レポート1 人類の自滅
異世界要素は今回は薄いです。
これは、とある宇宙のとある惑星のお話。
私たちの住む世界よりも、
ほんの少しだけ環境破壊がひどくて、
ほんの少しだけ周りを省みなくて、
ほんの少しだけ自分勝手で、
ほんの少しだけ考える力が足りなくて、
ほんの少しだけ…やさしさを持たなかった人たちのお話。
別の宇宙を巻き込んでまで人類を存続させようとする、滅んだあとの惑星のお話。
◆
かつて、その惑星では、人類は繁栄を極めていた。
文明の光は夜から暗闇を奪い、数多立つ建造物は天に届くほどの高さを誇った。
陸地を制覇し、海を調べつくし、空を自由に行き交う。
そして神々の領域とされた宇宙にまでその手を伸ばそうとしていた。
自分たちはこの星の支配者。自然すらねじ伏せる頂点に立つもの。この先にあるのは繁栄の未来。
全てはより良い明日のため。
自分たちなら、どんな障害もはねのけて進み続けられるのだ。
もちろん、そんなものは単なる自惚れで、錯覚だった。
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環境破壊と引き換えに消費文明を発展してきたツケが、目に見えて分かるようになってきた。
異常気象が頻発し、それを受けて様々な災害の被害が増えていき、人心や国土も荒れていき、紛争やテロが目立つようになってきた。
当時の人々はそんな中にあっても、そこまで深刻な危機意識を持ってはいなかった。
将来を悲観し、あるいは今すぐになんとかしなければ、と動くものもいたが、全体から見れば少数派であった。
あるいは、途方もない楽天家の集まりだったかもしれない。それとも自分には関係ない、面倒なことは考えたくないという集団心理が働いていたのかもしれない。
根本的に何が起こっているのか、それすら理解していなかったかもしれない。
ともあれ、問題を先送りにし続けた結果、従来の環境保護活動だけでは追い付かないほど状況は悪化の一途をたどることになる。
そんな中、ある思想が目立ち始めた。
「この星は人が多すぎるし、狭すぎる。我々はもっと広い、遠い場所を目指すべきではないか。いつまでも一つの惑星に閉じこもっているから、こんな事態になるのだ。
旅立とう、未知のフロンティアへ」
簡単に言えば、この星は人が多すぎるから、宇宙に出て減らせばいいんだ。というものである。
口で言うのは簡単だが、宇宙空間に飛び出すのは、この時点でも危険が大きかった。
だが、この思想はやがて大きくなり、うねりを伴って宇宙開発を後押しするようになった。
当時の歴史学者は、こんな言葉を残している。
「あれは言葉こそロマンあふれるが、その実態はカルト宗教みたいなものが根底にあった。ある種の現実逃避だよ。
何より今まで私たちを育ててくれたこの星への感謝がない」
様々な思惑が交差する中、官民問わず宇宙開発へと乗り出した。今こそ新たな大航海時代への幕開けなのだ、という人間もいた。
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結論から言うと、人類は失敗した。
アニメにあるような、宇宙に人々が住めるコロニーを作ったり、外宇宙へ進出できるほどの有人宇宙船を作るテクノロジーを、手に入れられなかった。
軌道エレベーターなど、夢のまた夢だった。
星の海へ挑戦するための技術レベルがあまりにも足りなかったのだ。
また国同士の利害対立やテロも開発の足を引っ張った。
時間さえあれば、いずれはその問題も解決できたことだろう。
だけども、人口増加と環境悪化のスピードは、技術の成熟を待ってなどくれはしなかった。
もはや破滅へのカウントダウンは、自分たちの生きている間にまで迫ってきていた。
時の指導者たちは決断を迫られた。
このままでは残された安全な土地や資源、食料などをめぐって世界規模の戦争が起こる。
そうならないため、やっと、というべきか、国の利害や民族の壁を(ある程度)乗り越えて一致団結することになった。
彼らは情報や資源開発、政治など様々な方面で統制を行い、規制を強め、弾圧という手段を使ってでも、人々をコントロールして秩序を維持しようともくろんだ。
だがそれはその場しのぎにしかならなかった。
政治家は問題の先送りに終始し、分かりやすい結果だけを求める民衆の我慢は限界に近づいていた。
そんなころだった。ある技術が開発されたのは。
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ネックは人口に対して土地が少なすぎたことだ。
過去の乱開発の影響で異常気象が頻発し、それによって人が生活する、または食物を生産できる場が減っていき、残ったスペースで無理やり何とかしようとして無理が出て、さらに土地が荒れていき、ますます土地が少なくなる・・・という悪循環。
これに対し、どうにか生活できる場を作れないか、そう考えるが、ではどこに? となると頭を悩ませた。
希望のあった宇宙開発は完全に頓挫しており、もうどこにもそんな場所はない・・・それが大多数の考えだった。
だが、そこに全く別の発想をもった者たちがいた。
それは、別の世界、つまり異世界を見つけ、そこに移住しよう、というものだった。
何を馬鹿なことを。誰もが一蹴したが、この説を提唱した人間たちは研究を重ね、そして当初の目的とは異なる形で解決策を手に入れた。
異世界を見つけるためには、まず自分たちの世界と他の世界の境界線を発見、検証しなければならない。
その理屈のもと、研究を続けた彼らは、予想以上に早く“それ”を発見した。
そこは予想以上に広大であった。そして様々な検証や実験を行っている最中、想像だにしなかった成果が生まれた。
本来なら何もないはずの異次元、世界と世界のはざまと呼ぶべきところ、そこに人工的に空間を作ることに成功したのだ。
それは人が問題なく生活でき、自然も資源も生み出せる、理想的な場所だった。
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誰もが理解しきれず、だが時間が経つにつれて現実だと認識し、歓喜の渦に飲まれた。
中で生み出された資源は内部でしか使えず、外に持ち出すことができないと判明して落胆するものもいたが、無制限に資源が持ち出されれば社会は大混乱必至だ。空間の中に限定された方が都合がいい、そう考えるものが大勢いた。
何よりこれが普及すれば、わざわざ残された土地を巡って争わずに、いくらでも新しい土地が手に入る。
誰かが『箱庭』と呼び、それが通称となった、この異次元空間は、今度こそ世界を、人類を救う……はずだった。
またもや人類は、エゴから悲劇の種をまいたのだ。
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箱庭のメカニズムは、完全に解明したわけではない。
空間を安定させ、維持するための効率的なエネルギーが不明なままだった。原子力など従来の発電能力ではあまりにも非効率的であり、効率的な運用方法を解明することが普及の絶対条件となった。
そのため、研究や運用のために、多大なるコストが必要とされた。
当然そう簡単に答えなど出るわけがない。
その間も箱庭を求めるものは後を絶たない。
そして全員がその恩恵を享受できるはずもなかった。全ての人間を受け入れたら箱庭がもつハズがない。そう考えるのは自然なことだった。
箱庭の中で快適な生活を送れるのは金銭や権力を握る一部の特権階級、富裕層に限定され、それ以外のもの、特に貧困層は恩恵にあずかるどころか、その負担を押し付けられることになった。
少しでも他者を顧みれば、事態はここまで悪化しなかったのは分かり切ったことだ。
だのに、箱庭を利用できる人間たちはその恩恵を独占し、その中に引きこもることで頭がいっぱいとなっていた。
強者の立場に立っていたものたちは想像力が欠如しており、富や武力をもって自分たちの正当性と傲然と主張した。こんなことを続ければ負担を押し付けられた者たちの不満が爆発するのは、自然なことだった。
いくら我慢しても、連中はこっちのことなど考えやしない。
対立構造ができ、怒りと苛立ちから憎しみが生まれ、それは暴力という形ではけ口を求めた。
戦争が起こった。
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箱庭の公平な居住権を求める一つの国から端を発した争いは、惑星全土を巻き込む全面戦争へと拡大してしまった。
互いに恨みが募りに募った結果、相手を何が何でも殺そうとするほどまでに悪化してしまったのである。
そして、破滅へのレースが始まった。
誰が最初だったのかはもう分からない。だがその誰かが、抑止のはずの力に、手を伸ばした。
条約で禁止されている戦略兵器を、敵対陣営に使ってしまった。
これをきっかけに、次々と様々な破壊兵器・化学兵器の応酬が、後先考えずに行われた。
自分たちが撃たれたのが、相手も撃たれて当然だ。
すでに使われているのだから、自分が使っても問題ない。
撃たれる前に敵を討つのだ。
自分たちと同じ苦しみを、奴らにも味わせてやる。
敵は、滅ぼさなければならない!
誰もが徹底抗戦を唱えた。誰もやめようとはしなかった。
戦いは泥沼となり、数多くの大量殺戮兵器が投入され、最終的に星に壊滅的なダメージを与えるまで続くことになった。
もはや戦争に勝ちも負けもなかった。
ひょっとしたら誰もが、正気を失っていたのかもしれない。
だがそんなことを考えてももう後の祭り。
全てが終わり、気づけば残ったのは、生物の住めない場所へと姿を変えた、死の支配する星だった。
すでに戦う力も、気力も残されてはいなかった。わずかに残されたもので、生きねばならなかった。
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「こんなはずじゃなかった!」
戦争を主導したものたちはそろって同じ言葉を叫んだ。だが、民衆にとってそんな言葉は何の言い訳にもならなかった。
ひょっとしたら野心の暴走からではなく、純粋に戦争終結を望んでいたものもいただろう。しかし結果だけ見れば、世界を滅ぼした殺戮者として名を遺すだけとなった。
戦争を主導したもの、その血縁、関わっていた人間、ひょっとしたら関係者かもしれない人間を、魔女狩りのごとく根絶やしにしようとした。
戦争の間は彼らの言うとおり戦争に熱狂し、終われば彼らを責め立てることに熱狂したのだ。
あるいは目の前の現実から目を背けたいだけだったかもしれない。
だが、いつまでも現実逃避が出来るはずがない。
そんなことをしているほどの余裕など、人類にはなかったのだから。
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生き残った人々は、一番被害状況がマシで設備が残っていた極東に集まり、辛うじて命をつないでいた。
数十億を誇った人口は、今や一億人を切っていた。
皮肉なことに、戦争のきっかけとなった箱庭が、地上で唯一残されたシェルターとして機能した。
だけど、このままでは滅びは時間の問題。
人類の存亡をかけて、今度こそ残された資源と技術と人材が惜しみなく投入された。
そして、“彼ら”と出会った。
例えるなら、マルチエンディングのゲームで狙ってやらなければまずたどり着けないバッドエンディングの先の物語ですね。
続きは明日以降、同じ時間に予約投稿します。