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普通が一番

作者: 西順

「田岡さんって、普通ですよね~」


 同じ幽霊仲間の栗原くんがそんな事を言ってきた。


「不躾だぞ」


 そう叱るのは、これまた幽霊仲間の右川くんだ。


「すみません、田岡さん」


「いいよいいよ。本当の事だし」


 私に対して頭を下げる右川くんに、手を振って気にしていないと告げる。


「ほら、本人も言ってますし、やっぱり普通ですって」


「まだ言うのか!」


 何度右川くんが雷を落としても、栗原くんは正直に私の感想を口にする。


「いや、俺は田岡さんを馬鹿にしているつもりは無いんすよ。むしろ尊敬してます。幽霊になったばかりの俺に、あれこれ幽霊のイロハを教えてくれたのは田岡さんっすから。だからこそ歯がゆいんすよ」


 歯がゆいねえ。


「田岡さんは長年幽霊やっているだけあって、素養は一番だと思うんす」


「素養って」


 右川くんが呆れている。確かに、幽霊の素養があると言われても嬉しくないな。


「でも、今時、白い死装束着て、頭に白い三角巾って、古過ぎでしょ。最早レトロとかノスタルジックとか懐古趣味とか超えて、ちょっと笑えますもん」


「栗原!」


 はは。また栗原くんが叱られている。私としてはこっちの方が微笑ましくて笑えるけどね。しかし、そんなに笑える格好をしているかね?


 右川くんは血塗れスーツに頭に包丁が刺され、栗原くんは破れた革ジャンを着て、その革ジャンにはいくつもの弾痕が残っていた。それと比べれば確かに奇麗な死装束を着ている私は、普通過ぎるのかも知れない。


「俺とか右川さんみたいに、田岡さんも殺された時の格好をして人前に出れば、皆、『キャー』って逃げ出すと思うんすよねえ」


「そうかなあ。でもわざわざ親類縁者が私を奇麗に葬ってくれたのだし、それを無下にするのも憚られるねえ」


「っかあ、古い! 古いっすよ田岡さん! だって田岡さんの親類縁者ってもう、この世にいない訳でしょう?」


「栗原!」


 全く、この二人はいつもこんなやり取りをしているな。


 だがその通りだ。我が一族は私を葬った後、敵軍に攻め込まれて皆殺しにされたのである。そして皆が怨霊へと変わる事を危惧した私は、その怨念を私一人に集める事で皆を昇天させて、地上に残った。


「田岡さんって、武士だったんすよね?」


「そうだね」


「だったらやっぱり、武者の格好して、出ていけば、皆怖がりますって。そうすれば早く昇天出来ますよ」


「栗原、お前、田岡さんの事を思って」


「ヘヘ」


 あれだけ睨んでいた右川くんが、栗原くんへ慈愛の目を向けている。二人とも優しいな。恨まれて殺されたとは思えない。


 幽霊が人間を怖がらせるのには理由がある。先程までの会話でご理解頂けただろうが、人間を怖がらせれば怖がらせる程、地上での怨恨は薄れていき、それが全て解消されれば、晴れて昇天となる訳である。一族の恨み辛みを全て受け止めた私など、昇天するのに何百年と掛かる。私はその間、様々な幽霊と親しくなり、彼ら彼女らが昇天していくのを見送ってきたのだ。


「だから、どうっすか? 今夜から武者姿で人前に出てみるってのは?」


 目を輝かせる栗原くん。しかし私は腕を組んで考えてしまう。武者姿は確かに威圧感はあるだろうが、相手は一般の方々だ。無用に怯えさせるのもどうなのだろう。


「田岡さん、私からもお願いします」


 と今度は右川くんまで頭を下げてきたではないか。


「田岡さんには皆、幽霊になって世話になりましたから、少しでも恩返ししたいんです」


 頭を下げる右川くんの横で、栗原くんまで頭を下げてきた。そうまでされてはなあ。


「分かったよ。一度、試してみよう」


 * * * *


「ひぎゃああああっ!!!!」


 酷い悲鳴が街中に響き渡った。時刻は丑三つ時。コンビニ帰りの女性が四つ辻に差し掛かった所で、武者姿で現れたのだが、彼女は私の姿を見るなり悲鳴を上げて気絶してしまったのだ。


「やっぱり、やり過ぎだったんじゃないかなあ」


 と二人を振り返れば、二人とも引いている。


「そ、そっすね」


「ええと…………壮絶な死に方をされたんですね」


 確かに私の死に方は壮絶だった。全身にこれでもかと刀や槍、矢を食らって、それでも敵に立ち向かい暴れる私を、敵軍総出で取り押さえて、首を斬り落とされたのだ。なので今の私の姿は、身体には刃物がこれでもかと突き刺さっており、刎ねられた首を左手で抱え、右手に刀を持っている。


「やはり普通が一番だよ」


 その翌夜より私はいつもの死装束に戻ったのだけど、噂は既に拡散していたようで、私たちが現れる四つ辻には深夜だと言うのに、人が押し寄せるようになってしまった。


 そこへ私が白い死装束で現れるも、彼ら彼女らは、まるで出来の悪いコスプレでも見るように、私を一瞥して、再度武者姿の私を捜し回るのだった。


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