想い
「そうだな……私にとって王位継承者というのは運命だ。
君に会うまで私にとって、自分と運命の間には大きな溝のようなものがあったのだ」
(自分と運命の間の大きな溝。ロレンシオ様もそんなふうに思うことが…)
「自分にとって王位継承者という運命は重すぎた。そして王位継承者にとって自分という人間は不十分だった。
責任を感じつつ、その責任から逃がれたい。
常に2つの異なった考えが自分の中で渦巻いていたんだ」
「しかし初めて君が私の婚約者として隣に並んだ時、私はなぜかひどく安心したんだ。君が隣にいるだけでとても…そう幸せを感じた。
君が隣にいると私は私であり同時に王位継承者でいれた。
私と運命の間の溝が埋まった気がしたんだ」
(私も、ロレンシオ様に愛されることで溝を埋めていった…)
「要は怖かったんだな、私は。
自分が果たして王位継承者に相応しいのかどうか」
「しかし君が隣にいてくれるなら私は王位継承者としてやっていける。いつかこの国を治める者となった時、そこに君がいてくれればこんな私でもやっていけるんじゃないかと思えたんだ。
小さなことにこそ真実が見えると言った君が隣にいてくれるなら、私は何も怖くないと思えた」
「君には本当につらい思いをさせてしまった。でも私は気づいたことがあった」
「私は1人じゃなかった。もちろん君がいる。そして父上や母上がいる。ハロンもいる。ジルギートもタハミールも、皆が私を助けてくれた」
「私はいつの間にか自分1人で全てを背負っているかのような気になっていた。驕りだ。そしてその自分が作り出した驕りに自分で怯えていたのだ。愚かな話だ」
「父がロレンシオ様のことを『愚かな男だ』と褒めていたと兄からの手紙に書かれていました」
「愚かな男だと褒める?それは褒められているのか?」
「ふふっ。ええ、父が笑っていたそうなので」
「父が主催の勝利を祝う舞踏会、ロレンシオ様は『妻に会いたいので』と断ったそうですね」
「ああ、当然だ。舞踏会など君に会うことの価値には比べようもない」
「でも『せっかく他の国々にヤツを紹介してやろうと思っていたのに。栄光より妻か』と笑っていたと」
「アメーリアがいれば何もいらない…いや、それはそれで王位継承者としては無責任か…難しいな」
2人は笑いあった。
「それにしても君の父上には恐れ入るよ。全てお見通しだ」
「なんのこと?」
「結婚式で君の兄上が教えてくれたのだ」
ーーーーーーー
「ロレンシオ様、先程あなたが言った、アメーリアにメロメロだというのは本当ですか?」
「はい。本当です。嘘偽りございません」
「………そうですか。父の言ったとおりでした」
「私はあなたにアメーリアを嫁がせることを反対しました。あなたには恋人がいる、それをわかっていながら、なぜ大切な娘を…妹を嫁がせるのか。すると父が言ったのです。
『アメーリアをそばに置いて、他の女を愛せるものなら愛してみろ』と」
「『愛せるものなら愛してみろ』ですか……ふっ、たしかに。私の完敗です。もう彼女しか考えられません。他の女性などいりません」
「そうですか。その言葉を聞けただけでも今日は来て良かった」
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「父ったら…なんて恥ずかしい。図々しいことを」
「いや、父上の言う通りだ。君以外の女など愛したくない。愛する価値もない」
「それよりアメーリア、2人のこれからの話をしよう」
「アメーリア、何がしたい?どこへ行きたい?何が欲しい?なんでもいいぞ。なんでも叶えてやる。
今回の戦の褒美に父上から当分ゆっくりしていいと言われた。時間ならたっぷりあるぞ。さあ、何がしたい?」
「なんでもいいのですか?」
「ああ、もちろんだ。なんだ?何が欲しい?」
「私は…ロレンシオ様が…欲しい」
「ふんっ、もうその手には乗らん」
「違いますっ!ほんとです!ほんとにロレンシオ様に、あの…抱かれたいのです」
「アメーリア……でも…まだツラいんじゃないか?大丈夫なのか?」
「辛ければそう言います。でも…」
「よしっ、帰ろう」
「今ですか?せっかく来たのに?!」
「じゃあここででもいいぞ」
「いーやーでーす!!」
「じゃあ帰ろう」
「だから今ここ来たとこですよね?今、ようやく来れたって話しましたよね?夜です、夜でいいんです!」
「ふざけるなっ!愛する妻に抱いてと言われて夜まで待てるかっ!」
「キャーッ!ちょっと!お、お姫様抱っこって!」
「うるさい!帰るぞ!でもとりあえず…」
そう言うとロレンシオは彼女に強くキスをした。
「愛してるアメーリア」
「はい。愛しています、ロレンシオ様」
「よしっ、帰ろう」
「もぉ!」
アメーリアは彼の首に歯を立てた。
「ぬおっ!!」
「『ぬおっ』て!ロレンシオ様、『ぬおっ』て!アハハハ!」
「うるさいっ!ここで抱くぞ」
「はいっ、すみません!」
2人の笑い声は彼らの部屋まで延々と続いた。
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