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女神さまに土下座されたので魔王を倒そうと思う  作者: ケアプ一浪
第一章 風雪は巨人をも斃す
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9


 半歩踏み込み、寄生されたグランベール目掛けて跳躍する。腐葉土が巻き上げられ、木の葉が舞いあがった。

 二歩、三歩と、木々を足場にして生物としての形を失いつつあるグランベールの肩口から飛び込んだ。

 喉に短剣を突き刺し、そのまま円を描くように首回りを一周して、大熊の背に飛び乗った。


「弐式武闘流、短刀術」


 毛皮の奥に深々と突き刺さった短剣の柄に頼義は掌底を落とした。


「枯れ椿」


 ずるり、とグランベールの頭部が下へずれ落ちる。さも、椿の花が地面に堕つ様に。

 弐式武闘流・短刀術“枯れ椿”。

 基本の四目のうち刀剣術の外伝、派生として存在する短刀術。それは相手の死角より迫り、確実に死を齎す為の暗殺術である。

 地面に血だまりを作り、熊頭が細動する。時間差をおいてグランベールの胴体部が真後ろに倒れこんだ。

 頼義は気負いもせず、階段を一段とばしで下るように地上へと帰還した。


「今度こそ死んだ、か?」


 頼義が熊頭をつま先で小突くと、細動が激しくなり、紐状の黒い生物が表面へと現出する。彼女はそのあまりの気色悪さに二歩ほど後ずさった。


「いいえ、まだですわ!」


 ルツィエは慌てて燈火を揺らすランプの小窓を開いて、中身を細動しながら切り口より這い出ようとしている紐状の生物めがけて固形燃料をぶちまけた。


「紫電よ、散れ!」


 ばちり、ばちり。と固形燃料付近で花が散ると油を得たかのようにごうごうと燃え始める。

 黒い寄生型の“魔のモノ”たちが声なき悲鳴を上げてのたうちまわる。業火から逃れようと死骸の傷口から這い出るがそれでも逃れる事はかなわず、落ちた先で次々と黒焦げになっていった。

 燻ぶった煙も死骸から立たなくなったくらいで、ルツィエは深々と溜息を吐いた。


「はぁー。まさかあんな厄介な“魔のモノ”が潜んでいたとは……」

「ま、誰も怪我しなかったから良しとしよや」


 頼義は項垂れるルツィエを慰めるつもりで彼女に近寄った。


「そうですわ! ヨリチカさんお体はっ」


 ルツィエは今更気付いたのか、頼義の身体を満遍なく検分する。一通り顔や身体をみて、どこにも大きな傷がない事を確認できるとルツィエはほっ、と息を吐いた。


「よかったぁ……」

「頑丈さにはちょいとばかし自信があるもんでね」


 そう言って頼義ははにかんだ。




 事後処理だが、頼義たちが街へ戻ったあとにコルン傭兵団が街の衛兵と協力し、調査部隊兼、回収部隊を編成する事となった。

 比較的、街に近い場所で“魔のモノ”が出現したというのはそれなりに危機感を持って対処をすべき事柄なのだ。

 “魔のモノ”には互いが惹かれあうという性質があるらしく、一匹みたら十匹はいると思えというのが傭兵や狩人たちの共通認識であった。

 ――あの、黒い紐状の生物が集ったような“魔のモノ”は『潜む者』と呼称されている。

 特性としては、生物の内部に寄生し数を増やしていき、一定数以上になるか宿主が死亡すると、内部より這い出て宿主の肉体を奪い、他の生物へと攻撃をしかけ、寄生していくというものだ。

 なにより厄介なのは完全に成長しきった『潜む者』を殺すには、いくら火に弱い性質であろうとも、火葬場一個ほどの火力が必要になるという点だ。

 殲滅しきれなかった場合は『潜む者』は次なる宿主を見つけ、増やし、そしてまた寄生する。

 成長しきる前ならば……宿主の内部全てを自らに置換する前であるならば、頼義がやったように宿主の伝達系を破壊することにより、『潜む者』の動きを一時的に止める事が可能だ。

 他の“魔のモノ”と違うのはその成長・繁殖速度であり、彼のものの中でも発見時の初動対応が重要な個体であった。

 尤も、その情報を頼義が知ったのは、調査部隊編成の段取りが終わった後であったが。



 コルンの街に到着したあたりで頼義とルツィエは組合に報告した足でルツィエの自宅へと転がり込んだ。

 最初、頼義は寝床まで面倒を見てもらうつもりはなく、疲労困憊でげっそりとした彼女を送り届けたらそのまま近くの宿でも借りるつもりでいた。しかし、ルツィエがそれを許す筈もなく、頼義は為すがまま捕獲され彼女の隣で眠ることになったのだ。

 遮光カーテンで陽光を閉ざした部屋の中で、頼義はすぐ眼前にあるルツィエの寝顔を見詰める。これほど近づかなければ分からないほど薄いそばかすがあどけなさを感じさせる。

 同じベッドに入った途端に、ルツィエは頼義を抱き枕に寝息を立て始めた。

 そんな、童の持つぬいぐるみのような扱いに頼義はなんとも奇妙な感覚に陥る。見た目は同性、中身は異性――のつもりである頼義からしてみると何と無防備か、とも思うのだ。

 脳の奥底へと仕舞いこんでいた自らの現在の容姿を思いだし、それも仕様がないことか、と頼義は納得する。

 そして性別が変わった事への喪失感と少しばかりの望郷の念がこみ上げて来た所で頼義は無理やり、意識を手放した。




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