王宮の森
「気持ちいいーーー!!ロレンシオ様!空気が美味しいですね!」
「ああ」
2人は王宮の森で木陰に腰をおろした。
「ようやく君をここに連れて来られたよ」
「はい。ようやくですね」
「ほんの5分ほどの距離なのに…ずいぶんと時間がかかってしまった」
「はい」
「寒くないか?」
「…むしろ身体が…熱いんです…ロレンシオ様…」
アメーリアが彼を妖艶な上目遣いで見つめた。
「っっ?!」
「冗談でーす!」
「!!!お前はっ!!!」
「キャーッ!」
ロレンシオがげんこつで彼女の頭を突き、そのまま肩を引き寄せた。
「こんなふざけたことを言えるならもう安心だな」
そう言ってキスをした。
「王妃様がおっしゃって下さいました『ここにいなさい』と」
「母上が?」
「はい」
アメーリアは王妃との会話を思い出していた。
ーーーーーーー
散歩からの帰り、アメーリアは向こうから歩いて来る王妃に気づき道を空け頭を下げたまま通られるのを待った。
何も言ったわけではない。相談したわけでもない。
なのに王妃は彼女の前で足を止め声をかけてきた。
「ここにいなさい」
「え?」
「ここにいればいいのです」
「王妃様。でも、もう皆様のお役には立てないかもしれません」
「あなたはロレンシオの心を私達の元に戻してくれました。感謝しています」
「お言葉ありがとうございます。でも…それだけでは…」
「あなたはまだここに来て1年ほど。答えを出すのは早いのではないですか?これからゆっくり探していけばいいのです。先は長いですよ」
ーーーーーーー
「母上は長く子どもに恵まれなかったと聞いた」
「はい」
ロレンシオが留守の間、ハロンが、ベンハミンが、そしてタハミールが見舞いに来ては優しい言葉をかけてくれた。
王宮の使用人も侍女も、皆がアメーリアを励まし支えとなってくれた。
「この国に来て本当に良かった。ロレンシオ様の妻になれて本当に幸せです」
アメーリアは心からそう思った。
転生に大喜びとは言えないけれど、今はがんばって生きていこうと思える。
「そういえばヤルジャーニ国王から礼を言われたぞ」
「ヤルジャーニ?隣国の?」
「ああ。初めてここに来る途中、ヤルジャーニに泊を取ったらしいな。その際、君に森の木々に病があるように思いますと言われたと…」
「あ、たしかそうでした」
「君のおかげで被害が大きくならずに済んだと言われた。結婚式で君に礼を言いそびれたらしい」
「そんなわざわざ…お心を配ってくださったんですね。広がらずに済んだなら良かった」
「なぜ気づいた?」
「色がおかしかったので」
「そうか。そういえばそういう小さいことこそ大事だと言っていたな」
「はい。そう教えられました」
ロレンシオは優しく微笑みアメーリアの頭をクシャクシャッと撫でた。
「ロレンシオ様?」
「ん?」
「おたずねしたいことがあります」
「なんだ?なんでも答えてやるぞ」
「ロレンシオ様はどうして私のことをそんなに大切にして下さるのですか?遠国から来たからですか?」
「ふっ、なんだその理由は。まぁ遠国から来てくれたことは感謝しているが」




