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backup2  作者: 黒い映像
第一章 竜と異邦人と底辺宿屋
10/33

10.普通じゃない宿屋さん

全員正座させられた。


「まずはお前たちだっ! 男の寝室で何故裸になっている!!」

「「だってこいつが」」

「だってじゃない! 例え子供であっても! 婚姻も結んでいない異性の前で身体を見せるなど言語道断だっ!!」


お嬢様のよく通るハキハキした声が響く。

流石の迫力だ。エウリィとベイビーちゃんもしゅんとしている。


「次に亭主だ! 流石にこれは擁護できないだろうが! こんな年端もいかぬ娘を侍らかして!」


自らも年端もいかぬ娘だというのに、お嬢様が俺を糾弾している。

俺はその言葉に胸を貫かれた。

ごめん、今度はお嬢様も俺と一緒に寝ようね。


「ふざけるんじゃないっ! 私は真剣に怒っているんだぞ! 真面目に聞けっ!」


すいませんでした。

女の子に怒られて土下座するのって意外と病みつきになるな。

俺は決してマゾじゃないが、この子になら足で踏まれてもいい。


「だいたい亭主は節操がなさすぎるっ! 次から次へと女に手を出してっ!」


お嬢様はよくこんなに怒っていられるものだ。怒るのって結構カロリー使うのに。

もしかして怒りっぽいからほっそりした体型なんだろうか。

なればいかん。今度からあまり怒らせないようにしなくては。

今度二人っきりになった時、いっぱい甘やかしてあげよう。


それからお嬢様の説教はしばらく続いた。


***


ようやく解放された。

小一時間ほど正論を唱え続けたお嬢様は、プリプリ怒ったまま出ていってしまった。

エウリィはそのまま母親に連行されていった。


「なんだったんですかあいつらは……」


ベッドにうつ伏せになったプリケツちゃんが呟いた。

お前はそろそろ服を着ろ。


「このやどのじゅうぎょういんは、ぜんいんあたまがおかしいのですか?」


君には及ばないが、まあ少しトんでる奴が多いのは確かだ。

そして一つ教えておくが、この宿に従業員は居ないんだ。


「? どういうことですか? きのう、さっきのこむすめがやどのうけつけのせきにすわっていたし、こむすめのははおやはごはんをつくっていたじゃないですか」


ああ、あれは有志の手伝いってやつだな。

雇ってはいないし、金も払ってないんだ。

その代わり宿の宿泊代金や食事代を値引いてるのさ。


「それは……なんというか、けんぜんなけいえいではないですね?」


まあな、言いたいことは分かる。

よし、今日はベイビーちゃんにそこらへんの話をしてあげようか。


まずはこの場所の説明からだな。

ここはスラムだ。スラムの中にある宿屋なんだ。

スラムって意味が分かるかベイビーちゃん?


「えっと、なんとなくは。あまりいいくうきをしていないばしょですね。やどのそとにいたにんげんも、なんだかいやなかんじがしました」


そうだな、悪い空気が漂っている場所なんだ。

ここは街の掃きだめのようなもんでな。

職を失ったり、貧しくなったりして行き場を失くした人たちや、周りに言えないような仕事をやってる黒い奴らなんかが住んでるんだ。

まともな人間は普通ここに来ない。


「……つまり、まともなけいえいができないほど、このやどはりっちにめぐまれていないということですか?」


んん、まあ立地が問題なのは確か、だな。

それでも、スラムという特殊な環境にあるこの宿を必要としてやって来る奴らはいる。

それが今泊ってる宿泊客たちだ。

まぁ皆訳ありでな。一癖も二癖もある事情を抱えてこの宿に泊まってるんだ。


「なるほど、やどのターゲットとしてはふつうのにんげんをねらっていないのですね。だからへんなやつばっかりあつまってるのですか」


うん、君もそのメンバーの一人なんだ。

という訳で、普通の経営は成り立たないし、俺も本気で宿の業務を行おうとは思ってない。

今の状況を例えるなら……シェアハウスって例えが一番合うかもな。


「やどをはんじょうさせようとはおもってないのですか?」


うーん、できるならそうしたいとは思ってるんだがな。

そこまでの意欲が俺には無いんだ。現状維持で満足しちまってるって言うのかな。


「どうしてですか? なーちゃんがおもうに、みがけばひかる、けっこうりっぱなやどだとおもうのですが……」


うーん、そうだな……。

そもそもなんだが、この宿を俺が手に入れたのは成り行きでな。

元々俺は定住地を持たない放浪者だったんだ。

そこから偶々この宿の経営権を譲られて、今この街に居付いてるだけなんだ。


「……たまたまやどのけいえいけんをゆずられて???」


うん、まあそこ疑問に思うよな。でも事実なんだ。

ある日街中で困ってた爺さんを助けたら、お礼にってこの宿を全部丸ごと貰ったんだ。


「……そんなことあります?」


ある日突然出会って退治したドラゴンから求婚されるよりは現実的だったと思うぞ。


***


「なるほど、だいたいのじじょうははあくできました。おまえのまわりは、ほんとうにおかしなことでいっぱいですね?」


うん、おかしなことのワーストトップはお前だけどな。

まあそんな感じで色々宿を普通に経営するには問題があってな。

今のところ赤字は出ていないが儲けもない。

金を稼ぎたかったら冒険者ギルドで依頼を受けた方が儲かるって具合だ。


「ほんまつてんとうすぎます……。せっかくやどがあるのに、それでもうけられないなんて……」


全くだ。

だが今は別に金には困っちゃいないからな。借金があるわけでもなし。

食料も迷宮でモンスターを狩って調達してるから、基本的に自給自足なんだ。


「ほほう? それはめいかくなつよみじゃないですか? はらうものがないのはいいことですし、りょうりをメインにすれば、やどのうりあげもあがるのでは?」


おっ、実は俺もそう思ってたんだよ。

この宿は寝泊まりするだけの宿泊宿として作られているけど、酒場宿みたいな感じのがここの客層的に受けるはずなんだよな。

小さいが食堂もあるし、一応これでも俺は料理に自信があってな。

それをこの宿のウリにできないかとは考えてるんだ。


「おまえはりょうりができるのですか。たいていのおとこはりょうりができないものというちしきがあったのですが」


一人暮らしが長い男だと自然に身に付くもんだ。

それに男は凝り性だからな。一度やってみたら思いの他料理にハマる奴の方が多い。


「ちなみになーちゃんはりょうりをしたことがありませんが、ちしきだけはありますよ。きっとおまえにもおいしいあいさいりょうりをふるまえることでしょう」


おお……一度も料理をしたことがないと宣言しておいて、その自信は一体どこから来るんだ……。

お、そうだ。丁度良い時間だし、料理を作ってみるか?

二人で一品ずつ作ってみようぜ。


「おおっ! まかせておいてください! なーちゃんのじつりょくをみせてやりましょう!」


プリケツちゃんがやる気満々だ。

まずは服を着ようね。

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