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女神さまに土下座されたので魔王を倒そうと思う  作者: ケアプ一浪
プロローグ
2/78

プロローグ その2

プロローグのみ連続投稿となります。

サブタイトルは何か思いついたら追加するかもです。



女神さまに土下座されたので魔王を倒そうと思う。~黄昏の武神編~



 ~居所きょしょ


 光を感じ、瞼を開く。

 チチチと種別の分からない鳥の鳴き声が聴こえる。ざわざわと心地よい風が広葉を付けた針葉樹を揺らす。匂いを嗅ぐと柑橘の爽やかさと薔薇の甘さを含んだ香りが鼻をくすぐる。

 頼義は酷く深いため息を吐いた。眼前に広がる光景があまりにも陳腐でそれでいて高尚な空気を漂わせていたからだ。

 どこからどう見てもこの場所は尋常ではない。およそ全てが微妙に食い違っていながらも妙な調和で成り立っている。

 空は青く、しかしながら太陽は緑で降り注ぐ光線は橙色。紫色をしたオレンジを実らす針葉樹やネコの様に啼く兎。水牛の如く太く螺旋を描く角を持った鹿に、空中を泳ぐ黒に白斑点のイルカ。

 こんな奇妙な光景など、()()ではお目にかかる事は出来ないであろう。ならば導き出される答えは一つだ。


「ついに死んでしまったか」


 頼義は呵々と自嘲げに笑った。

 地上に生を受け早四十五年、まだまだ長生きするつもりで居たが若い頃に無茶をしたツケがとうとう回って来たのだろう。


「そうです、頼義様。あなた様の人生は終了致しました」


 淡々としながらもどこか慈愛を含んだ女声がどこからともなく聞こえる。

 頼義が声の主を探るよりも早く、声の主は彼の目前に現れた。


「なんだァ、テメェ……」


 生前の癖からか、頼義はその人物の正体を見定めるよりも早く戦闘態勢を整え終える。

 あまりの威圧感と行動の速さにその人物は引きつったような笑みを浮かべる。


「っ申し訳ございません、頼義様。私はこの場所の主と呼べる存在でございます。……もし、宜しければその拳をどうかお納めくださいませんか?」


 その女性は飛び出そうになった悲鳴を堪えおずおずと答えた。


「……そうか、すまんな」


 頼義が構えを解くと、この場所の主と名乗った女性はあからさまに胸を撫でおろした。頼義はその段になってやっと女性の容貌をはっきりと認識したのだ。

 鮮やかな藍色のグラデーションをした腰まである長髪に透き通るような白銀の瞳。目鼻立ちは完全に西洋人のそれで、掘りが深く小鼻が高い。眦は下がり、聖母じみた慈しみを讃えている。丈は170cmほどで、貫胴衣のような簡素な白色の服を着ている。


「ありがとうございます」

「それで、俺に何の用があってこんなトコに呼び出した?」


 その女性は、頼義の言葉を聞くや否や、その場に正座をして姿勢を正す。


「筧 頼義さま。貴方様に折り入ってお願い致します。――どうか、世界を救ってください」


 彼女は正座のまま上体を地に伏し、両手指先をきちんと揃え、額の位置に置いた。


「な、ナニしてんだッアンタ!」

「何、ですか? 土下座ですが?」


 さもなん、と釈然とした口調で女性は微動だにせずに答えた。


「とにかく、頭を上げてくれ!」


 頼義は先ほどとはうって変わって若干狼狽(うろた)えた。


「頼み事をする際の最上級の礼だと聞き及んでいたのですが……どこか間違っていたでしょうか」

「いいから顔をあげてくれ」


 頼義が諭すように言うと、渋々といった様子で彼女は正座をしたまま上半身を起こした。


「まったく……(おおよ)そ、女のすることじゃねえんだからよ」

「そうなのですか?」

 

 こてんと小首をかしげるという動作をする女性。頼義は小さくため息を吐いた。


「そうだ。女なんてもんは斜に構えて男を顎で使うくらいがいいんだよ」

「そう、だったのですね。次回があるようであれば違う頼み方を致しましょう」


 その女性は小さくえくぼを作って微笑んだ。


「では、改めてお願い致します。頼義さま、どうか私の世界をお救いください」


 今度は土下座などせず、その場で深々と腰を曲げた。

 頼義は数秒沈黙したのち、破顔した。


「いいぜ。ああ、いいとも。女が土下座までしてんだ、それに応えなきゃあ男が廃るってもんさ」


 頼義はその体躯にそぐわず、粋がる、威張るといった事が苦手で他人から頭を下げられるのが心底肌に合わなかった。ましてや頭を下げるのが女性ともなると、自らの性格も伴って最初ハナから彼に断るという選択肢が無くなるのだ。


「何とお礼を言えばよいのかっ」

「礼はいい――と言いたいところだが……一つだけ訊いておきたい」


 頼義は犬歯をむき出して問う。


「俺より()()()()()()()()()()()()?」




 筧 頼義は達人である。

彼は、某日本山脈の麓の街で、サラリーマンの父と専業主婦の母という平凡な家族の元に生を受けた。夫婦仲睦まじく、これと言って問題のない親に育てられた。彼が3歳になった頃、体力練成の一環として祖父が師範を務めていた地元の古武術道場に入門する事となる。

流派の名は弐式武闘(ニシキブトウ)流。刀剣・槍鎖・斧槌、そして徒手の四(もく)を基本とした普遍的な武術であった。

 頼義には突出したものは無かったが、己が成人する前には師範代を任されるくらいには満遍なく器用にそれぞれの(おう)(わざ)を修めていた。

 だがある時、彼に転機が訪れる。

 幼き日より共にそれぞれの技を磨いて来た、義兄弟でもあった兄弟子が病に伏し、息を引き取ったのだ。頼義、二十五の秋の事であった。

 それ以降、彼の稽古はより苛烈になっていった。それこそ、修験と呼んで大差はないほど、彼自身の肉体精神共に自らを追い込んでいった。

 まず、無理難題を熟しても斃れない(からだ)を造り上げるのに五年かかった。

 次に己が肉体のみで世界各地の霊峰に挑み、三年が経った。

 名の知れた山岳をほとんど制覇したところで今度は各地の道場に赴き、片っ端から挑んでいった。

 空手柔道は勿論、サンボやカポエイラなどその行動範囲は日本国内だけでは無く、海外まで及んでいた。その頃から彼は“達人”と呼ばれるようになっていった。

 そして頼義が挑んでいない道場がなくなると次は命知らずなスタントが売りのテレビ番組に出演しては限界に挑戦し続け、いつしか彼は人々から()()と尊敬と呆気にとられながら語られる存在になっていた。



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