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backup2  作者: 黒い映像
第一章 竜と異邦人と底辺宿屋
23/33

23.迷宮デート(後)

なあ、凄く今更なんだが、ジーナは人と同じように食事を必要とするのか?


『しょくじはとくにひつようとしませんね。ドラゴンであるなーちゃんは、マナをえられればじゅうぶんなので』


やっぱりか。

俺と料理を作った時も、なんやかんや言って手を付けていなかったし。


『あやしまれるので、だれかがいるときはいちおうたべてますが、ヒトのしょくじはあまりなーちゃんのこのみではありませんね』


それは……せっかく人の姿をしているのに、もったいないな。

本当に好みの味とか、料理とかはないのか?


『うーん……さがしたらあるかもしれませんが、いまはだんなさまとくっついてるだけで、おなかがいっぱいになっちゃいますよ』


……んー?

それは、精神的な意味での話か?


『ぶつりてきです。なーちゃんはひととあいしあいたいよくぼうからうまれたドラゴンです。なので、こうしてラブにあふれたふれあいをすることで、マナのほきゅうとどうとうのちからをえることができるのですっ!』


……マジで言ってんだろうなぁ、こいつ。

だからこんなにベタベタしてくるわけか。


はー、そっかー。……そうかー。

そりゃこんな性格にもなるわな。

愛することが補給行為になるんだもんな。


『ただでさえなーちゃんのマナのけいとうはほきゅうがむずかしい、きしょうなものなのです。なのでいままではむだなしょうひをしないように、ほとんどねむりっぱなしだったのですが……いまはこんなにも、しあわせでみちあふれていますっ♪』


ぎゅっ、と腕に抱きつく力が強くなった。

屈託のない笑顔を向けられている気がする。

……ああもう。

こんな話ばっかり聞かされたら、ますますこいつのことを邪険にできなくなっちまうじゃねえか。


***


『それにしても、なかなかてきとそうぐうしませんね?』


その通りであった。

さっきのゴブリン以来、一匹もモンスターと遭遇していない。

まぁ、もう昼過ぎなので迷宮探索の時間帯としては遅い方だ。

なんせモンスターと宝箱のリポップは日を跨がないといけないのだから、早く入った方がお得なのである。

なので冒険者は朝が早い職業なのだ。


それはそれとして、お前ちゃんと気配は消してるんだろうな?


『けしてますよう。というか、そもそもこのばしょにモンスターのけはいがあんまりかんじられませんね』


やっぱり狩られ尽くされてるか。

うーむ……依頼用の素材とか、食料用の野菜は結構収穫できたが、やっぱり肉が欲しいんだべな。

一応最深部まで潜ってみるか。


『さいしんぶにはモンスターがいるんですか?』


最深部は大きいフロアになってて、迷宮主ってのがいるな。いわゆるボスモンスターだ。

こいつは初心者にはちっとばかし荷が重いから、もしかしたら倒されてないかもしれん。


『なるほどです。そいつはしょくざいになるのですか?』


迷宮主ってのは、迷宮に生息する雑魚モンスターのいずれかがランダムで選ばれ、強化される仕様だ。

なんで選ばれたモンスター次第だな。ゴブリンとかコボルトだったら最悪だ。

いや、食えないこともないが、全く美味しくはない。

当たりは兎か鳥か猪だな。


***


最深部に続く階段の手前から、剣戟の音が聞こえてきた。

どうやら先客がいたようだ。

様子を伺うと──……。


「だめっ、皆逃げて!」

「メウが足やられてる! 私が時間を稼ぐから、抱えて逃げてっ!」

「バカッ! 私を置いていきなさいッ!」


三人組の女の子の冒険者パーティが苦戦中の様子であった。

さっき俺を見て笑っていた子たちだな。


剣士が足をやられて立ち上がれず、それを弓使いがタゲを取って必死に庇っている。

後衛の魔術師はパニクって何もできずにいた。


「PUGIIIII!!」


迷宮主は殺人猪であった。

ラッキーだ、こいつは美味いぞ。

ちなみに正式名称は知らん。人を殺す猪のモンスターだから殺人猪だ。


『どうするんですか? たすけますか?』


あたぼうよ。


本来なら迷宮主と戦う権利は先着順であり、他のパーティが戦ってるところに乱入は許されない。

だが、どう見ても戦線は崩壊してるし、あの新人たちは明らかにレベルが足りてない。

ここで見捨てるのは寝覚めが悪いってもんだ。


俺はインベントリから剣を射出した。

それは寸分違わず殺人猪の首へ吸い込まれ────通過した。


「PUGI……?」


ずるりと首が落ちる。

何が起こったのか理解できていない様子の殺人猪の頭部が、パクパクと口を動かしていた。

残った身体が足をもつれさせて……やがて倒れ伏す。


「……え?」


同じく何が起こったのか分かっていない少女たち。

突然現れた俺の姿を認識すると目を丸くさせていた。

怪我の様子は……足の切り傷だけか。またパックリいってるな。

殺人猪の牙はそこらの店売りの剣よりも鋭くて、振り回されるだけでも厄介なのだ。


怪我してるのは剣士の君だけか? とりあえず回復薬を渡そう。

それでもダメそうなら外まで運んでやるから言ってくれ。


「えっ、あっ、あの」


迷宮主に挑むなら、もう少し強くなってからにした方がいい。

俺が言わなくても分かってるだろうけどね。


そう言うと、弓使いの子がギリッと歯を食いしばって俺を睨んでいた。

おほほ、良い目でおじゃる。気の強さが実によろしい。

何に怒れば良いか分からないから、取り合えず俺に当たる若さが眩しい。


さて、この子たちはもうどうでもよい。

今はこいつの解体が先である。

味に関わるので、血抜きは早い内がいい。

剣から氷を出して、いつものように簡易な解体台を作った。

猪の足を凍らせて解体台に宙ずりにして、放血を促進させる。

水の魔法でよく身体を洗浄しておくことも忘れない。


「あの……何してるんですか?」


剣士ちゃんが傷の手当も忘れて話しかけてきた。


何って、解体してるんだよ。

おじさんの用事はこっちなんで。

あ、迷宮主倒した報酬が欲しいなら持って行っていいよ?


「いらないわよ! っていうか、あんた! 他のパーティがボス部屋を攻略中に横入りするのはマナー違反だって知らないの!?」

「ちょ、ちょっとサエハ……! 助けてもらったんだから、そんな言い方は」

「ヴィリアは黙ってて!」


ふむ、気の強い弓使いの子がサエハちゃんで、おどおどした魔術師の子はヴィリアちゃんね。

覚えておこう。


それで、マナーの話ね。知ってるよ。

でも君たちがやられそうだったから助けた。

理由はそれじゃダメかい?


「わ、私たちはまだ大丈夫だった! あなたが勝手に首を突っ込んできただけでしょ!」

「サエハ、やめて」

「メウ、だって」

「サエハ」

「……~~~ッ!」


ふむ、剣士のメウちゃんがパーティのリーダーであるようだ。

サエハも彼女には逆らえないみたいだし。


「助けてくださって、ありがとうございます。ですが報酬はいりません。倒してもいないのに報酬を受け取るのは、冒険者としての誇りが許しませんから」


そうかい。若いのに立派だねぇ。

まぁ好きにするといいさ。


***


女子三人パーティは退却していき、ボス部屋には俺とジーナだけとなった。


『なんなんですかあいつら! イラッとします! ムカつきます!』


近くの地面がバフンバフンと砂埃を立てている。

じだんだを踏んでいるのは察するまでもない。


『だんなさまにたすけられておきながらっ! なんですかあのたいどはっ!』


お怒りであるな。

まあ、若いとああいう事も言いたくなるものさ。

若者特有の万能感とでもいうのか、傍から見て無謀なことでも自分ならできると思いがちだ。

それに目を覚ませるかどうかが、大人と子供の境界線なんじゃないか、なっと。


俺は猪の皮の間にナイフを入れ、一気に皮をこそぎ落した。


『……なーちゃんはうまれたばかりですが、ヒトのようにおとなやこどもというくべつはありません。なので、ヒトのこどものことはわかりかねます』


そうかぁ? お前も同じようなもんだと思うが。

あっ、胆のうは絶対潰すなよ?


『わかってます! ……はぁ、せっかくのデートがだいなしですよ、もう』


最初から食材調達だって言ってんだろ。

しかしお前、解体も上手いなんて本当になんでもありだな。


『だんなさまによろこんでもらうためのスキルは、たくさんよういしてきましたから、ね!』


ぶちゅるっ、と、あまり形容したくない音を立てながら、ジーナが一気にモツを引きずり出した。

豪快である。

というか猪解体できるお嫁さんとかどこ向けだよ。いや、俺は嬉しいけども。


解体用のナイフを殺人猪へと突き刺してパーツごとに分割していく。

解体スキルがあるのでオートで作業が進むのがありがたい。

ジーナは俺以上に手際よく解体を進めていた。悔しみっ。

このサイズの獣の解体は、解体スキルで短縮できるとはいえ、普通なら三十分以上は掛かっていたところだ。

それがあっという間に終わってしまう。ジーナがいるだけで効率が段違いであった。


『おわりですか? あーもう、ちとあぶらでよごれちゃいましたよう』


おっと。

すまん、せっかく買った服を汚しちまったか?


『ふくはぬいでたからもんだいありませんよ』


……お前、見えてないからってなぁ……。


いや、もう何も言うまい。

パーツ分けした肉とモツを生成したバットに入れ、インベントリに突っ込んで解体作業はお終いだ。

さぁ撤収だべ。


ちなみにボス部屋には、入り口へと転移するクリスタルなど置いていない。

ここから徒歩で地上まで戻らないとダメなのであった。

クソ運営がよ……。

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