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女神さまに土下座されたので魔王を倒そうと思う  作者: ケアプ一浪
第一章 風雪は巨人をも斃す
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2



~明星の森~

 ・明星の森、名の由来は遥か昔にこの地に宙より明星が落ちたとされているから。ゆるやかな盆地状の森で、中心部より外れた位置に小さな湖が存在する。





 踏み固められていた道が続いていたのは距離にしておよそ2kmほどで、そこから先は完全に森林となっていた。

 頼義は道なき道を歩いていた。時折そよ風が吹いては木々が葉をこすりあわせ、それに驚いた小動物がニンゲンごときの存在など気にも留めずに地面を駆け巡る。

 自然に溢れてはいるが、原生林とまではいかない。朽ちた倒木や真新しい切り株から察するに定期的にヒトの手が入っているのだろう。

 遠くに目をやると小枝の上に鳥が留まっている。赤い尾羽と白色の嘴をした小さな鳥。チチチと啼く声は前世に居た雀によく似ていたが、額に鬼のような角のある鳥なんてものは存在しなかった。


「マジで別世界なんだな」


 変な所で空想ではなく別世界の現実であると納得した頼義であった。

 (くさむら)を両手で掻き分けて足を踏み出すと、比較的硬めの土が足裏に触れた。


「おっ、やっと街道に出れたか?」


 左、右と横断歩道を渡るように左右を確認する。すると、とある一団と目が合った。

 最初、何の集まりなのか見当もつかなかった。三人組でロバ(のような生き物、耳のすぐ近くに羽みたいなものが生えている)が引く荷馬車を先導していた。

 男性が三人。その内二人はまだあどけない顔立ちの少年と言っても差し支えないような年齢で、内もう一人は老年に差し掛かる前くらいの男性だった。

 少年二人は胸当てや手甲などのお揃いの防具を身に着け、安っぽい剣の切っ先を頼義に向けて動向を伺っている。


「止まれ!」


 赤銅色の髪をしたガキ大将然とした少年が大声で叫ぶ。その様子に頼義は初々しさを感じ頬を緩ませた。


「オマエ、どこから来た!」


 緊張を持って、赤髪の少年は頼義を睨む。


「いやあ、よかったよかった。丁度道を聞きたかったんだ」


 頼義はわざとらしく馴れ馴れしく彼らにふらふらと近寄る。


「ほれ、これやるよ」


 頼義は流れるような動作で壺の中から青りんごのような(なり)をした果物を赤髪の少年に押し付ける。


「ほら、そっちのアンタも。おっちゃんはちゃんとキャッチしろよー」


 同じように片割れの黒髪の――こちらはどこか優等生を思わせる生真面目そうな、少年へ果実を押し付け、奥で穏やかに佇んでいた男性にも投げて渡す。


「食えよ、食え。うまいぞ」


 頼義はにかりと笑って、豪快に果物へ噛り付いた。


「んん~、うまいっ」


 少年たちも頼義につられて恐るおそる果物を口へと運んだ。少年たちの瞳には年端も行かない美少女が美味しそうに果物にかぶりついている。それしか映っておらず、警戒心なんてものはすっかり消え失せてしまっていた。


「ウマっ!」

「……美味しい」


 赤髪の少年はばりばりと、黒髪の少年はもくもくと食べ続ける。


「アンタらは?」

「俺はヴェルフ」

「僕はメルツェル。傭兵として二人で商人のテオドレアさんの護衛の最中なんです」


 テオドレアと呼ばれた男性は短く返事をした。商人らしくどこか抜け目のなさそうな人物だ。


「はぁー。二人とも若いのに傭兵なんぞやってるのか」

「若い、っていうならお嬢ちゃんも若いだろうよ?」

「――ああ、そうだった、な」


 赤髪の少年にそう返され、頼義は今の自分自身の姿を見比べて苦笑いを浮かべた。


「それで聞きたいんだが、ここから一番近い街か村っていえばどこだ?」


 少年二人は顔を見合わせてから黒髪の少年、メルツェルが口を開いた。


「コルンですね。この道を僕たちが来た方向に進んでいけば自然と着きますよ」

「おお! そうかありがとうな」


 頼義はにぃっと笑顔をみせてメルツェルの肩を叩いてすれ違う。


「ありがとうな、小僧たち!」


 頼義は危なげなく後ろ向きに走りながら離れていく少年と商人一行に感謝の言葉を言う。


「なあ! アンタの名前はなんだ!」


 幾分が離れたところで、ヴェルフと名乗った赤髪の少年が声を張り上げた。頼義は負けじと大声で応える。


「俺か、俺は頼義っていうんだ! 筧頼義!」

「ヨリチカ! またどこかで、じゃあな!」


 頼義は口は悪いがあんがい律儀だな、と年配者らしく感嘆した。


「ま、次会う事があれば技の一つでも教えてやるか……って」


 そこで彼女はようやっと言葉が通じていた事に気が付くのであった。

 




 傭兵の少年二人に教えられた通りに土を固めただけの道を歩くこと数時間、森を抜け少しばかり平原を歩くと件の『コルン』と呼ばれる街が見えてくる。

 低いレンガの塀に石組みの門。門の前には門番らしき鎧の兵士が暇そうに立っている。開け放たれた門の向こう側では多くの人が行き交っているのが見て取れた。


「止まれ」


 頼義が近寄ると、一瞬怪訝な顔をしたがすぐに姿勢を正して彼女の前に手持ちの斧槍を傾けた。


「お嬢さん一人か? 親はどうした?」


 当然の如く、門番は訝しみながら頼義に声を掛けた。


「一人、だな。道に迷ってたとこを商人とその護衛、名前はたしかメルツェルと……」

「ヴェルフか。あいつらに会ったのか」

「そうそう。あの少年らにここが一番近い街だって言うからこうして居るのさ」


 門番は彼女の言葉に少しだけ考える素振りをした後、ゆっくりと斧槍を元の位置に戻した。


「まあ、いいだろう。お嬢ちゃん一人だけだしな」


 この時、門番の男性は完全に頼義の見た目(美少女然)に騙されて、無害であると思い込んだのだが、頼義は勿論、知る由もなく漠然と気を利かして貰った程度と認識していた。


「おお、ありがてえ。これ取っといてくれよ兄ちゃん」


 頼義は門番に礼として壺にあった果物を差し出した。


「くれぐれも、問題は起こさないように」

「わかってるって。お勤めご苦労さんっす」


 門番に小さな釘を刺されるも、頼義はあっけらかんと門をくぐった。

 門を抜けて頼義の眼前に広がっていたのは雑多、人行き交う街並み。前世との違いなんて電気機械が走っていないだけで、風景そのものは頼義にとっては良く見慣れた中央ヨーロッパの街そのものだった。

 一列に並んだ商店や民家、石畳の道路に歩道脇の街灯。道路を走っているのは箱馬車か荷馬車だが、それを牽いている生物は馬以外にも6つ足の豚やらダチョウのような鳥類などもいた。


「さて」


 頼義はその街並みを暫く楽しむと、くるりと180度反転して門番の男性にまた近づく。


「ん? どうかしたか」

「換金所か質屋、知らないか? 手持ちがなくてな」


 彼女がにかりと笑顔をみせると門番は複雑な表情を見せた。




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