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イグドラシルの種 2話 3部

 近づくにつれて、それが山ではなくて巨大な植物であることが、いよいよはっきりしてきた。大地から巨大な蔓が伸び上がり、間から奥に空間が見える。どうやらドーム状になっているらしい。

 装甲自動車はドームの手前で停車した。遠目から見ると装甲自動車がまるで木に集る虫のようだ。


 すぐさま、探検隊が組織され、4人を残して隊員たちが防護服で身を固めて外へ出た。

 「凄いな……。これは蔦じゃない、上から枝が垂れ下がってきてるんだ」

 「材質は?ていうか植物だよなこれ」

 「判らん。凄く硬い、ナイフで傷がつかないぞ」

 皆、心なしか浮かれている。

 「こっちに隙間が有る。入ってみよう」

 探検隊は隊長を先頭にドームの中へ入っていく。中は何本もの柱が立ち並び、まるで聖堂のようだ。

 木の柱が途切れると、下向きに吹く風が彼らを出迎えた。

 「何だこれは」

 「ドームの内側に沿って下降気流が生じてるらしいな。見ろ、まるで薄い空気のカーテンだ。タムル、何か判ったか」

 「急に気圧が変化した。そのカーテンがバリアとなって外に漏れ出すのを防いでいるのだろう。ドーム内はほぼ1気圧。成分はわずかに不明な部分もあるが普通の空気のようだ。十分呼吸可能だ」

 装甲自動車に残って探検隊をモニターしていたタムルが、分析結果を報告してきた。

 「よし、判った。皆聞いたとおりだが、ヘルメットはまだ取るなよ。何か危険があるかもしれないからな。ここからは三組に分かれて行動しよう。くれぐれも慎重にな」

 アゼルはタイカンと組んでドームの中を進んでいった。それにしてもここはなんて場所なんだろう。天井は遥か高い位置にあり霞んで良く見えないが、木漏れ日が筋になって差し込んでいて、それなりに明るい。崩れかけた故郷のドームしか知らないアゼルは、軽い眩暈を感じてしまう。そして地面には一面の草原が広がり、所々上から降りて来た枝が地面に突き刺さっている。その先には巨大な幹らしいものが見え、その近くには建物らしいものが集まって建っているのが見える。

 隊長はカメラを望遠にしてヘルメットのモニターで見ていたが、それでも遠くはかすんでよく見えない。

 「ここからだと良くわからないが、人が暮らしているようだな」

 「ああ、これだけかすんでいるということは水蒸気が豊富ということだ。もっと近寄れないか」

 モニターで同時に見ていたタムルが無線で割り込んできた。

 「そう慌てるな。まだ始めたばかりだ」

 久しぶりの新しい生存者発見の可能性に心なしか声が弾んでいる。

 「よし、あっちへ行ってみよう」隊長とノリルの組は潅木の茂る方へ向かっていった。

 レミルと通信士マルドール・ハンの組は、小川のふちを歩いていた。

 「この川、何処から流れてくるんでしょう。外へ流れ出した水は何処へ行くんでしょうか」

 「外へ出たら、太陽の熱で蒸発するんだろうねえ。あっち見てみなよ、花が咲いてる。行ってみよう」

 女二人の組は姦しい。

 アゼル達の組は小高い丘を登っていた。まばらな下草が生えているだけの丘だが、中央に塔のようなものが立っている。タイカンはその塔を叩いてみた。

 「金属音だ。やはり人為的に作られたものだな」

 そのとき、ボズッと言う音がした。タイカンが振り向くと、後ろからついてきたアゼルが立っていた所に大きな穴があいている。慌てて中を覗き込んだが、真っ暗で底が見えない。

 「アゼル無事か!」

 タイカンは無線に怒鳴った。

 「ハーイ、なんとか……。途中で引っかかりながら落ちたので、たいした事は有りません。でもここからだとそっちが見えません」

 「ライトは点けたか。こっちからも見えないぞ」

 かなり複雑な落ち方を下らしい。

 「ライトは点けてますが……。あっ、光が漏れているのが見えます。多分出口でしょう、そちらへ向かいます」

 「コラッ勝手に動くな。どっちの方向だ」

 が、無線が届かなくなったのか返事が無い。少なくとも登ってきた斜面には亀裂が無かった。そう考えてタイカンは反対側の斜面を駆け下りていった。

 アゼルは金属の板の隙間から体を引きずりだした。この丘はどうやら大昔の潜水艦らしい。

 ふと見ると、近くに潅木が茂っている場所があった。そこを目印にして、無線で連絡しようとヘルメットのアンテナを調整したとき、彼はかすかに鳥の声が聞こえたような気がした。辺りを窺ってもヘルメット越しでは良くわからない。

 アゼルは意を決してヘルメットを脱いでみた。咽かえるほどの植物の匂い、ここまで濃厚な空気は生まれて初めての体験だ。鳥の声と思ったのは人の声だった。潅木の方から聞こえてくるらしい。アゼルは手に下げたヘルメットから隊長たちの呼びかけが漏れてくるのにも気づかず、潅木のほうへ歩いて行った。


 木の間を抜けると、開けている場所があった。その中央で歌を歌いながら花に水を遣っている少女がいた。アゼルと同い年ぐらいだろうか、その姿は眩いばかりに輝いて辺りに光を振りまいている。それは、油と埃にまみれたアゼル達と違って辺りを浄化する力を持っているかのようだった。

 「なに勝手なことしてる」

 後を追ってきたタイカンがアゼルを叱る声に気付いた少女は、こちらを振り向いてにっこりと微笑んだ。そして彼らには判らない言葉で話し掛けてきた。

 そのとき、隊長たちもあとを追って現れた。ノリルは慌てて銃を構えようとしたが、隊長に制止された。

 「何を慌てている」そう言いながら隊長はヘルメットを脱いだ。

 「隊長!」

 「住民が居るんだ。安全だよ。翻訳機は使えるのか?」

 「は、はい。多分大丈夫だと思います」通信士のマルドールは慌てて翻訳機を取り出すと、隊長に促されて少女に近づいて行った。

 他の隊員達も隊長の安全だという判断を受けてヘルメットを脱いだ。レミルはアゼルに近づくと「大丈夫?怪我は無い?」と声を掛けたが、アゼルは返事もせずにただ少女を見つめていた。

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