにサラダにスープ。これも手が込んでるぞ。

スープは……ラーメン用に作り置きしている豚骨スープだな。

原液そのままでも十分美味いが、これは幾分か色合いが薄い。カロリーを気にして何かで割ったのか?

濃厚な豚骨の匂いの奥から微かにバターの風味が香るな。

具はコーンにもやし、生意気にパセリまで散らされてやがる。

朝から何杯でもいけそうな感じの一品であった。


そしてサラダには色とりどりの野菜に、カリカリに焼いたベーコンとフライドオニオンが和えられている。

さらにトドメとばかりにポーチドエッグなども加えられた完璧なおしゃれサラダだ。


──そう、オシャ飯だ。


俺ではお出しできない食事がそこにはあった。

いや……俺だってこういうの作ろうと思えば作れるよ?

ただ、こう、俺が作る料理って、肉! 醤油! にんにく! とか、そういう男の料理的なものばっかりで、オシャ飯とは程遠いんだよな。

こういうオシャレ度の高いものは調理工程が多くて、ついつい手が遠のいて簡単なものばかりに落ち着いてしまうんだ。

皆も経験あるだろ? あるに決まってらぁ。


思うに、真の料理というものは……一品にどれだけ手の込んだことができるかということに尽きる。

その点で俺は完敗だった。


「おいしーですか?」


ジーナが口に突っ込んできたブリトーを咀嚼しながら、コクコクと首を縦に振る。

チーズが火傷するほどとろけてなかったら文句なしだったんだけどね。


──料理が熱々なのは、何もこの朝食が作り立てだからというわけではない。

こいつの作った料理は冷めることがないのだ。

これがスキルの恩恵によるものだと知ったのは、つい昨日こやつが朝食を作っている時に判明した。

料理系のクラフトスキルが高レベルに達すると、料理の状態保存などという無法な事ができるらしい。

調理時の温度や風味を永久に保つのだという。

知らんかったそんなの……。


俺だって長年料理を作ってるので、料理系クラフトスキルは所有しているが、そんな無法な事はできない。

あくまで野菜の皮むきなんかの調理がオートになったり、適当に入れた調味料が良い感じの分量になる程度だ。

なので相当な高レベルに達しないとああはならん。

クソッ、チート種族め。

運営は贔屓し過ぎだろ。謝罪しろ謝罪。


「燕麦でこんな生地が作れるとは思わなかったな」

「本当ですね。一手間加えるだけで、味気ない燕麦がこんなに変わるなんて……」


燕麦で生地を作ったのか。

相変わらず身体の事まで考えられた健康食でもあるらしい。

その点に関してのお嫁さん度は高いと言っておこう。


「なんていうか、ジーナって本当見かけによらないよね……。昨日の絵もそうだけど、料理してる姿も意外性しかないもん」

「なーちゃんのこと、みなおしましたか?」


ふふん? と自慢げに胸を張ったジーナ。

多分褒められてないよ。


***


皆で美味しく朝食を戴いたところで、今日の予定を軽く話し合った。

昨日の対策通り、ブラックリスト三人衆はエカーテさんの護衛に。

レーヴェは俺が冒険者ギルドへ送り届ける。

そして宿にエウリィ一人残すのは危険なので、ジーナには宿で一緒に残ってもらうことにした。

見た目がエウリィと変わらない年頃の少女であるジーナを残してどうするんだと言われたが、ジーナはレーヴェと同等以上の戦闘能力を有しているので大丈夫だと説明した。




*** *** ***




「……亭主。あの子は……ジーナは、本当に強いのか?」


レーヴェと連れ添って宿を出た後で、そんなことを問われた。

俺がジーナの戦闘能力について説明した時、露骨に不満気な表情をしていたから、やっぱり気になっていたんだな。

腕試しなどされては困るので、俺はハッキリとレーヴェより強いことを強調しておいた。


「そう、か……。亭主がそう言うのなら、本当なのだろうな……」


襲い掛かってきたクリーチャーを鞘に納められたままの剣で弾き飛ばしながら、レーヴェはポツリと呟いた。

レーヴェはもちろん常人より遥かに強いのだが、ジーナはそも種族が違うのだから、強さを比べること自体が無意味だ。

だがそんなことを伝えるわけにはいかない。


どうすれば機嫌を直してくれるのか必死に考えたが……どうにも思い浮かばなかった。

そうこう悩んでいる内にスラムを抜けてしまい、お嬢様は声を掛ける間もなく冒険者ギルドの方へ小走りで去っていった。

帰りの護衛の事を話してなかったのに……。


うーん、着いて行った方がよかっただろうか……。

でも冒険者ギルドでお嬢様に絡むのはダメだろうな。

せっかくソロで頑張っているんだから、俺みたいなのが話しかけちゃ迷惑だろう。


……ヨシ、帰ってきたらいっぱい構ってあげるか。

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