嵐の後
どうやって才能の選抜を乗り切るか、一晩考えてもまだ答えは出ずにいた。噂によると昨晩だけで対象者の半数以上が捕まったらしい。
とりあえずずっと家にいてもアイデアは浮かばないだろう。 俺は気分転換のために散歩でもしてくることにした。
なんとなく街は大人しい。 陽気な奴が学校を休んだ時みたいだ。 それと違うのは、これからずっとこの大人しさは続くという点か。
いつもの公園も静けさが漂っていた。才能の選抜とは関係ない子供さえ誰一人いない。 街に充満する悲しげな雰囲気を感じ取ったのか、それともただ単にいないだけなのかはわからない。
公園から住宅街に続く道を行く。街路樹さえ寂しげに見える。途中にある店は開店していないようだった。
住宅街に着くと、選抜された様子が一目でわかった。 格安の古アパートなどはドアが開けっぱなしで、そこかしこに血痕が確認できる。破壊されたドアもいくつもある。しかし、小綺麗な一軒家は
それを知らないようにいつもと同じく佇んでいる。金があるんだろうな。
しばらく散歩して、滅多に来ない土地に来た。
この辺りは治安が悪く犯罪の温床となっていて、
一般人は寄り付かない地域だった。俺も例に漏れず来ないようにしていたのだが、 何も考えずに歩いていたらいつのまにか来てしまっていた。
しかし、いつもなら路上で酒を飲む奴、喧嘩、ヤクザ、強盗なんて当たり前の所なのに、静かだ。
ここにも選抜が入ったんだな。なぜか悲しくなって、泣きながら人気がない街を歩いた。
しばらく歩いて、何か違和感があった。どこかから誰かの声が聞こえる。 それも1人2人ではない。
少なくとも5、6人ほどが静かな声で話している。
どこだ?今いる通りを見渡した。 この辺りで人がいるならこのストリートだ。 裏路地もない。
声の大きくなる方にどんどん向かっていく。
どうやら建物の中のようだ。 片っ端から入って行って……見つけた!
喫茶店の壁に面したソファーのマットが外れていて、下に続く梯子があった。そこから声がする。この街に残っている人がいたのか!
そこに飛び込もうとしたが、よく考えるとここは
元々治安が悪い地域だ。生き残っている人も、いい奴だとは限らない。
しばらく躊躇していると、喫茶店の入り口に人の気配を感じた。警察だ! この地域にいると勘違いで捕まるかもしれない!躊躇っている時間はもうなかった。俺は梯子に飛び乗り、マットを元に戻した。梯子は短く、降りるとドアがあった。ここに来たのも運命だ。深呼吸の後、俺はドアを叩いた。