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イグドラシルの種 2話 9部

 次の日から、イプタク隊長の想像どおり、俄然忙しくなった。まず、一度帰還して二つの都市を最短距離で繋げる道を探さねばならない。倉庫一杯の農産物を載せて装甲自動車は帰途についた。

 ただし、タムル・ドーセク科学主任は翻訳装置の改良と、イグドラシルの調査のため、タイカンとアゼルは彼らを受け入れる土地を整備するために、イグドラシルに残った。

 約40日後、イプタク隊長の道案内で3台の装甲自動車が建設資材と50人の建設先遣隊を乗せ到着した。

 アゼル達は上下水道の整備をしていた手を止めて迎えに行った。

 新しく到着した人たちは、広い空間でヘルメット無しで過ごすのに慣れていないせいか、辺りを見回しながらヒソヒソ話をしている。その中にイプタク隊長が居たのでタイカンは駆け寄り抱きついた。

 アゼルは旧知の人たちと親交を暖めていたが、その中にレミルの姿は無かった。彼女のおばあさんが入院したとかで今回の仕事には不参加だと事前に聞いてはいたが、やはり寂しい。

 やがて、先遣隊の宿舎が完成し、次に工場が、そして人々の暮らしに必要な施設や住宅がどんどん造られていった。新たに三台の旅客用装甲自動車が造られ、ピストン輸送で人々を運んだ。二つの都市を結ぶ幹線道路も整備され、ナドルシルと呼ばれるアゼル達が造った新しい町の人口もどんどん増えていった。

 イグドラシルに住む人々は温和で、アゼル達新参者も、さほどの軋轢も無くイグドラシルの人々に溶け込んでいった。


 約400日後、ほぼ移住が終わった。

 ただし、病人やお年寄の中には15日間の旅に耐えられそうも無い人たちが100人ぐらいいて、まだタドルシル残っていた。

 

 町の整備がほぼ終わったある日、アゼルはモリナの家を訪ねた。忙しさにかまけて放りっぱなしになっていた自分自身の引越しで、タドルシルに帰ることを伝えるためだ。ドアが開くとモリナが待っていた。

 「あらアゼル、いらっしゃい」

 「やあ」

 「今日はゆっくりしていけるの」

 「いや、タドルシルに帰るんで暫く会えないから、挨拶しとこうと思ってさ」

 「わざわざ俺に挨拶しにこなくてもいいんだがな」

 奥で何か作業をしていたマリナンが横から口を出した。

 「アゼルはお父さんに会いに来たわけじゃなくってよ。ねえ、すぐ帰ってこられるんでしょ」

 「もちろんさ。引越しを親父達に任せたら、いろいろ持って来てくれなかったんで自分で取りに行くだけだよ。40日後ぐらいにはもどってくるから、心配しないで」

 「良かった。なら聖樹二百年のお祭りは一緒に過ごせるわね」

 「えっ、なにそれ」

 「そうか、アゼルはここへ来てからずっと忙しかったから知らないのね。聖樹二百年のお祭りっていうのは、モナとセリがこの地にイグドラシルをもたらしてくれた二百年目を祝うお祭りよ。これといって大騒ぎする訳じゃないけど皆で集まってお祈りするの」

 「それって……」

 「ぜひ一緒に参加してくれたまえ。こいつも喜ぶ」

 マリナンがいつのまにかモリナの後ろに立って、アゼルの言葉を遮ぎるように口をはさんだ。

 「は、はい、約束します。じゃ、そろそろ時間だから」

 アゼルは挨拶もそこそこに、玄関先で千切れるほど手を振るモリナにに応えつつ、彼女の家を後にした。


 アゼルはイプタクと一緒に、崩れかけたドーム最上階の展望室で街全体を見下ろしていた。ドームといっても既に半ば崩れかけていて気密は失われている。

 愛しいタドルシルの街。消えて無くなってしまう訳ではないけれど、もう二度と見ないであろうこの景色。子供のころから慣れ親しんだこの景色を胸に刻み込むため、荷物の整理が終わってからここに来たのだった。

 「もうすぐ此処ともお別れか」

 イプタク隊長も仕事の合間に息抜きのため此処にきていた。

 「そうですね、生まれ育った街をあとにするって何か物悲しいですよね」

 「せっかく親仁さんに頼まれてお前の面倒見ていたが、こうなったらもう生存者探しはお終いだな。皆やる気を無くしてる」

 「そんなことはないと……」

 「まあ、今回のお祭り騒ぎが過ぎれば何らかの動きが有るかもしれんが……。お前はあっちに行ったらどうするつもりだ。もうナドルシルの街の整備はほぼ終わりだろ」

 「まだはっきりとした事は……。野菜作りでも出来ればいいかなと……」

 「伝手でもあるのかよ。そうか、あの娘か。いい仲にでもなったのか?隅に置けんな」

 「そんな事ないですよ。それに町の整備が終わったとしても土木作業や機械整備の仕事が無くなる訳じゃないし。農作業の合間に、あそこの古い機械でも修理しますよ」

 「向こうの機械はかなりの年代物と聞いたが……」

 「仕組みはそう変わってないんですよ。かえって勉強になるっていうか……」

 「アゼル!」

 驚いて後ろを振り返ると、レミルが立っていた。

 「なんだレミルか。久しぶりだな。お祖母さんの具合はどうだい」

 「待っていたの。あなたが来るのを」

 「えっ」

 「俺は遠慮しとこうか」

 気を利かしてイプタクは外へ出て行った。

 「実は、会って欲しい人が居るの。ついて来て」

 アゼルは彼女の必死な様子を不審に思ったが、幼馴染のたっての頼みとあって、何も言わずについて行った。とあるビルの大層な扉を開け中に入ると、待っていたのは十数名の人とイスに掛けて指示を出している男が一人。

 彼はアゼルの方を見ると、自らイグドラシル移植計画作戦部長バリヤント・モノマと名乗った。

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