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ロレンシオの変化

「少し休もうか」

ロレンシオはアメーリアに声をかけバルコニーへと誘った。



「わぁあぁ!!気持ちいいーー!!……あっ、申し訳ありません!」

「ハハ、構わないさ。2人のときは気を抜けばいい」

(まずいな、かわいいぞ)

「ありがとうございます」


「はぁー夜の庭園も素敵ですよね」

会場から洩れてくる灯り、夜の庭園、漂う花々の芳香、星が煌めく夜空、そしてアメーリア。

(天使か神話の中なのか……なんなのだ今夜は。そしてなぜ俺はこんなにも彼女に惹きつけられるんだ)



「殿下」

彼の側近であるジルギートが2人の飲み物を持ってきた。

「ああ」

ロレンシオはそれを受け取ると、彼女の隣に並んだ。そして見た。


庭園を見つめる天使は先程とは一転しひどく悲しそうで儚く消え入りそうな表情をしていた。彼の差し出したグラスが一瞬止まった。


「あっ、ありがとうございます」

ロレンシオに気づいて振り向いた彼女の顔には天使の微笑みが戻っていた。



「兄上、アメーリア様」

「ああ、ハロン」

「こんばんは、ハロン様」

「兄上、陛下がお呼びですよ」

「ああ」

「良ければアメーリア様は私がお相手を」

「ああ…いや、一緒に行こう。アメーリア、大丈夫かい?」

「はい」


彼は若干疲れが見えるアメーリアを労るように彼女の腰に手を回し会場へ戻って行った。


「へぇー兄上がねぇ…」

「はい。今夜は片時も離れずにいらっしゃいます」


ハロンとジルギートは思わず顔を見合わせ笑いあった。



ーーーーーーー


「さすがにちょっと疲れたな…」

彼女は庭園を見ながら静かに息を吐いた。


これだけたくさんの人がいるのに、やっぱり櫂はいない。当たり前だけど、わかっているのについ探してしまう。

櫂も転生してきてくれないかな…



あ~~ダメ!なんて未練がましいの私。


それにしても、ロレンシオ様は恋人がいらっしゃるとはいえとても優しい。今日はずっと横にいてくださる。正直めちゃくちゃありがたい。いい人だ。

私もちゃんと『婚約者』しなきゃ!


ーーーーーーー

「ベンハミン!」

陛下である彼の父と話を済ませると、彼はアメーリアを伴い、友人に声をかけた。

「ベンハミン、あらためて紹介しよう。アメーリア、幼なじみのベンハミンだ」

「はじめまして、ベンハミン様」

「……………」

「どうしたベンハミン?」

「…近くで拝見すると…あまりに美しすぎて…お前よく耐えられるな」

(いや、必死だ)

「ちなみに我々と同じ人間ですか?」

「はい?…ふふふふふっ、ベンハミン様はご冗談がお上手ですね」

「あなたのようにお美しい方が、我が国のような小さい国に嫁いで来られるなんて…ロレンシオに代わりお礼申し上げます」

「いえ、決してそのようなことはございません。デバルザン王国は大変素晴らしいお国です」


「領土の大きさや軍事力で計るのも大事ですが、民の表情、町並みや田畑の様子、自然の美しさ、何より陛下を始め王族の方々のお人柄。

国を計るのはそれらの、ともすれば見落としてしまいがちな小さなひとつひとつの事柄です。

そのようなことにこそ、真実が見えるものです」


「私はここへ来る道でそれらを目にし、この国はきっと素晴らしい国に違いないと確信いたしました。

そしてきっと素晴らしい王族方が治めていらっしゃるに違いないと」


彼女はここまで一気に話すと、ロレンシオを見上げ微笑み言った。


「なので私は今、とても感謝致しております。

お会いした方々はどの方もとても素晴らしく尊敬の念の絶えない方々ばかりです。

こんな素晴らしい国に嫁げる私は幸せ者です。

この国の者となれる喜びを感じております」


ベンハミンだけではない、ロレンシオだけではない、彼女の言葉を聞いていたその場の人々全てが彼女の言葉に心を打たれ息を止めた。


「でも…まだまだ学ばないといけないことが多くて…私の小さなおつむでは少々前途多難ですが…がんばります!ので…長い目で見て頂けると嬉しいです」

彼女の声がどんどん小さくなっていき、申し訳なさそうに上目遣いでロレンシオを見てくる。


(抱きしめていいだろうか?ここは抱きしめる場面だろ?!いや、ダメか、ダメだな、ダメか?ダメなのか?!)


「ぶっっ!!!ハハハ!ロレンシオ!お前の婚約者、気に入ったぞ!

アメーリア様、ようこそ我が国へ。心から歓迎申し上げます」

周りから笑い声と大きな拍手が沸き起こった。



それはリベラリオ王国アメーリア王女が、デバルザン王国ロレンシオ王太子の未来の妃アメーリアとなった瞬間だった。


そして同時にロレンシオの心の中にアメーリアに対する愛情が芽吹き、彼自身がそれを感じた瞬間でもあった。





「ロゼッタがえらく怒って帰ったぞ。気をつけろよ」

ベンハミンの小さな囁きにロレンシオは平静を取り戻した。



気づけば今の今までロゼッタのことを忘れていた。彼女のことなど1秒も思い出さなかった。こんなことは初めてだ。

しかしそれすらもはやどうでもよいと思えた。

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