誤算
2日目の夜も彼は寝室を訪れた。
3日目の夜。寝室に姿を見せた彼に彼女は驚きを隠せなかった。
「どうした?」
「あ…いえ、あの…ロレンシオ様?あの…無理に来て下さらなくても大丈夫です…よ?」
「無理に?……君は私が無理に、或いは義務として毎晩ここに来ていると?」
「はい…ほかに何が?」
「よしっ、アメーリア、今日はちょっと話そう」
「…はあ…」
「たしかに君ときちんと話をしていなかったな。避けていたと言うべきか。そうだな、悪かった」
「あの」
「ああ。すまない」
ロレンシオは優しく微笑みアメーリアの頬に手を添え言った。
「アメーリア、君が好きだ。愛している」
「…………なんで?」
「ぶっ!なんで、とはなんだ」
「だって、ロゼッタ様が」
「うん。そうだよね。実は…ロゼッタとはもうずいぶん会っていない。彼女とは終わりにしようと思っているんだ」
「へ?」
「ふふっ、アメーリア、なんて声を出すんだ」
「だって…」
「うん、いや、わかってる。私が悪いんだ。まさか君をこんなに好きになるとは思わなかったんだ。君しか愛せなくなるなんて。そんな日が来るなんて思いもしなかったんだ。実際ロゼッタとは長くつきあっていたし、側妃にしようと思っていたが、今君を好きな気持ちほどロゼッタを好きになったことはない。もちろん他の女性も」
「君がこの国に来てから今日まで、本当にお互い忙しかったよね。ゆっくり話す時間もなかったし、王宮の森へもまだ連れて行ってあげられていない」
「でも結婚式も終わったことだし、これからはもっと時間ができるはずだ。
その時間を君と過ごしたい。君のことをもっと知りたいし、私のことを知ってほしい。
正直、ロゼッタと会う時間すら惜しいし、会いにいく気にもなれない」
「………ボンッ!キュッ!ボンッ!なのに?」
「なんだそれ?」
アメーリアがジェスチャーをつけて言い直した。
「ボンッ!キュッ!ボンッ!」
「ぶっ!ハハハハハハ!」
「でもそうですよね!あんな身体になりたいですぅ」
「ふざけるな、やめてくれ。この身体で十分だ。十分すぎるほど十分だ。
おかげで朝起きて君から離れたとたん、君のことが恋しくなって夜ここに来ずにはいられないんだ。
いや、昼間も来たい……いや、本音はずっとここでアメーリアといたい。
このままでは仕事に支障をきたしそうだよ、全く」
ロレンシオは笑いながらアメーリアにキスをした。
「ロゼッタには近々きちんと別れ話をしに行こうと思ってる。もう迷いはないんだ…ずいぶん前から」
「………そうなんですか」
「こんなことになるなら恋人がいるなんて白状しなければよかったよ。話がややこしくなった」
「すみません」
「君が悪いんじゃない。私が愚かだったんだ。君を好きになるなんて予想外だった。嬉しい誤算だ」
「さて、私の話は終わりだ。次は君だよ。
アメーリア、君にも……私ではなく別に想う人がいるよね」