レポート4 神々の登場
アンチのつもりはないけど、そんな風に読めてしまうかもしれません。
改めて読み直してみたら、人間視点だと“彼ら”行き当たりばったりな行動してますけど、違うメンタルだからってことで・・・。
徐々に新たな問題も浮上した。
箱庭が細分化された上に転生者、転移者の件も加わり、人間でいうなら人手が足りなくなってきたのだ。
そこで代わりに分割した世界を管理するものを用意するために、転生をシステムとして利用した。
箱庭、異世界を問わず、適性があると判断した魂を各世界を管理するシステムの一部として組み込むことにしたのだ。
前世の記憶を消し、管理者『神』の役目を与え、それぞれの世界の管理を任せていった。
ここでいう神とは、超越的な精神を持った高次元の存在ではなく、箱庭限定で突如強大な力を持たされた人間であり、転生者の成れの果てとも言える。
“彼ら”は『神』という概念を理解しておらず、人類の伝承にある「世界を創造した」「人々を生み出した」という文言から、世界を管理する役職名としたに過ぎない。
己が何者であったかも忘れた管理者は神らしくあろうと、己の姿をそれぞれの理想へと変化させていった。
幼子であれば、大人へのあこがれから成長した姿へと。
変身願望が強ければ、美少年、美少女へと、性別をも変化せた姿へと。
若々しさを求めていれば、若い姿へと。
無垢であることが大切であれば、幼児の姿へと。
ほとんどが美形と称賛される姿であり、人間の姿をしていた。
管理といっても、制御は“彼ら”が行うため、神の役割は箱庭を安定させるための楔である。特に何かする必要もなく、人類の存続さえ守られれば、見守るのも、干渉するのも各々の自由に任せていた。
この時点でも転生する前の魂が箱庭出身か、異世界出身かで、どれほど力を持った神として君臨するか、管理世界にどの程度干渉できるか差がついた。
例えるなら、
初めから終わりまで見ていることしかできない、本を読む読者。
選択肢や行動によってエンディングが変化する、ゲームをプレイするプレイヤー。
世界の設定から登場人物まで好きに未来を作れる、物語を創作する作者。
である。
この目論見はある程度成功した。
神によって手出しせず見守るスタンスと、積極的に介入するスタンスと分かれたが、どちらも世界とその中に生きる人間たちの存続を第一に行動していった。
また異世界から人間を召喚する技術を実験的に提供し、各世界のエネルギー管理も神々に任せることで、“彼ら”自身の負担を減らすことも可能となった。
しかし、神々では異世界から呼び出す力が足りず、呼び出した人間が異常な状態になってしまうバグが発生する確率が高かった。
◆
神が管理するようになって、それぞれの世界に変化が生じてきた。
特に異世界出身の魂から転生した神々の世界では、顕著だった。
転生する前に消されたはずの前世の記憶の名残から、「異世界とはこういうもの」という認識を持ち、それに応じてゲームや漫画のような中世ヨーロッパ風の世界にしてしまうケースが相次いだ。
具体的に言えば、レベルやステータスを世界のシステムに加え、スキルやレベルアップなどを世界に住んでいる人間たちに認識させ、それを常識とした。
数字であらわされるため一見すると分かりやすく、他の神もそれを真似して同じようにするケースが相次いだ。
しかし、これには欠点があった。ステータスシステムの完成度が低いと、トラブルが多発するのだ。
例えばステータスの数字を重視するあまり、ステータス絶対主義となり、低いとみなされた人間が過度に悪く扱われる傾向が広まっていった。
また、そもそもステータスに表示される数字の正確性にも問題があり、実際よりも誤差が生じる危険性もあった。
ステータスやスキルに表示されない技能を持っていても、正当に評価されない、技能として認められないなど、可能性を狭めてしまうケースが多発した。
スキルもうかつに使えば悪影響を及ぼすものもあった。
レベルについても、過酷な訓練をしても条件を満たさなければレベルアップすることはできない、つまり強くなれなかった。たとえばモンスターとの戦闘でのみ経験値が手に入るという仕組みの世界だと、訓練を重ねて達人になっていても、低レベル判定され、実力を認められない人間が続出した。
また、パーティーメンバーに加入しているだけで、実際には戦闘ができないのに経験値だけは手に入ってレベルアップする場合もあり、レベルの数字だけで傲慢なふるまいをするものも多発した。
レベルアップでも力の伸び方、伸びる実力が決まっているため、本来なら向上するはずの数多の能力の伸び方が制限されてしまう弊害も発生した。
例えるなら最大で99と決まっている世界なら、それ以上は何をやっても決して向上せず、限界が定められてしまうのだ。また、システムとの相性が悪ければ、どうしても実力が伸び悩むケースもある。
仮にレベルのシステムが存在しない箱庭の人間と比較した場合、全く同じ経験を積んでも、実力差が露骨に出ることもある。
「強くなったからレベルが上がる」ではなく「レベルが上がらなければ強くなれない」仕組みの、分かりやすく言えば「不自然なまでに強くなれない世界」になってしまう恐れがあった。
そういった事情もあり、能力を数値で判定するのは限界があるとして、レベルやステータスのシステムを使わない神もいる。
神同士でもこのシステムを使う、使わないで派閥が出来、さらには娯楽の一環として戦わせることも行われていた。
レベルが一億を突破している若者が、戦闘技術を極めた老人に敗北したことに気づかないまま地に伏していたり、世界チャンピオンがレベル10の子どもに圧倒されるなど、その結果は様々であった。
このほかにも文明レベル、宗教、社会システムなども、ゲームのようなファンタジー風異世界に合わせて構築されていった。これに加え中世ヨーロッパ社会の正しい知識がないため、本来ならありえない非常識な常識がまかり通っており、社会にしばしば混乱が起きる事態も少なくなかった。
潜水艦にバイク、水着や下着など、技術体系もおかしなことになっており、存在しないはずのものも存在するようになっている(原料となる特殊な植物や、素材となる皮を持つ動物などを生み出すなどで対処している)。
箱庭に干渉する力が低く、魔王など敵対存在に滅ぼされる世界を管理する神は、王家などに異世界から人間を召喚する技術を伝え、それを対応策とした。だが正確に伝わるとは限らず、余計なトラブルを引き起こすこともあった。
◆
神の価値観、趣味や性癖も箱庭の住人たちの思想、価値観に影響を与えていた。
男でなければ活躍できない、女は奉仕をすることが美徳とされる男尊女卑の世界
女ならば優遇され褒め称えられる、男はあらゆる不条理を背負わされる女尊男卑の世界
年頃の女性はやたらと肌の露出の激しい服装が多い世界
戦う力だけが最も尊敬され、それ以外の技術がないがしろにされる世界
男がみな一様に美形ばかりの世界
正面からの力押しだけが正攻法で、戦術、戦略などは外道扱いされる世界
ある特徴を持った人間は無条件に差別する世界
貴族ならば平民を差別して苦しめるものだという奇妙な選民思想に支配された世界
亜人を人とみなす世界
亜人をモンスターとみなす世界
モンスターと共生する世界
モンスターを絶対悪とする世界
神の元となった人格が愛を知らないため複数の異性とつながりを求め、結果的にハーレムを作ることが推奨される世界
美女、美少女が歴史の表舞台に出て男は転生者を除けば脇役扱いの世界
といったことが挙げられる。
肉体にも影響を及ぼし、体毛の有無、病などのほか、特に女性は若い期間が長い一方、ある程度の年齢になるとその反動のように実年齢よりも老け込む世界もあった。
この魔法とファンタジーの世界観を守るため、神々は干渉を繰り返し、文明の発展を阻害し、結果的に停滞した歴史を作り出す要因にもなっている。
異世界からの来訪者によって文明レベルが高くなることもあるが、その死後、文明レベルを元に戻すことも行われた。人々から知識を奪い、疫病や大災害、戦争などを起こし文明を後退させ、再びファンタジー世界にやり直したのだ。
箱庭出身の魂が転生した神々はこのようなことが理解できず、対立も生じた。管理する世界の人間同士をぶつける代理戦争まで起きる事態となった。
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箱庭の住人や転生者、転移者に対しての扱いは、神の元となった人間に応じて、千差万別であった。
エネルギー確保のため、異世界の人間を死なせないよう特別扱いすることが深層心理に刻まれているが、特別の意味を勘違いし、VIP待遇で接待するものもいれば、某ギリシャ神話なみに好き放題するものたちまで現れた。
不幸な人生を送った魂を救済するのが役目だと考え、充実した来世を過ごさせるため転生者に過剰なまでに都合の良い世界にしてしまう神がいた。
この場合、転生者を周囲の者たちが称賛し続け、悪感情を抱かせないようにした。分かりやすく言えば、転生者らに対して好感度が高くなるプログラムが施されているのだ。
また彼らが活躍をする場を作るため、転生者が救うことになる不遇の環境に置かれる人間、倒すことになる物語の悪役ポジションとなる人間を用意した。
不遇な立場に落とされてからの逆転ものが好みな神だと、絆を壊し、あえて不遇な状況に追い込んだ後、徹底的に過剰なまでに報復をするようにした。
または優秀な人間がどうしようもなく落ちぶれてしまう姿が見るためだけに、大勢の人間の心を書き換えたりもした。
魔王など人間以外の種族がいればそれを敵対存在に仕立て上げ、人と魔が争う世界にし、力を遠慮なく使える環境を準備した。
逆に魔王に転生させて、神が管理しきれないほど増えた人間の数を調節したり、人が虐げられている姿を見たいがために侵略戦争を起こさせたりもした。
これは神によるマッチポンプともいえるが、箱庭内部のものたちには当然思考、行動を誘導されている自覚はない。
神がしていることは、人間一人ひとりを操るのではなく、世界そのものを自分の好みに操ることで、そこに住むものたちの思考を誘導するといった方が正しい。
幼い子どもが元となった神が作る世界は、それに応じて幼児向けの物語のような世界観となった。そこには血を流す争いはなく、誰もが(子供の考える)平和な日常、ワクワクする冒険を謳歌していた。
悪者をやっつけるヒーロー、ヒロインの戦いも常日頃から起きているが、戦ってもケガすることなく、勧善懲悪の物語が繰り返された。
前世で死の概念を理解する前に亡くなったため、この世界観では死ぬのではなく、「爆発する」か「いなくなる」。
そこでは死期が迫ると死亡するのではなく、いつの間にか世界から消えていなくなってしまっていると認識される。なお、当然のように幽霊となって姿を現すこともある。
平和な世界ともいえるが、何らかの形で悪意を持った何者かが現れた場合、抵抗できず蹂躙される恐れがあった。
転移した人間を見て、意味もなく苦しむ姿が見たいと思いついて次々と試練を与え、理不尽な目に合わす神もいた。もし死んでしまえば箱庭のエネルギーにも支障をきたすはずだが、そんなことは頭になく、まるで虫を潰すのを飽きるまで続けるようであった。
同じように試練を与えながら、どんなふうに克服するのかを楽しみにしている神もいた。試練を乗り越え成長をすることで恩恵を与えるもの、自分が満足するだけで何も与えないものとに別れるが。
特に何かしようとは思わず、適当な力を与えてどうするのか観察するという“彼ら”と同じようなことをする神もいた。
このような神の場合、好奇心や研究欲からくるものと、単なる暇つぶしでするものに分かれ、後者は与えた力で冒険しようともスローライフを送ろうとも気にしなかった。途中で興味を失い、忘れて放置してしまうこともあった。
異世界の様子を観察し、そこにある物語を模倣した世界を作った神もいた。しかし、どれだけ模倣しようとしても、完全な再現は不可能であり、何より転生者、転移者はコントロールしきれず、わずかな差異の積み重ねで全く違う世界になった。本来なら善なるものが他者を陥れ、悪なるものが純粋な心を持つように。
そもそも前提となるシナリオなどが破綻しており、現実に再現すること自体が無謀であるにも関わらず、無理やり強行するケースもあった。
物語を全く理解しておらず、初めから原典とはまったく異なる世界になっているにも関わらず、「これこそが正しい」と思い込んでいるものもあった。
全く異なる状況になろうとしても、登場人物たちの役割を与えられたものたちの意識に介入し、無理やりにでも物語を再現しようと『強制力』を働かせるケースも多々見られる。
よく漫画やアニメでおじいちゃんおばあちゃん出る際「いや年取り過ぎだろ。もう一回りいってるだろ」と昔から疑問に思っていたんで、こんな理由かも、と思いました。
神々が人間の姿にこだわるのは、無意識の底で「自分は人間」という認識が残っているため、ほかの生き物の姿になれないからです。