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次の日

首相公邸に侵入したのが昨日の夜だ。

俺たちはあの後、正門から出て行くことにしたが、警備員はなぜか何も言わなかった。きっと、父さんが根回ししておいたんだろう。


帰り道で、みんなが話しかけてきてくれたことを覚えている。ロンガーの二人も、自分たちの正体を知って、ショックは凄まじかっただろうに、俺を慰めてくれた。しかし、俺はアジトに着くまで泣き止まなかった。


今朝、いつもより遅く起きると、みんながラジオを食い入る様に聞いている。俺は疲れ果てて、何を聞いているか、気にすることさえできなかった。

しかし、マスターが音量を上げて、何を言っているか聞こえてくると、俺はみんなのところに飛び込んだ。父さんの声だ。途中からで内容は分からないが、何か謝っている様に聞こえる。


「ヒロ、ササキが全てを話したぞ!」


ツカサが大声で俺に教えてくれた。


「ササキは、ロンガーたちを作っていたこと、その為に選抜をしたことを記者会見で発表したんだ!」

「……なんだって?」


俺は耳を疑った。なんだか実感が湧かない。まるで、まだ夢の中を泳いでいるような気分だ。


「恐らく、ササキは懲役になる。下手をしたら、死刑になるだろう。だが、それを分かっていて会見したんだ。お前の想いが届いたんだよ!」


ツカサは泣いていた。みんなも泣いていた。

俺も、もちろん、泣いていた。


みんなで街に出ると、驚くほど賑やかだ。父さんの会見の号外が配られ、その新聞が空を飛び回っていた。


あちらこちらで酒盛りをしている連中がいる。みんなも酒を飲みにいったが、俺は一人で前の家に戻ることにした。


前の家の通りも、もちろん騒がしい。この通りに人がいることさえ、ここ何日かなかった。俺は、その喧騒を避けるように、初めて通る路地裏を使って家に戻った。


久しぶりの家に着いた。水を飲みながら、外に落ちていた号外を読む。父さんが頭を下げている写真が大きく載っていた。


新聞によると、父さんの裁判は遅くても今月中に行われるようだ。国のトップによる大事件だから、当たり前とも言える。となると、それまでは拘置所にいるのだろう。新聞を置き、アジトに向かおうとドアを開ける。すると、俺の仲間たちがそこにいた。


「ヒロ!こんな日に一人でいるのはもったいないぞ!今日はお前の家で宴会だ!」


そう言ったマスターは、すでに少し酔っているようだ。返事を待たずに家に入ってくる。

みんなもそれに続いて、家に入ってきた。それぞれ、買ってきた料理や、様々な種類の酒を持っている。


「飲むぞ!ヒロ、こっちに来い!」


みんなははすでにテーブルに座っている。マスターが、笑って俺にビールを投げる。俺も笑って、それを受け取った。


俺が座るとマスターが仕切って言う。


「これより、作戦成功の宴会を行う!みんな、ヒロに、自分に、そして仲間たちに、乾杯!」


乾杯、の声とグラスのぶつかり合う音が、狭い部屋に響く。初めて仲間と飲むビールは、とても美味かった。


酒宴が終わり、みんなが俺の家で寝ている。俺もだいぶ酔っ払ったが、まだ意識は保っている。酔い覚ましに冷たい水を飲み、すっかり暗くなった外に出る。

家の前の階段に座って、夜風に当たる。家の前の通りも、今朝より静かになった。


少しすると、イオリが水を二つ持って出てきた。俺に持ってきてくれたようだ。イオリも隣に座り、一緒に水を飲む。少しすると、イオリが話しかけてきた。


「ヒロはさ、この後どうやって暮らしてくの?」

「うーん……あまり考えてないな。とりあえず、拘置所にいる父さんに会って、話して……それが終わったら決めるよ」

「じゃあさ、私と一緒に暮らさない?」


飲んでいた水を吹き出す。少しむせたあと、イオリをまじまじと見る。イオリは目を合わせない。


「私もね、マスターの家からそろそろ独立しようかと思って。ずっとお世話になってたからね」

「ああ……それは立派だな……」


そう言いながら水分を補給しようとするが、手元が狂ってこぼしてしまった。


「あっ、タオル持ってくるね」


イオリはバタバタと駆け出す。俺はどんな気分で待てばいいんだろうか。


少しして、イオリがタオルを持って戻ってくる。

俺にタオルを渡して、また隣に座る。


「で、さっきの件考えてくれた?」


服を拭きながら俺は答える。


「まあ、俺の家でよければ。散らかってるけどね」

「やったー!ありがとーヒロ!」


眩しい笑顔を俺に見せる。今度は俺が目を合わせられない。


「じゃ、早速今日から泊まってっていい?」

「今日から?布団とかないから無理だよ」

「いっつもヒロが寝てる布団あるでしょ?二人でそこに寝ればいいじゃん」


俺はなんと答えるべきか悩んだ。さっきから顔が熱くて思考がまとまらない。


……結局、若さに負けて了承してしまった。恐らく、イオリも俺に気があるんだろう。いや、そうに違いない。なんて、自分自身を誤魔化しながら。

イオリは寝ているみんなを起こしている。俺もそれを手伝っているが、酒が入っていてみんな起きない。俺たちは苦笑いして、隅の方で眠ることにした。寝る前に、イオリが俺に言ってくれた。


「昨日のヒロ、とっても一生懸命で、かっこよかったよ」


俺は照れて、毛布を頭から被って眠った。

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