プロローグ その3
初回投稿まとめ分です
「で、まとめるとアンタは神様で俺は救世主ってとこか?」
「ええ、その解釈でほぼ相違ありません。尤も、わたくしは神ではありませんが」
「死人の魂を呼びだしておいてどの口が言うか」
「魂の定義さえ発見できれば簡単に出来る事なのですが……? 頼義さまの世界でもあと数千年人類が繁栄し続ければ到達できるような技術ですよ、魂の召喚というのは」
頼義は漠然と、宇宙人と会話するとすれば正にこういう感じなのだろう。と考えた。
丸い白亜のテーブルを挟んで向こう側で、にこにこと鈴鳴りのような爽やかな声で喋る女性……“ワクエヴ”と名乗った存在は薄紅色の茶で満たされたカップを持ち上げた。
頼義が彼女の願いを聞き入れてから、二人はこれからのプランについて語りながら延々と雑談をしていた。ワクエヴが出現させた椅子に腰かけ、同じくいつの間にか目前に現れていたティーセットに驚きながらも、頼義は物怖じもせずに様々な話題を振った。
頼義の住んでいた世界にあった七不思議や過去の出来事、存在すらあやふやであった物質や想像上の存在の有無。この空間の造りや彼女本人の存在についてなど……。
彼の出した疑問にワクエヴは明確な回答をもって応えた。時に口頭で、時には映像を中空に投影し答えた。それは頼義に彼女が『神』であると認識させるのに十二分足りえる知識量であり、未知の能力であった。
幸いにも、片方は幽霊で片方は女神(他称)なのでそれこそ話題が尽きるまで二人は話し続けていた。
「それまでにウチの人類が存亡しているとは考えられないんだけどな」
「大丈夫ですよ、頼義さまの世界で人類が滅ぶことはありません」
「それは未来視か?」
「違います。なぜなら頼義さまがいらっしゃった世界なのですから、これからも発展し続けるに違いありません」
「俺の何をもってそこまで持ち上げるのかね」
ワクエヴの露骨ともいえるおべっかに、頼義が照れ臭そうに頭を掻いた。
「それで、俺の出した願いは満たせそうか?」
頼義が尋ねると、ワクエヴは口からティーカップを離した。
「――はい。そちらのほうは既に視ておりましたので、恙なく」
「そりゃあ良かった」
視たというのはこの問答は未来視で予測した通りであったという事だろう。
「確認になりますが、これからの計画を簡単にご説明しなおします」
頼義はワクエヴの言葉に耳を傾ける。始めに一度説明を受けた事柄であったが、異論はなかった。
「頼義様、貴方さまをわたくしが見届けている世界に飛ばします。そちらで予めご用意していた肉体に乗り移って戴き、世界のいずこに居るであろう“敵性生物”を処理して戴きたいと考えております」
「だが前提の話としてその敵性生物がどのようなモノなのかすらも判らないという話だったな?」
「肯定です。ですが、高確率で自らを『魔王』と称して大規模な騒乱を引き起こすでしょう――それが世界を破滅させるのに最も適した行動ですので」
「という事は、俺は適当に旅でもして『魔王』と名乗るヤツを片っ端から斃していけばいいのだな?」
ワクエヴは深く頷いた。
「はい。過少に見積もってもかなりの規模で抵抗されると予測されますが、頼義様なら大丈夫でしょう」
「それで……と、俺の生前の肉体をそのままアンタの世界に送り込む事は不可能で、小説でいうところの英雄が使うような武具を持たせてっつーのは余計にダメだったよな?」
「はい。ただでさえ世界からすれば異物である頼義様という知能体を送り込む事自体、無理を重ねているのです。それ以上を望めば因果が整合をとれなくなり、世界は崩壊するでしょう。それはわたくしの望む所ではございません。ですので、わたくしが取れる手段としては世界に飛ばす情報量を最低限、魂のみになるまで削り、それでいて無理なく活動できるその世界に適合した肉体を向こう側の物質で構築し、定着させるというものでございます。生物一つくらいであれば、なんとか整合は取れます」
「俗にいう死後転生だな。転生を果たしたら件の『魔王』を斃せるくらいまで鍛えなおして、ソレを討つ。そういう段取りで良かったな?」
「はい。相違ございません」
ワクエヴは整然と言い切る。ここまでの会話の中でこの女性は神と呼ぶに相応しい能力を持っているということをこれまでの会話で頼義は理解していた。
だからこそ頼義はこれから起きるであろう状況、冒険に心を震わせていた。
「……一つ、聞き漏らしていた事があった。あっちの世界に無事に着いたとして、アンタとの連絡手段は?」
「ございません。頼義様からも、わたくしからも、どちらからも連絡をとることは金輪際ありえませんでしょう。わたくしはこのされた空間からしか彼の世界を観測できますが、逆に言えば観測しかできないのです」
「そうか、それは寂しいな」
「ただ、あちらの世界にはわたくしの子供のような存在がおりますので、何かございましたら遠慮なくお頼りくださいませ」
ワクエヴは椅子から立ち上がり深々と腰を折った。
「再度になりますが、重ねてお願い申し上げます」
「おうよ。勿論だとも、頭を下げた女の頼みを無碍にはできんさ」
ワクエヴは頼義の顔を見上げると感無量と、胸を押さえた。
気を取り直して彼女は彼をしっかりと見詰め、餞別の言葉を告げる。
「では、頼義様。良い冒険を」
頼義は深く頷いて瞳をゆっくりと閉じた。
言動の支離が滅裂している感じなので将来的にはもっとごっつうええ感じに書き直すかもしれません