1話
オカルト部に入部した寧々。青春を謳歌出来るのか!?
「ところで、オカルト部って……何をするんですか?」
ある日の放課後、私こと宮原寧々は、オカルト部の部室で疑問を投げ掛けた。
如何にも、といった丸テーブルに、その他によく分からない調度品?みたいな物がちょこちょこ。作り物っぽい生き物の標本、怪しい壺等々……安いドラマなんかで見るような部屋に、私はまだ慣れない。
「うん? 活動の事かな?」
部長こと神山祓詞先輩は首を傾げる。
「はい。えと、私が入ってからもう二週間くらい経ちますけど、毎日部室でお茶飲んでるだけですし……ゴールデンウィークも普通に休みでしたよね……?」
そう、私が入ってからお茶飲みだけだ。夕方六時くらいになると終わり、帰宅する。活動している姿も見た事無いし、そう言えば顧問の先生が顔を出す事も無いみたいだ。
「そうね、寧々ちゃん。ちゃんと教えないと駄目よね」
「あ? 良いのか? 咲良」
檜山咲良先輩が読んでいた本をパタンと閉じて言うと、田中昭八先輩は怪訝な顔をする。
「良いも何も、寧々ちゃんもオカルト部の一員ですもの。知る権利があるわ」
何だろう、そんなに大層な話なのだろうか?オカルト部というのだから、ホラーな話を調べたり、それっぽい場所に行ったりするだけかと思ったけど……?
「私達オカルト部はね、ハッキリ言って、私の為にあるの」
「え?」
冷静なカミングアウトに、私は目を丸くする。
「順を追って説明するわね」
「あ、はい」
「何を隠そう、私は吸血鬼の末裔なの」
檜山先輩の赤黒い目が私を見つめる。冷静に考えれば、赤黒い目って珍し過ぎる。しかし、不思議な事に檜山先輩のそれは自然であり、オカシイとは思えないのだ。
「はぁ。それは何となく気付いてました」
普通なら、吸血鬼なんて信じないだろうけど、私も私で、超常的な現象を経験しているので、すんなりと受け入れられた。
「吸血鬼と言っても、四分の一だけなのだけどね」
「へぇ~……」
四分の一と聞くと、何だか安っぽく感じてしまう。
「まぁ、純粋な吸血鬼には敵わないまでも、私には私の強みもあるのよ? 太陽の下でも活動出来るし、十字架だって平気だし、水も平気ね。ニンニクも食べられるわ。嫌いだけど」
「へぇ~! 無敵じゃないですかぁ」
「でも、純潔な吸血鬼みたいに、凄い膂力も無いし、噛みついても配下には出来ない。空を飛ぶのも出来ないし、体をコウモリにしたりも出来ないわ」
「色々特徴ありますねぇ、吸血鬼って。あれ? でも、うろ覚えですけど、あの日コウモリになってバラバラに飛んで行きませんでした?」
言ってみて、ちょっと後悔。檜山先輩達が私を救ってくれたあの日、私は檜山先輩を包丁で刺したのだ。コウモリになって飛んで行ったから、無傷なのだけど。
「あぁ。あれは、私がコウモリになったんじゃなくて、コウモリが私になったのよ」
「へ、へぇ~……」
よく分からないけど、最初にインターホンを押したのは、コウモリって事なのだろうか?
「で、私の吸血鬼の力を抑える為、オカルト部があるの」
「抑える?」
「血を飲むのが純潔の吸血鬼なんだけど、私みたいな変種だと、色々なタイプがあるらしいの。私は幽霊やら妖怪やら、そういったモノを吸うの」
「な、なるほど……」
「で、長い時間吸わないでいると、ちょっと暴走しちゃうのよ。それを防ぐ為、この二人に協力して貰っている、という訳」
「なるほど……でも、それなら別に部を作らなくても?」
「そうね、でも、オカルト部として学校にいる方が、色々な話が入って来るの。私にとってはランチ情報みたいな感じね」
白い髪を揺らし、檜山先輩はクスクス笑う。右手を口元に当てて上品であるが、その光景が何だか恐ろしく見える。
「ラ、ランチ情報……」
「あぁ、それと、別に私達がオカルト部を作った訳じゃないわ。元々あったのよ、この学校」
「あ、そうなんですか? てっきり先輩達が作ったんだと思ってました。部員さん、他にいないようでしたし、神山先輩が部長してるから……」
チラリと神山先輩を見る。先輩は何と言うか……ちょっと頼りない感じがするのだ。
「だっはっは! 祓詞ぃ、お前が部長じゃ心配だってよ!」
田中先輩が腹を抱えて笑う。この先輩は、体格と声が大きい。運動神経が良く顔立ちもイケメンだから、校内中の女子に結構人気がある。それを聞いた時は首を傾げたが、部活外では割と大人しいらしい。
「なっ……ち、違います! そんな意味で言ったんじゃないです!」
私は慌てて頭を振る。
「ははっ。大丈夫、宮原さんに悪気が無いのは分かるよ。でも、そうだよね、僕じゃ頼りにならないもんね……」
部長はテーブルに突っ伏した。
「だから違いますっ! 三年生がいないって意味です!」
「分かってるって、冗談冗談」
部長はガバッと顔を上げる。
「アホやってないの。今の三年がいないのは、単に入部が無かっただけよ。その一つ上の学年の先輩達なら、去年何人かいたわね」
檜山先輩はそう言うと、お茶を啜る。
「何人かって……咲良、あんなにモテモテだったのに、そんな言い方無いだろう?」
部長は呆れ顔だ。
「だっはっは! そうだったな! 姫とか呼ばれてたよな、確か!」
姫……確かに、そう言われてみれば、檜山先輩ってドレスとか超似合う気がする。
「止めてよね。思い出すだけでオゾマシイわ」
顔が引きつる檜山先輩。先輩はなかなか表情が変わらないから誤解され易いけど、なかなか感情豊かだ。田中先輩も部長も、きっと長い付き合いなのだろう、檜山先輩をよく分かっているようだ。
「そう言えば、先輩達って、中学から知り合いとかなんですか?」
私は首を傾げて質問。田中先輩が嫌そうな顔をした。
「中学なんてモンじゃねーよ。幼稚園から一緒だよ、腐れ縁ってヤツだな」
「腐ってるのは昭八の脳味噌だけよ」
「んだとぉ!?」
「はいはい。お前達、それくらいにしてくれ」
何となく分かった。ずっとこんな調子なのだろう。
「ふふっ。部長も大変ですねっ」
「……分かってくれる?」
部長に向けて苦笑い。
「頑張ってください」
「手伝ってくれ」
次の日の昼休み、クラスメイト二人と昼食を摂っている。私の机に椅子を合わせて狭々とした空間が、私は嫌いではなかった。
「そういえば、宮原さんてオカルト部なの?」
肩まで伸ばしたツヤッツヤの綺麗な黒髪を揺らしているのが北島永江ちゃん。大人しくて可愛い、図書委員さん。
「え? オカルト部なんて、ウチの学校あったっけ?」
こっちの眼鏡を掛けた少し膨よかな子は、佐藤美那ちゃん。吹奏楽部に所属している。
この二人は最初に私に話し掛けてくれた二人組みだ。あの日以来、私達は昼食を一緒に食べ、時間の合う日は一緒に下校したり遊んだりしている。由美は遠慮しているようで、滅多に顔を合わせなくなってしまっている。
「うん、文化棟の二階の端っこに部室があるの。部員は私を含めて四人で、全員先輩しかいないの」
簡単に説明する。活動内容は……本当の事は言えるはずもない。
「へ~! オカルト部なんて、楽しそうねー」
美那ちゃんはオカルト系に興味があるのかな?
「ちょっと怖いけど、オカルト好きな人って多いよね」
永江ちゃんも嫌いではないらしい。怖いと言いつつも興味ありそうな表情をしている。
「楽しいよ! 先輩達も良い人達だし」
「良かったね~。良い先輩に会えるのって、運だよね。ウチの先輩なんてさぁ、マジでムカつくの多くてさぁ」
「こらこら、先輩の悪口ばっかり言わないの。昨日も聞いたよ」
永江ちゃんと美那ちゃんは、高校からの付き合いらしいけど、かなり仲良いように見える。本人達が言うには、ウマが合うとの事だけど、羨ましいなぁ。由美は今頃何をしているだろう……由美の事だから何にも心配はいらないだろうけど。
「あ、じゃあさ寧々ちゃん。こういう噂は知ってる?」
永江ちゃんに注意され、美那ちゃんは話題を変えた。
「何々? オカルト系?」
「そそっ。うんとね。隣のT市の外れにさ、廃ボーリング場あるの知ってる?」
「えーと……あ、国道沿いの? 大きなピンが入り口にあるとこ?」
「そうそこ。そこって、地元の不良の溜まり場になってたらしいんだけど、少し前に皆行方不明になったんだって」
隣の市の不良が行方不明……遠いしどうでも良いなぁ。
「でさ、その不良の友達ってのが、ウチの部の先輩にいてさぁ。行方不明になった日くらいに、変なメール来たんだって」
「変なメール?」
「うん。たった一言。『倒される』ってだけ」
「何よそれ。不良同士の喧嘩でもしてたんじゃないの?」
永江ちゃんの失笑。私も軽く笑って見せるが、これは一応、先輩達に言ってみよう。
「というか、よくこれ事件にならないね」
永江ちゃんは皮肉を込めているようだ。事件として捜査されていないなら、信憑性が無いのだと。
「それがさ、行方不明になった不良の一人、議員の息子らしいの」
「それで捜査を公にしないように圧力が掛かってるってわけ? 有り勝ちねぇ」
またも永江ちゃんは失笑する。
「それね。私もそう思うわ」
「……でも、本当だとしたら、何があったんだろうね?」
笑う二人を見て、真顔で言った後に後悔した。こういう空気を読めないような行為は、また私を一人にさせてしまうかもしれない。
「そうねぇ、やっぱり不良同士だから、喧嘩で……あ、でも行方不明だもんね。死んだとかじゃなく」
永江ちゃんは頬に人差し指を当てて言った。良かった。変な空気にはなってないみたいだ。
「やっぱりそこは、廃墟に住む亡霊の仕業ってのが良いと思うわ」
「良いと思うって……美那ちゃんが考えた話じゃあるまいし」
「そうよ。あ、もしかして美那。この話は美那の創作?」
「まさか、私だったらもっとコワーイ話にするわ。意味不明な話じゃなくてさ」
肩をすくめて美那ちゃんは言った。
「一応、先輩達にも聞いてみるよ」
「うん、聞いてみて聞いてみて。でも、実際に調査に行ったりして、行方不明になんてならないでよね?」
「あははっ。大丈夫だよ~。たぶん……」
「たぶんて……まぁ、行くんなら気を付けなさいよ?」
「うん、ありがとう」
――早速放課後、先輩達に聞いてみようっと。
私は良い情報を聞いたと嬉しくなった。その後も美那ちゃん達と色々お喋りを楽しむ。サンサンと照らす太陽が心地良く、私はこの時間がいつまでも続けば良いと思うのであった。
「はい。という訳で新章よ」
「どういう訳だよ。まぁ、また出番があるのは嬉しいね」
「ふふっ。先輩方、よろしくお願いしますっ」
「あぁ! よろしくね、寧々ちゃん」
「えへへ。あれ? 田中先輩は?」
「アイツはバイトよ。煩いのがいなくて清々するわね」
「またそんな事言って……こんな僕達ですが、新章もよろしくお願いします」