レポート5 おもちゃ箱になる世界
オチがちょっと弱いかも・・・。
異世界からくる人間についても、ある傾向が見られた。
自分と似た波長の神々が管理する世界に引き寄せられる、または神が己と近い魂を集める傾向があった。
神が生前コンプレックスを抱いていれば、同じくコンプレックスを抱えている魂が。
承認欲求が高い神が管理する箱庭には、同類の魂が。
最期まで現実逃避した末に神に転生すれば、現実から逃げ続けていた魂を。
中身が成長していない「子ども大人」であったならば、メンタルが幼いままの魂を。
ニートだったものが神になれば、同じく勤労意欲の薄いものが。
差別を受けたものであれば、同じ差別されて苦しんだ人間を。
モフモフを愛するものは、同好のものを。
己の軸を持たなかったものは、周りに流され続けたものが。
暖かい家庭を求めていた神は、家族に恵まれず絆を求めるものを。
モテモテ願望がありながら生涯孤独だったものは、モテたい欲望が空回りしていたものが。
中身が空っぽのまま神に転生したものには、虚無を抱えた同類が。
料理好きなものは、料理が得意な人間が。
それは無自覚な仲間意識か、同類相哀れむか。類は友を呼ぶか。
神々と異世界の人間たちは似た者同士、惹かれ合う傾向があった。
中には転生した人間たちを活躍させることで、自分自身のコンプレックスを解消させようというものもいた。この場合、半憑依し転生者を己のアバターとして行動させ、満足するまで好き放題させていた。
これにより精神の成長を促すことに成功すれば、双方にとって有益である。
だが、逆に双方の人格が歪み、ただ『人形』を愛でるだけで実際は誰も愛せなくなる。何もかも都合通りでないととてつもないストレスになる人間と神も少なからずいた。
同様に、過労死の後に神になれば同じく過労死をした魂に同情して力を与え、過労とは無縁な生活を送ってほしいと考えた(実際にはトラブルに巻き込まれる例が多いが)。
愛を求める神は、愛情に飢えた、愛を知らない魂を通じて、ひたすらに愛される人生を過ごしたいと目論んだ。だが、それが正しい愛のカタチなのか、それが分からなかった。
殺戮衝動を持った神は、他者を害するのに抵抗のない魂を呼ぶか、普通の魂でも倫理観を改ざんして管理する世界の命を狩らせていった。
むろん己の波長とは無関係な魂を呼び寄せるものもいた。自分たちの失態で死なせてしまった罪滅ぼしのために、転生させる神がいたのだ。
かつて人であった名残なのか、人間らしい責任感を感じ、来世で幸せに過ごしてほしいという『善意』のもと、管理する世界に送り出した。その際通常の生まれ変わりのほか、前世で死亡する直前の肉体を再現した状態で箱庭に呼び出すこともあった。
己のミスで生命活動を停止させてしまった人間を救済するのが神々の間で半ば義務になっていたが、中には転生「させてやっている」と考えるものもいた。そういう神はいちいち謝罪するのも面倒だとして、謝罪役にNPCを用意した。
NPCの姿や性格は神によって様々で、老若男女、人間以外の生き物や無機物のときもあった。それすら面倒くさいとして、何の説明もなしにいきなり転生させる神もいた。
NPCは箱庭内部にも神の手足として送り込まれることもある。その際NPCが箱庭の住人にとって「神」と認識されている。
またトラックに追突されて死んだ、という認識が転生者には多いが、これは己の死を理解させるのに最も有効的かつ、以外と精神的ショックが少ないとされ、実際は別の死因(病死、自殺など)でも、記憶を改ざんされることが多いため。
あまりにも過酷な死因の場合、精神的に悪影響なため、ある種の救済措置と捉えられていた。
だが記憶改ざんの影響で、生前とは人格が別物になったり、死因以外の記憶も欠落するケースも目立った。
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箱庭を担当する神は通常一人だが、世界の融合が発生することで、複数の神々が合同で統治する多神教の世界観に変化する。
この場合、箱庭へのスタンスや影響力の違いなどで何かしらのトラブルが起こるため、最悪世界から追放される神も出てくる。
それぞれの世界に担当神が一人しかいなくても、近隣の神と交流し、他所の箱庭にちょっかいをかけるケースもあった。
それが原因で、それまで来ることのなかったタイプの転生者、転移者が箱庭に来訪することがある。それにより中の社会に大きな変化をもたらすパターンがみられた。
しかし、自分を唯一絶対の神だと思い込み、ほかの神々の存在を認めず、世界をまとめて支配しようとしたものもいた。
侵略する神は、各世界にとってもはや邪神であり、討伐対象として、同じ神に、または人間たちに撃退されていった。
人間であった前世の記憶を思い出し、世界を自分の思うがまま好き放題に『管理』する神も出てきた。
自分好みの美女、美少女だけしか存在しない世界。自分だけ無条件に愛される。他の男はみな踏み台のかませ犬、そんな世界に作り変え、理想の主人公として降臨して酒池肉林を楽しむ神がいた。
イケメンだらけの世界。理想のヒロインである自分だけチヤホヤされて愛をささやかれて、美顔を鑑賞する。悪役令嬢の没落を酒の肴にする。時に自分の寵愛を求めて争うのを見て満足する女神がいた。
小さな世界であれば、前世で過ごした現代の街を作る神もいた。そこでかつての日常を、または過ごしたかった充実した日常を再現して生活していった。
あまりに酷いと放置すれば世界は滅ぶが、そんなこと知ったことではなかった。
このような神は目の前の快楽や幸せを享受することで頭がいっぱいで、世界の行く末など、想像すらできなかったのだ。
問題行動を起こす神々も多数出てきたが、“彼ら”は問題視していなかった。
“彼ら”にとって神のもととなる人格が無害か有害か、人間社会を発展させるかどうかなどは理解の対象外であり、どんな世界を作ろうが観察対象の一つでしかなかったのだ。
しかし世界を滅ぼそうとする神に関しては例外で、「人類の存続」という条件に違反するため、神の座をはく奪される、ほかの神々によって対処させるなどをすることにした。
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時に神は交代することがあった。
己の世界の住人に討たれ神の座を譲り渡すことになるもの。
神の地位に飽きた、疲れたなどの理由で誰かに押し付けるもの。
やりすぎて箱庭を滅ぼしそうになり“彼ら”に管理者にふさわしくないと判断され、地位をはく奪されるもの。
箱庭同士の融合の際、神の座を追われるもの。
理由は様々あれど、もとは人間である以上、絶対不変であることはなかった。
神の座から退いたのち、箱庭の中で元神という超越的な存在のまま過ごすもの、人間として生きなおすもの、別の箱庭へと逃走し再起をもくろむもの、全てを忘れ異世界へと逆転生するもの、色々な生き方を選んでいった。
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箱庭は、神、転生者、転移者のいずれかを悦ばせるためだけの舞台装置となっていった。
そしてそこにいる住人たちが「生きている」ことを実感できなくなり、弄んでいる自覚がなくなっていった。
自分たちの無意識な都合に合わせて踊る人形劇にしてしまい、狂わせてしまうことも多々あった。
また邪神が介入し、本来の世界とは別物に変化してしまうこともあった。
物語の出来事を歪め、善人を悪人に仕立て上げ、世界を滅茶苦茶にする。
実在しない物語の記憶を植え付けて、悪役令嬢を断罪し逆ハーレムを作るのがtrueエンドだと偽りの認識をさせる。
特定の人間を絶対視するようプログラミングをする。
複数の人間に同一人物の記憶と人格を植え付けて、自分こそが本物の転生者だとお互いに争わせる。
幸せだった過去やあり得た幸せな現在を作って、思考力や記憶を奪って腑抜けにさせたうえで操り人形として暴れさせる。
これらの混乱を起こし、侵略のきっかけ作りに利用した。
邪神の干渉を受けた人間たちは頭の中身を好き放題にいじられたため、人格が変わり果てる。あるいは都合よく動くように人格を上書きし、全くの別人と成り果ててしまうが、彼らが救われるケースは少なかった。
箱庭の中の人間は、システムに飼われている愛玩動物と大差ないものとなっていった。
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惑星が復活したとき、“彼ら”と人間の関係がどうなるのかは分からない。
もし、前触れもなくいきなり箱庭の外に出された人間たちがどうするのか。
外に出ず、箱庭にしがみつく人間たちが現れるかもしれない。
人間たちが“彼ら”に争いをしかけ、惑星を去るかもしれない。
ただそれが分かるのは、まだまだ遠い未来の話である。
ひとまずこれで完結です。ここまでお読みいただきありがとうございました。