王子様が狂ったとか私には関係ないと思ってました。って、私がその行方不明の婚約者ですか?
「キクロエ様!! どうか殿下の元へ戻ってください!!」
私は目の前で頭を下げる騎士たちを見て困惑していた。
私は記憶喪失である。
一か月ほど前に今住んでいる村の、村人に保護された。何があったのかそれなりにボロボロで、記憶を失っていた私はよっぽどひどい目にあったのだろうと心優しい村の人たちに囲まれて過ごしていた。
自分の記憶を思い出せないままにひとまず過ごしていた。
そんな中でこの国の王子が、急に狂ってしまったと噂されていた。
人当たりがよく、誰にでも優しかった王子様が狂ってしまったと。その原因は婚約者がいなくなってしまったこと。
――死んでしまったか、行方不明になったか。
それが分からない状況で、王子は婚約者を半ば狂ったように探しているのだと。
その狂った王子は、血の雨を降らせているらしい。
その婚約者が亡くなったなどと口にした人を殺し、憂さ晴らしのように盗賊たちを蹴散らし、手が付けられないという。
ただその噂を聞いた時、私はどうしてか落ち着いていた。
記憶喪失で、身寄りがあるかも分からない私にとってそういう王族なんてものは遠い世界のことだと思っていたからかもしれない。
私に関係ない話だと思っていた。
いつか記憶を失う前の私を知っている人が現れればいいなどと呑気に考えてはいたけれど、まさか自分がその狂ってしまった王子と関係があるなどと思っていなかったのである。
……しかし記憶を失う前の私は驚くことにその王子と関わりがあったようだ。
頭を下げる騎士たちに自分の記憶がないこと、それでいて自分が王子と関わりがあるのかと問えば、それはもう驚いた顔をされた。
「キクロエ様がご自身の意思で殿下の傍を離れたわけではなかったのですね。良かった!!」
「キクロエ様は殿下の婚約者です。あの殿下の暴走を抑えるためにも戻ってきてください!!」
……記憶を失う前の私は、自分の意思で王子の傍を離れる可能性があったのだろうか? それに記憶喪失の私が本当に王子の婚約者なのだろうか? 全く以て実感は湧かないけれど、ひとまず王子に会ってみることにした。
お世話になった村人たちには「貴族は人を利用するものだから行かない方がいい」とか、「そんな暴走している男の元へは戻らない方がいい。俺は君が好きだ! 逃げよう」とかなんか色々言われた。
とりあえず後者のような告白に関しては丁重にお断りした。全然心は動かされないし、そもそも王子なんて言う権力者相手だと逃げるなんて無理だろう。
あと私はなんだか王子の婚約者だと聞いても不思議と動じていなくて自分のことがよく分からなかった。
……記憶を失う前の私ってどういう存在だったんだろう?
そのまま馬車に乗せられ、それはもう丁重にもてなされる。
女性の騎士が一緒に馬車に乗ってくれたので、話をしてくれる。ちなみに男性の騎士が一緒に同乗しないのはそれを王子が許さないかららしい。
「キクロエ様、何も覚えていらっしゃらないので不安でしょうが安心してください。私たちが貴方様に危害を加えることはありません」
「不安は不思議とないわ。でも自分が王子の婚約者だなんて実感が湧かないの」
「そうですよね。でも貴方様はキクロエ様に間違いがないです!」
「だってそれは見た目だけの情報でしょう? 私が王子の婚約者だなんてなんだか変な気持ちだわ」
結局私がキクロエという王子の婚約者だと彼らが判断したのは見た目だけの情報でしかない。
私自身にはその王子の婚約者として生きてきた記憶もなく、よく分からない。
そう言った私に女騎士は、私と王子のことを語ってくれる。
王子の名は、イニエーニ。
この王国の第二王子で、側室の息子らしい。燃えるような赤い髪と、美しい赤目を持ち、王太子を支えようとしている優しい王子様……だったらしい。ただし婚約者……想定私が居なくなって以来優しさも欠片もないと。王太子の言葉さえも聞かず、どうやら隠していたらしい剣と魔法の腕で、それはもう暴走気味。
……女騎士曰くそちらの方が本性らしい。面倒なことにならないようにそういう仮面を被っていただけだとか。
そして私、キクロエという名の伯爵令嬢らしい。
第二王子の婚約者で、その傍にずっと控えているような大人しい令嬢と噂されていたらしい。伯爵家の中でも力を持たない方の家の出で、幼い頃に第二王子と婚約を結んだんだとか。
……ただし元々の私は公の場では大人しくしていたが、こちらも本性はもう少し違ったっぽい。
どちらにしても本当にそのキクロエが私なのかそのあたりは私には不明である。
*
「キクロエ!!」
私は王子の元へと連れていかれた。
その王子は私の姿を見るなり、私のことを思いっきり抱きしめた。
いきなり抱きしめられてしまったことに私は驚いてしまう。
「えっと、王子様」
「キクロエ。イニエーニだ」
「えっと、イニエーニ様?」
「キクロエは様付けなんていらない。良かった、無事で」
王子様……イニエーニは私のことを抱きしめたままそんなことを言う。
不思議とイニエーニに抱きしめられていても特に私は動じたりしなかった。寧ろ異性に抱きしめられていると言うのになんだか落ち着く。
「私は記憶を失っているので、本当にイニエーニの婚約者かどうかわかりませんよ?」
「俺がキクロエを間違えるわけないだろ。キクロエのにおいがするし。あと敬語は要らない」
……においってなんだか、変態みたいだ。イニエーニは私のにおいを覚えているみたいな動物的な感じなのだろうか?
それから私は記憶も戻らないので、自分が本当にそのイニエーニの婚約者であるキクロエなのかは分からないままに過ごした。
ただ私が見つかってからイニエーニは落ち着ているらしい。私に向かって嬉しそうにいつもにこにこしているイニエーニを見ていると、本当にこの人が狂ったように行動していたのか? と甚だ疑問にはなったけれど。
まぁ、記憶を失っている私に「本当にキクロエ様なのですか?」などと言ってくる人に関しては、思いっきり処罰を与えていたようなので、イニエーニはそういう人なのだろう。
私自身も自分がキクロエなのかどうかというのは分からないままだ。
「俺のキクロエ。可愛い」
イニエーニはとても甘い表情で、私のことを可愛いなどと毎日のように言う。
可愛いと言われるのは悪い気はしない。イニエーニは本当に嬉しそうに私に向かって笑いかけるから――、私はなんだか記憶を失ったままなのに、イニエーニにすっかり心を許してしまっていた。
……でも心許せば許すほど、イニエーニと過ごす時間が穏やかであればあるほど本当に私がイニエーニのキクロエなのだろうか? とそんな気持ちになった。
記憶を失う前の私は魔法が結構得意だったらしい。それも一般的にあまり良い印象を与えられない闇魔法が得意だったんだとか。
……その闇魔法に関しても私はちゃんと使えるわけではなかった。何かに阻害されているかのように使おうとすれば上手くいかない。
――私は本当に、キクロエなのだろうか?
そのことが分からなくて、私は心配しているのに……、イニエーニは私のことをキクロエで間違いがないなんて自信満々で、私に向かって優しい笑みを浮かべる。
イニエーニは私を見つけてからというものの、私のことを傍から全く離そうとしない。
外にもあまり出ることなく、私が騎士と話しただけでも不機嫌そうな顔をしたりする。私にはうんと優しいのに、それ以外には冷たくて。
……こういう性格の人が心優しい王子様を装っていたのはその方が動きやすいと判断したからのようだ。
そういう心優しい仮面を被っていたイニエーニが、私に何かがあったからとその仮面を外した。
……その事実に対して、なんだかわずかな歓喜を覚えている私はおかしいのだろうか。
自分がキクロエであるかなどというのは分からないのに、イニエーニに惹かれてしまっている私が居る。
――本当に私が、キクロエであればいいのにとそんな風に思っていた。
そんなことを自分がキクロエであるかも分からないのに思っていた私に罰が当たったのだろうか。
――その後、自分がキクロエだと名乗る少女が現れた。
*
「殿下!!」
その少女の見た目は私にそっくりだった。
こんなにそっくりなことがあるのか? と思うほどに似ていて、私は驚く。
栗色の長い髪に、黄色い少しだけ吊り上がった瞳。……まるで鏡か何かを見ているかのように、その少女は私と似ていて、私は驚いてしまった。
美しいドレスを身に纏い、洗練された所作でカーテシーをする。
……うん、私なんかよりもずっと貴族の令嬢らしい。
私がイニエーニの傍に居るのは、私がキクロエだと思われているから。そうじゃなければ記憶喪失で自分が何者かなんて分かっていない私がイニエーニの横に居られるはずもない。
この子が本物のキクロエなのかな? などと思うと胸が痛んだ。
イニエーニはいつも、私の名を甘い声で呼んでくれる。私に触れることが好きで、私が記憶喪失だからって遠慮しているらしいけれど抱きしめてくれる。にこにこと笑っている表情を見ると嬉しくなる。私以外には冷たくて、気に入らない人間には手が出たりする。
……そのイニエーニが、目の前のこの子に、そういう態度をするのかと思うと嫌だなと思った。
私の方が偽者なのかもしれないのに、そんなことを思ってしまっている私の心は荒れ果てている。
――なんだかよく分からない魔力が、私の体内で渦巻いているのが分かる。
キクロエが得意だと言う闇魔法はやってみようとしても上手くいかなかったのに、不思議と今の、激高しそうな気持が渦巻いている状況だとそれを使える気がした。
だけどその渦巻く魔力が外へと放出される前にイニエーニの冷たい声が聞こえた。
「失せろ」
「なっ、殿下、私がキクロエですよ? そこに居るのは私ではありません。その証拠に私は――」
その少女は私のことを睨みつけながら、ぺらぺらと喋り出す。
それはイニエーニとキクロエの昔の話だろうか。なんだか詳細に、少女は語る。
いつ出会ったのかとか、どういう風に過ごしていただとか、私が知らないイニエーニとキクロエの話。
見た目もそうだし、そういう記憶を持つならやっぱり本物のキクロエはこの子なのだろうか? と思っていたのに、
「キクロエは可愛いなぁ」
なんて言いながら何故か、イニエーニは私を抱きしめる。
……なんで目の前の少女の話で、私が可愛いになるのか、イニエーニの思考は分からない。
でもそうやって抱きしめられると、渦巻いている魔力が収まっていくのが分かる。
「殿下!!」
「そいつ、連れてけ」
……そして本物っぽい少女のことをイニエーニは追い出してしまった。
本当にそれでよかったのだろうか? あの子が本物じゃないのか、なんてそんな風に思ってしまった。
あの少女には思いっきり睨みつけられた。怖くはなく、寧ろイニエーニが私の方を優先したことに対する優越感でいっぱいの私は性格が良くないのかもしれないと思った。
イニエーニはあの少女を追い出しても、ただ笑ったまま私のことを抱きしめたままだ。
「イニエーニ、良かったの?」
「何が?」
「あの子、本物のキクロエじゃないの?」
「俺のキクロエは俺が抱きしめているキクロエだよ?」
「……でも、本人たちしか知らないようなことを言っていたわよ?」
「うん。でも俺のキクロエは俺が抱きしめているキクロエだから。それにアレがキクロエと似た見た目で、情報を持っている理由に心当たりあるから」
「そうなの?」
「うん。俺のキクロエは可愛いなぁって改めて思った」
「……その結論に至る理由がよく分からないのよね」
「キクロエは可愛いよ。さっきだって、魔力暴走させようとしていただろ?」
「……気づいてたの? なんだか、不思議な感覚で魔力が渦巻いてたわ。あのままだと何をしたか分からなかった」
「うん。キクロエが俺のことを渡したくないって暴走してそうだなって嬉しかった。あのまま暴走させても良かったけれど、取り乱したキクロエを他に見せるなんて嫌だから止めたけど」
どうして私がキクロエだって自信満々に言えるのだろうか?
それでいて私が暴走しようとしていることが嬉しいなんて言って笑って。
まぁ、私もイニエーニが私のことで様子を変えるの嬉しいなんて思ってしまっているから同類な気がする。
「私が記憶を思い出していなくても、大丈夫なの? どこで私がキクロエだって判断しているの?」
「記憶なんてどちらでもいいよ。思い出してくれた方が嬉しいけれど。あと俺のキクロエは一人しか居ないんだから、俺がキクロエを間違えるはずがないよ」
イニエーニの思いは、多分一般的に考えて重い。
でもその重い感情を向けられていても私は嬉しいなんて思ってしまっている。
イニエーニが私のことをキクロエだと言ってくれるなら、そのまま受け入れてしまいたい。
……例えば本当は私がキクロエじゃなくて、本物が現れたとしても。今はこの幸せを受け入れておきたい。
「イニエーニ。私は記憶がないけれど、貴方が好きだわ」
「俺も好きだよ。俺のキクロエ。ねぇ、キスして良い?」
「……うん」
私が頷くと、イニエーニは私に口づけを落とした。
――その瞬間、私は無くしていた記憶を思い出した。
それは偶然なんかじゃなくて、私自身がイニエーニからの口づけをカギにして思い出すようにしていたことを思い出した。
「あ」
「どうしたの? キクロエ」
「……思い出したわ。私、イニエーニからの口づけで思い出すように設定していたわ」
「ははっ、そんなことだろうと思ってた」
楽しそうに笑うイニエーニ。
うん、私はイニエーニが言っているように本物のキクロエだったことを思い出した。それも自分で記憶を闇魔法で封印し、口づけで思い出すように設定していた。
……わざわざそんなことをしていた理由にも思い至った。
「私が死んだかもって、イニエーニは仮面を外したのよね! イニエーニが私が居なくなったからってそういう風に暴走しているの、ゾクゾクしたわ。嬉しい。イニエーニは私が居ないと正気じゃいられないのね」
私はイニエーニが暴走していたのを思い出して思わず嬉しくなってそう言った。
私に何かあると正気でいられないことに、私は心の底から歓喜している。
「当たり前だろう? 俺にとってキクロエは全てなんだから」
「ふふっ、イニエーニの素を見てあの王女も引いていったのよね。王太子殿下もイニエーニから私を奪うのは得策ではないって分かってくださった?」
「ああ。あのウザったい王女もこんな危険な男には嫁げないとか言ってどっかいった。兄上も諦めたらしい」
私がわざわざこういう行動を起こしたのは、心優しい優秀な第二王子として広まっていたイニエーニのことを他国の王女が気に入ってしまったからだった。
国力も我が国と変わらないそれなりに大きな国の王女。対して私はただの伯爵家の娘でしかなく、私自身もイニエーニの傍に居られるだけで幸せだったので、特に何か力を示したりとかはしていなかった。
そうしたらその王女の方がイニエーニに相応しいのではないかみたいな考えを持つ人たちが増えてしまったのだ。イニエーニの兄である王太子殿下もイニエーニの表面上の姿しか知らないので、よかれと思って私とイニエーニの婚約を解消させようとしていた。
私の方にもイニエーニには王女の方がふさわしいとか、私に他の相手を紹介するからとか、そういう風に言ってくる人たちが多くなった。
私たちが望んでいないのに、善意でそういう行動を起こしてくる人たちほど面倒なことなのだ。
私とイニエーニは互いに離れる気もないのに、そういうことを提案してくるのは嫌だった。
例えばこういう状況を一度乗り切れたとしても、その後、また同じことがあったら――私はそう考えるだけで嫌だった。
私はイニエーニのことが好きで仕方がない。
私にだけひたすら甘くて、私のことだけを特別視していて、私のことを離したがらない王子様。
私だってイニエーニが私の傍から離れるぐらいなら、実力行使してでもどうにかしたいって思うぐらいにはイニエーニに執着している。
だから、イニエーニから私を離すとどうなるか見せつけてあげようと思った。
心優しい王子様なんて、本来のイニエーニではないということを。イニエーニから私を奪ったら大変なことになるということを。一番の目的は王女のような人を無くすことだけど、もう一個目的があった。
「キクロエ。あの偽者もキクロエが用意したものだろう?」
「そうよ! やっぱり私のイニエーニは気づいてくれるのね」
イニエーニが気づいてくれていたことが嬉しくて、私は笑って答える。
あの私そっくりの見た目で、私とイニエーニの詳細を持っていた少女は私が用意した。
「イニエーニから離れるなんて悲しいし我慢できないから自分の記憶は一旦闇魔法で封印したの。それでそれを決めた時に思ったの。イニエーニは記憶を失った私をちゃんと見つけてくれるかしらって。そして例えば私とそっくりな見た目で、記憶を持っているっぽい子が現れたらどうなるかなって。ちゃんと私の方を本物だと理解してくれるかしらって! イニエーニはあの子に目もくれなくてよかったわ」
――そう、それは愛情確認のようなもの。私はイニエーニに執着していて、イニエーニのことが好きで。イニエーニも同じぐらい私にそういう愛情を向けてくれているけれど、そういう状況に陥っても私をちゃんと選ぶかなって。
そのためにイニエーニに惚れているらしい令嬢を動かしたの。あの子はもちろん、私に動かされているなんて分かってないでしょうけど。見た目は魔法でそう見えるようにしただけ、記憶は私が魔法で植え付けただけ。今はもう思い出せないようにしているわ。
だってそれは私とイニエーニの大切な思い出だもの。
見た目をそろえて、そういう記憶がある風に装ったぐらいで私に成り代われるなんて思っているのがおかしいわよね。イニエーニが私に気づかないことなんてありえないのに。
――私はそれだけ、イニエーニに愛されているもの。
「俺がキクロエを間違えるはずがないだろう。本当に……そんな風に俺を試してキクロエは可愛い」
「ふふっ、こうやって試す私は面倒じゃない?」
「全然。寧ろキクロエが俺のことをそれだけ好きなんだって嬉しいぐらいだ。自分であの令嬢を用意したのに、嫉妬に狂って闇魔法を暴走させようとしていて、うん、可愛い」
自分で言うのもなんだけど、私は中々面倒な性格をしていると思う。
それでもイニエーニはそんな私のことを可愛い、と言ってくれる。そのことが嬉しくて、もっと私の存在がイニエーニの心に刻み込まれればいいのにと思った。
「ねぇ、イニエーニ。私は貴方が私の傍からいなくなるのは許せないの。王太子殿下は今回は諦めたけど、また同じようなことをするなら――王太子殿下であろうとも許せないわ」
「それでいいよ。俺だって兄上が同じことをするなら許せないから。まぁ、俺がキクロエが居なくなったらああなるってわかったからもうそういう馬鹿なことは言わないと思う。キクロエに他の相手を紹介しようとしていた奴には対処しておいたから」
「ふふっ、ありがとう。イニエーニ。あの王女には悪夢を見せる魔法を植え付けておいたわ。未遂とはいえ、私のイニエーニに手を出そうとしたのだもの」
「ちゃんとばれないようにした?」
「もちろん。ばれるようなヘマはしないわ。もし私がやったとばれたら一緒に逃げてくれる?」
「ああ」
そう言ってイニエーニは、私にまた口づけを落としてくれた。
この一件でイニエーニが危険だと言うのが広まって、イニエーニに近づく者が減ったので私は満足している。
イニエーニのことは、誰にも渡さない。
私だけのイニエーニだから、それに手を出す相手は誰であろうと許さない。
私とイニエーニの邪魔をする人は、全員蹴散らすの。
思いついて書きたくなったので書いたお話です。
互いに執着しあっている王子とその婚約者の話です。二人とも割とヤンデレ気味。
キクロエ
伯爵令嬢。第二王子の婚約者。闇魔法の使い手。
王女が婚約者を狙っていたため、自分が居なくなったらどうなるかを見せつけるために色々暗躍。自分の記憶まで封印。ついでに婚約者の愛情確認も行った。
イニエーニのことが大好きでたまらないため、多分イニエーニが他の人を見たら嫉妬に狂う系の女の子。イニエーニが離れようとしたら闇魔法とか使って力づくでどうにかする気満々。
イニエーニ
赤髪赤目の第二王子。外では猫かぶっていた。
キクロエ以外は基本的にどうでもいいと思っている。匂いとか全部覚えていてキクロエに執着している。キクロエがいなくなって大暴走していた。キクロエが愛情確認のための試し行為をしていてもそれも可愛いと思っている。こちらもキクロエが他の人を見たら嫉妬に狂って大暴走すると思われる。
令嬢
イニエーニに惚れていた心を利用され、キクロエの見た目と記憶で特攻したが撃沈。
キクロエが裏で動いていたのは知らないまま。その後、両親に怒られて他国に嫁ぐ。
王女
イニエーニを気に入ったばかりに悪夢を見せつけられている。