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レポート2 魔法の誕生

ファンタジーというより未知との遭遇ですね今回。

箱庭の安定運用のためのヒントを模索するため、異次元を研究していたときだった。

ある時突然、未知なる存在とコンタクトが取れたのだ。


 映画と違うのは、宇宙からの来訪者ではなく、異次元を放浪する漂流者であったこと。

そして、グレイタイプでもタコ型でもない、既存の有機生命体とは全く異なる存在だったことだ。


珪素生物、に分類されるその存在は、外観からでは超巨大な岩の集合体にしか見えなかった。だが、れっきとした高度な知性を持っており、人類のコンピューターを通じてコンタクトを図った。

もっとも、その手段にいささか以上の問題があったが。


アクセスを試みた珪素生物によって全てのコンピュータがハッキングされ操作不能、向こうからのメッセージ代わりの大量のデータを受信し、その間人類は何が起こっているのかも誰も理解できず、大混乱に陥ったのだ。

あやうく箱庭の制御にも支障をきたすほどであり、これにより脅威を覚えたのは言うまでもない。


人類に戦う力が残っていたら、敵対存在として攻撃しようとしたかもしれない。


もっとも、あまりにも相手が強大すぎて、戦いとして成立するどころか、相手にされないだけで終わっただろうが。


その存在がどこで生まれたのかは、もはや本人(?)にも分からない。それほど長い間、異次元を放浪し続けていたのだ。

小さな個の集まりを基準に成立している人類とは違い、群体でありながら巨大なスケールを誇る一個の生命体として成立する小惑星サイズの巨大なそれは、多くの面で当時の人々の理解を超えていた。

 また、放浪中に出会った、己の住む世界をなくした情報生命体を住まわせ、両者は共生関係にあった。


以降、“彼ら”と呼称する。


“彼ら”は箱庭が実用化され始めた時期から、人類の存在に気づき、観察を行っていた。


特に“個”の概念に非常に興味を持っており、同種同士で争ったり、それぞれが勝手に動き回る様子は“彼ら”には珍妙に映っていた。

また、人間と自分たちとの生死の概念の違いについても理解が足りておらず、滅ぶ寸前になるまで干渉しなかったのも、自殺行為同然のことを積極的にするとは予測できなかったのだ。

このこともあって理解を深めるためにも、より観察を続ける必要があると考えていた。



「このまま人類が滅んでしまえば、“せっかく面白い観察ができる”と思ったのに、台無しになる。

だから、人類を存続させるのに協力しよう」


要点をかいつまめば、己の知的好奇心を満たすために人類に救済の手を差し伸べたのである。


“彼ら”の思考パターンは人類とは違いすぎて、このように単なる気まぐれにしか思えないものが多々あることが、交流を通じて判明した。


お世辞にも好意的な理由からではなかったが、後がないのだ。

人類は彼らの協力を受け入れた。


あまりにもメンタルが違いすぎる“彼ら”と協力関係を結ぶことに大なり小なり不安を覚えるものは大多数いたが、もう打開策はこれ以外になかった。


そして、人類の未来を取り戻すためのプラン作りが始まった。



計画の最終目標は、人類社会の繁栄を取り戻すこと。


そのためには、人類種の存続と星の再生、この二つを成し遂げるシステムが必要だった。


当初は母星を捨てて、かつて提唱された異世界へと移住する案もあった。

だが“彼ら”に提供されたデータによって、数多ある異世界から人間が住めるものを見つける確率は低く、残された人間たち全員を生きたまま異次元を通じて運ぶ手段もないことが判明したため、現実的ではないとされた。


最も現実的とされたのは、箱庭の中で暮らし、惑星の環境が回復するまで待つことであった。

だがそのためには、長きにわたり箱庭を維持し運用するためのエネルギーが必要だった。

そもそも箱庭の安定運用には何が有用なのか、それが長らく不明だったのが使用が制限された原因である。


しかしその問題は“彼ら”によって、簡単に解答が導き出された。


中にいる人間の魂が発するエネルギー、それが箱庭の維持に必要だった。

それも数が多ければ多いほど、エネルギー効率は上がり、安定するとされた。


最初人類は困惑した。魂の実在自体、一部の研究者を除けば、オカルト扱い、空想の産物という認識だったのだ。

しかし“彼ら”に言わせれば、魂は世界を構成する必要不可欠な要素であり、生き物だけでなく、モノにも宿る、普遍的なもの。魂の概念を知っていながら存在を信じていない人類の反応は奇怪だと返した。


ともあれ“彼ら”からのデータをもとに様々な検証を続けた結果、魂の実在の証明、並びに発するエネルギーを利用した箱庭の安定運用の実現に、とうとう成功したのだ。

箱庭の完全な制御にはいまだ“彼ら”の協力が必要なことから、人類だけの力だけで成し遂げたわけではない。

だが、これで人類は存続できる。ほかの力を借りようが、そんなことは些細なことだった。


仮に箱庭への移住を希望するものをすべて受け入れていたら、箱庭が安定したことにもっと早く気づいて、大惨事にはつながらなかったことだろう。

箱庭を維持するためと信じ、逆に制限してしまったことが争いの原因につながったことは、まさに皮肉としか言いようがない。



箱庭の問題は解決できたといっていい。もう一つの取り組むべき課題は、星の再生へ向けての具体的な方法である。

年月の経過による自然回復を期待するにはダメージが大きすぎて不可能。手を加えて、回復を促進する必要があった。


ここでも“彼ら”の協力を得る。

過去に放浪してきた異世界には、人類よりはるかに進んだ文明を誇っていた世界もあり、その中には環境の正常化に関する技術もあったのだ。


映画でいうナノマシンと呼ぶべきものを使い、惑星そのものの正常化に着手した。

ナノマシンの制御もまた“彼ら”に一任されることになった。

人類の手には余る、というのが理由だったが、そのことについてたびたび議論が起こった。


「本来人類がなすべきことを、全くかかわりのない存在に丸投げするとはどういうことだ」

「“彼ら”の気まぐれ一つで、星が滅ぶ可能性は考慮しないのか」


そうはやし立てたが、では代案を求めると、どれも現実味のないものばかりだった。

反対派はナノマシンを人類が使えることを前提に話をしてくるが、技術水準が違いすぎて“彼ら”抜きでは満足に操作することもできない。

また、人類の中から悪用を目論むものが出ることは分かり切っていたため、むしろ全くかかわりのない存在に使ってもらった方がいろいろ都合がよかったのだ。


ともあれ、人類救済のシステムは出来上がった。


大気汚染や土壌汚染、放射能汚染の除去や自然環境の回復、人類が箱庭から出た際に必要になるであろう枯渇した資源の再生に至るまで、惑星を理想的な状態にするには早くても数千年が必要の試算が出ていた。しかもこれは何のトラブルもなく順調に推移するという理論上のものでしかなく、実際には万単位の年月はかかると見られた。



箱庭は無事に運用が進み、星の再生にも本格的に動こうとしたが、そこで“彼ら”からある提案を受けた。

それは人類にとって衝撃的なものだった。


「今のままでは星の再生は出来ない。だから文明を捨ててくれないか」


まさに寝耳に水ともいうべき、意味不明なメッセージに人類は愕然とした。

いったいどういうことか問いかけると、既存の電子文明のレベルでは、箱庭の制御に余計な負荷がかかってしまい、ナノマシンの制御にまで手が回らない、と返された。


より詳しく話し合いを進め、彼らの話を要約すると、次の通りになる。


現在のコンピュータや電子機器が放つ電波、電磁波などは、“彼ら”とは相性が悪い。

例えるなら常に耳元で雑音がして聞き取りが難しい、光を当てられて目がまぶしい、異臭がする、吐き気をおよぼすなどの強烈な不快感を感じる、または集中を妨げる状態になってしまうらしい。これには箱庭の制御にも少なからず影響が出てくる。

これまでなら許容範囲だったが、ナノマシンの制御は“彼ら”をもってしても難易度の高い作業であり、この状態で箱庭の制御と両立して進めることは不可能。

だから、星の再生を望むなら電子機器を捨てて欲しい。


文明レベルがもっと初歩的なものなら問題なかった。

“彼ら”との相性を考えて発展すればよかったから。


全く別の方向に進化した技術なら共存ができた。

“彼ら”とよりスムーズなコミュニケーションが取れたはずだから。


でも人類の文明はどっちでもない。ただ不愉快で面倒くさい状態だ。

こんな中途半端な発展なら捨てたほうがいいだろう。

そういわれたのだ。


技術レベルが中途半端の烙印を押された人類サイドだが、反論すらできない。

“彼ら”の機嫌を害すれば、もうどうしようもないのだ。ほかにどうすればいいのか。


はっきりしているのは電子技術を捨て去れば、人間社会は新たな崩壊を迎える。

だが現状のままでは、いつまでたっても箱庭の中に閉じこもったまま。

代わりとなるものが必要だった。



“彼ら”は人類の要求を受け入れた。

これまでの旅で手に入れたデータのうち、自らに相性のいい、そして人間に理解できる技術を提供した。

情報生命体は補助をする存在として、分身を箱庭に送った。


分身はのちに更なる分身を生み出していき、それは「妖精」「精霊」などと呼ばれることとなった。

妖精たちは人間との交流や魂を取り込むなどの経緯を経て、やがて自我に目覚め、独立した「個」として活動するようになり、これも“彼ら”の興味を強く惹いた。


人類は“彼ら”の協力のもと、未知の粒子である「マナ」を発見。

同時にそれに干渉できる、魂が発するエネルギーの一種でもある、生体エネルギー「オド」も発見。これらを総称して「魔力」と呼称。

それを用いた様々な現象を引き起こす新技術「魔法」の確立に成功した。


これは世界各地の伝承に伝わる魔法やそれに類する力と同一のものと考えられた。

なぜ現代まで残されていなかったのかといえば、当時の魔法は技術体系が不完全で、伝承がうまくいかなかったためと推察された。


類似するものとして「気」の概念が挙げられたが、魔力の一種、似て非なるもの、マナとは無関係、存在しないなど、様々な仮説が出ており、はっきりとしたことは分からないままだった。


そして人類社会は大変革を起こし、電子文明を捨て、魔法文明へと舵を切った。

負荷が減った“彼ら”は要望通り、人類の観察と引き換えに惑星の再生を始める。


そして箱庭の中で人類は失った繁栄を取り戻していく。


人口が増え、技術が発達するにつれ、箱庭もさらに広くなっていき、やがて惑星の表面積を上回るほどになった。

労働力、または愛玩動物として、魔法文明は新種の生物を生み出していった。それは既存の生物を改良したもの、無から生み出すなど様々であり、やがて「モンスター」と呼ばれるようになるが、この時点では誰もそんなことは知らなかった。

神話の生き物をなぞられて、ドラゴンをはじめとする空想上の生物も作られていったが、あまりに強大な戦闘力を持った個体は危険視され、封印されていくことになる。


中にはやはりというべきか、非合法な実験を目論むものも現れた。

彼らは人間を対象に改造を施し、より巨大な魔力を持たせる、高い戦闘能力を持つ、果ては人の姿を捨てさせることすらあった。

また、人間に近い姿をしていながら、全く新種の生き物を生み出す研究も秘密裏に進められた。

そうした生物は「亜人タイプ」「獣人タイプ」「魔族タイプ」などとカテゴライズされた。

彼らは高い知性、人間に近いメンタルを持っていたが、権利など持たされず、ただの「モノ」扱いされていた。


そうして作り出した魔法生物同士を娯楽目的で、または殺し合いのために戦わせることが起こるようになった。それはかつてと同じく戦争にまで発展していき、その結果、人の住める土地が失われるケースも度々見られた。

だが箱庭は広大で、もしその土地が住めなくてなっても、もっと空間を広くして新しく土地を作ればいいとし、懲りずに争いを繰り返した。中には封印されたはずのドラゴンなどの生物も投入されたと、非公式な記録に残されている。


もはや星の再生などせずとも、箱庭の中で過ごせばいいのではないか。世代を重ねるにつれて、そんな風に世論は変わっていった。





しかし、完全ならざる人間が作り出したものである以上、箱庭もまた不完全なものだった。

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