【漫才】異世界に転生して勇者になりたい
二人「どうもー」
ボケ「夢を追い求めて敗れ去ってもいいじゃないか。人生なんて、案外どうとでもなるものさ」
(恰好をつけて言う)
ツッコミ「いきなりどうした? さも名言言ってやったぜって顔してるけどマヤアンジェロウのパクリだからな。オマージュにしてももう少し知名度のある名言にしろよ」
ボケ「はい。それはさておき、実は俺には将来の夢がある!」
ツッコミ「はいはい、僕たちコンビ組んでるしそれくらい分かる。お笑い芸人としてテッペン取るってやつな。それで、さっきの名言か。たまには良いこと言うな。二人でスター街道まっしぐら!」
(ツッコミが肩を組もうとしてボケがそれを振り払う)
ボケ「自分の夢を人に押し付けるのはよくないぜ。俺には俺のデッカイ夢がある!」
ツッコミ「それはごめんなさい。なんか一人で勘違いして恥ずかしいな」
ツッコミ「それで将来の夢って何なの?」
ボケ「異世界に転生して、勇者になる!」
ツッコミ「中二病か! これは中二でも許されねえよ。そもそも将来の夢というか、もはや来世の夢になってるし!」
ボケ「細かいこと気にすんな。俺は夢を追い求める! ということで練習相手になってもらえる?」
ツッコミ「はいはい、じゃあ僕が魔王やるからボケは勇者で。世界の半分を」
ボケ「ンッNO!」
ツッコミ「早い! 最後まで言わせて。あと、否定の仕方の癖が強い! 勇者だったらもっとカッコよくやれよ」
ボケ「違う。魔王とかどうでもいいから。俺は俺役するからツッコミはトラック役な」
ツッコミ「そっち!? 勇者とかこれだけ美味しい題材使ってすることがトラックに撥ねられるシーン? 最近のラノベじゃトラックに轢かれたの一行でちゃちゃっと済ませる部分!」
ボケ「勇者になるうえで最大の関門が異世界に転生する部分だからな。入念に練習を重ねないと」
ツッコミ「あとせめて運転手役にして。ブーンって体当たりするだけはあまりにもだろ!」
ボケ「わかった。トラックの運転手役でいいよ」
ツッコミ「はいはい、それじゃあやってみましょうか」
ボケ「は、公園から少年がボールを追いかけて飛び出してきた。咄嗟に! 反射的に体が動いてしまう!」
ツッコミ「飛び出しッ! クソッ! ブレーキが間に合わないっ」
(ボケがカッコよく前転を決める)
ボケ「間一髪だったな。坊や。気をつけな。もう、飛び出しちゃ駄目だぜ」
(ボケがツッコミの頭を撫でる)
ツッコミ「轢かれろや! 何、颯爽と少年救ってるの!」
(ボケが膝から崩れ落ちて落ち込む)
ボケ「チクショウ。俺の運動神経が……良すぎたッ」
ツッコミ「落ち込んでる風自慢やめてください」
ボケ「もう一回だ。ツッコミは居眠り運転で歩道に突っ込みそうなトラックの運転手役な。年齢は47歳、腰痛持ち、趣味は競馬とパチンコ、独身、嫁はこのトラックだと周囲に吹聴してる。煙草は学生時代は吸っていたがトラック内が臭くなるという理由でやめた。最近は労働基準法を超えて働かされていて疲れがたまっている。誕生日は八月六日、星座は」
ツッコミ「細かい! こういうシミュレーションでそんな細かい設定つけようとしてるやつ初めて見た。何バックボーンとか勝手に作ってるの。誰もそっちに興味ないから!」
ボケ「ふざけんな! 主人公を異世界転生させるために何人のトラックの運転手が人生狂わされたと思ってる。これは俺なりの精いっぱいの誠意なんだ」
ツッコミ「はいはい、わかったから続けて」
ボケ「しし座、AB型の人の運勢は、ごめんなさい。最悪です。事故を起こしそう。ラッキーアイテムはエアバッグ!」
ツッコミ「占いすな!」
ツッコミ「もう設定全部とんだな。もういいから。設定をわかってるボケが運転手役な。ボケ役は僕がやる」
ボケ「分かった。見本見せてくれ」
ツッコミ「人生良いこと無かったなぁ。人気のお笑い芸人になれなかった。こんな惨めな僕は生きてても仕方ない。あ、トラック」
(ツッコミがフラフラと前に出る)
ボケ「チッ人がいきなり! 俺のドライブテク舐めてんじゃねーぞ。止まってくれぇぇえええキィィィイイイ」
(ボケがドリフトでカッコよく車を止める動き)
ボケ「間一髪だったな。急に飛び出してんじゃねえぞ坊主」
ツッコミ「そこは轢けよ! 何カッコいいハンドルさばきで避けてるんだよ!」
ボケ「命を粗末にすんな。夢を追い求めて敗れ去ってもいいじゃないか。人生なんて、案外どうとでもなるものさ」
(ボケがツッコミの頭を撫でる)
ツッコミ「やかましいわ!! いい感じに伏線回収すな!」
ボケ「以上、本日の名言使い方講座でした」
ツッコミ「勝手に講座にするな! 漫才や。もうええわ」
ボケ ツッコミ「どうもありがとうございました」