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母として

「ロゼッタ様?!」

「あら、覚えてくださっていたのね、王太子妃様」


ここはどこだろう。酒の匂いが充満した部屋で、気づけば手を後ろ手に縛られ床に放りだされていた。



孤児院への訪問の帰りだった。突然馬車が止まったかと思うと扉が壊され、気づけばここにいた。



「なぜあなたが?」

「なぜ?わかっているくせに」

「ロレンシオ様ですか」

「私は側妃になるはずだったのよ!いいえ、私が彼の子どもを産んで私は王妃になるはずだった!あんたは彼を好きじゃなさそうだから安心してたのに…まんまとやられたわ。あんたのせいで計画が全て台無しになったのよ」

「計画?…愛ではなく?」


「愛?そうね、微塵程度はあったかもね。でもそんなもの最初からいらないし、望んでもなかったわ。

どうせ身分も違う。本気で愛されるわけない。だったら王妃になって皆を見返してやろうと思ったのよ」

「おいおい、お前、微塵程度はアイツを愛してたのか?聞き捨てならないな」


暗闇に男がいた。父親かと思うくらい年上に見える。然しながら決して良い生活をしているようには見えない。



「そりゃ、この国で一番いい男に抱かれるんだもの、多少はあるわよ。しかも王太子よ、私のことを信じきって側妃にしてやるだなんて…バカすぎてかわいいじゃない」

ロゼッタは嘲るように笑った。


「ひどい。あんな誠実な方をそんな風に言うなんて!彼は本当にあなたを大切にしていたんですよ!婚約者の私に会ってすぐにあなたのことを話して、頭を下げられたんです、すまないと!王太子である彼が頭を下げたんですよ!それほどまでに誠実にあなたを想ってらっしゃっ…」


バシッ!

「うるさいんだよ!」

ロゼッタがアメーリアの頬を叩いた。


「お前さえ現れなければ全て上手くいったんだ!」

「私ではなくても彼は別の女性を正妃として迎えたわ」

「でも別の女なら私は負けなかった!私は恋人のまま側妃になれたんだよ!」

「そんなことわからないわ!そもそもあなたは彼には見合わない!私じゃなくても同じ結果になってたわ!公の場で彼に恥をかかせるような真似をする人を彼が最後まで愛したとは思えないもの!」

「うるさいっつってんだよ!」


ロゼッタは今度は彼女を踏みつけた。


アメーリアの懐妊はまだ発表されていなかった。ロゼッタは知らないはずだ。


とにかくお腹を守ろう、彼女は覚悟を決めた。


下腹部を蹴られないよう、なんとか起き上がるとその場に正座し胸を張った。

「私をどうされようというのですか?」


「ふんっ、小娘のくせに腹が立つ」

また頬を叩かれた。しかしそれこそアメーリアの作戦だ。顔ならいくらでも叩けばいい!


「あんたをどうするか?決まってんだろ、少々いたぶって殺してやるさ」


「そろそろ遊ばせろよ」

先程の男と反対側の暗闇から現れた男を見てアメーリアは心臓が止まるほど驚いた。


タハミール様!


しかし彼は彼女に近づきながら、ロゼッタに見えないよう目で合図してきた、まるで『知らないフリをしろ』とでも言うように。


アメーリアは何も言わなかった。


「さぁ王太子妃様、まずは少々辱めを受けてもらおうかね、許しを請うてもいいよ?」

「許し?あなたに何を許してもらうのですか?許しを請うなどありえません」

「タハミール、好きにしていいよ」



「ああ、好きにさせてもらおう」ーー何もしません。抵抗するフリをしてください。

タハミールが耳元で囁いた。


「その手で私に触るのは許しません」

「うるせー女だな」ーーそのまま続けて。


「やめなさい!」

ーー少しすみません。


彼がアメーリアのドレスの肩を破いた。胸の部分は破れていない。


「白い肌がたまらんなぁ」

「ふんっ、どんな肌も同じよ。タハミール、早くヤッちゃいなさいよ」

「ゆっくり楽しませてくれよ、こんな機会なかなかないんだぜ」


「やめなさい!」

「まあまあ楽しみましょうよ」


ロゼッタは奥のテーブルに座り、こちらを眺めて嫌らしく笑いながら男と酒を飲み始めた。


「気の強い女はたまんねぇなぁ」

ーー何か言い続けて下さい。


アメーリアは抵抗の言葉を言い続け、彼は彼女を触るフリをしながら、彼女の手の縄を外していた。


「やっぱり王太子妃様はいい匂いがするねぇ」

ーー立てますか?合図をしたら逃げますよ。



ーー1、2、3!!


「悪いな、ロゼッタ、姫は俺がもらう!アメーリア様行こう!」

「タハミール!」


しかしなかなか扉の鍵が開かない。狭い小屋だ、手間取っている余裕などない。


「ふんっ、まさかあんたがね。でも残念でした、簡単には開かないんだよ、その鍵は」

「くそっ」


奥の男が手にナイフを持ち近づいてきた。

「ナメたマネするじゃねえか」

タハミールがアメーリアを庇い立ちはだかる。



「いい加減におやめなさい!」

アメーリアがタハミールの前に出た。

たとえ17歳でも彼女は大国の王女だ。

その声には男をひるますには十分な威厳があった。


「今やめたら全て忘れてあげましょう。やめないなら、あなた達は死罪です!」


「うるさいんだよ!」

ロゼッタが近づいてきた。タハミールがアメーリアを押しのける。


男がナイフで襲いかかってくる。しかし男は明らかに腰が引けていた。

タハミールが男に抵抗する。刺されたというよりナイフが当たってしまった結果、彼の腕から血が溢れだした。

「タハミール!!」

「私は大丈夫です!」


「死ね!」

ロゼッタが椅子を振り回し、アメーリアを打った。

しかしアメーリアも負けてはいられない。

彼女は今や子を守る母としてロゼッタに向かっていった。


手当たりしだい物を投げつけ、彼女が振り回す椅子に打たれながらも抵抗を続けた。


タハミールは腕を切られつつ、なんとか男を組み伏せていた。

「アメーリア様!」


ドスッ!

ロゼッタの振り回す椅子の足が仰向けに倒れたアメーリアの下腹部を打った。


「うううっ…」

目の前が真っ暗になった。

ダメ!お願い、無事でいて!


しかし彼女は感じた。ぬるぬるとした生あたたかいものが下腹部から太ももに伝うのを。

見る見る間にドレスが赤く染まっていく。



バァァァン!!

轟音と共に部屋の扉が壊され、ロレンシオと兵達がなだれ込んできた。


「アメーリア!!」


遠のく意識の中、彼女はロレンシオに言った。

「ごめんなさい、守れなかった」

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