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序章

中国で小説家になろうやろうとすると重いよー。

皆さん初めまして荒川です。

拙い文章の小説ですが楽しんで読んでもらえれば幸いです。

          序章


 気が付くと青年は覚えのない場所に立っていた。

 

 青年の足場は雲でできており、辺り一面に地面とも言うべき雲が広がっている。

 

 空は水色の塗料をぶちまけたような青天だが、太陽はなく、なぜこうも明るいのかは青年には分からないことだった。


 一見、無限に広がっているような雲だが、所々に虫食いのように穴が空いており、雲と雲の境目には金の装飾が入った豪華な橋で繋がっている。


 青年は少し辺りを探索したが、同じ景色がどこまで行っても続いているため気が付けば歩くのを止めて、その場に座り込んだ。


 青年はなにも感じなかった。

 天空から射し込む謎の光も、雲を踏む感触も、自分の呼吸や体の振動を何一つとして感じることができない。

 

 歩いているのに泳いでいるかのような倦怠感は無言で青年にその場で待てと言っているかのようだった。


 そして、座り込んでから数分ぐらい経過したときだ。


「やぁ、早川颯太さん! 初めまして、僕は天国の案内人キューピッドだよ」


 謎の声と共に現れたのは、やはり見たことのない生き物だった。


 体はウサギで、肩からはコウモリの羽のようなものが生えており、腰からも尻尾のようなものが生えている。


 口元は可愛らしく閉じているが喋る毎にウサギが流暢に喋っているようで可愛いとも気持ち悪いとも何とも言えない感じが出ていた。


「早川さん、驚かずに聞いてほしいのですがあなたは先程人間界において亡くなりました」


 青年は驚いた。いや、先程から驚いてはいたのだがいきなり死んだと言われて青年は驚き戸惑う。


「あ、とりあえずこの書類を渡しますね。天国に来た人への決まりとして渡しているんです」


 右上に自分の写真の載ったその書類は一見、履歴書のように思えたが、すぐに違うことに気が付いた。


 簡易的な履歴に死亡日時、死因と自分が死んだことを示す文字がズラズラと並べてある。


早川颯太 17歳 男 2002年 6月 25日


速水第一小学校卒業


速水中学校卒業


韮沢高校入学


死亡日時 2019年 9月 12日

            日本時間 16:52分


死因 刺傷による失血死


「…」


 あまりに簡易的な死亡宣告に青年はキューピッドをつい睨んだがキューピッドは表情を一切変えず、話を続けた。


「まあ、早川さんの事情はこんな感じですね。色々思うところはあるでしょうが天国に来た以上あなたへの選択肢はどちらかです」


 キューピッドはあくまで淡々と話を続ける。


「天国へ行き過去を忘れ幸せに暮らすか、人間界に留まり、霊と化すか、です」


 青年は不思議に思った。

 

 天国へ行くのは分かるが人間界に留まるとは一体…。


「勿論、霊になった場合は天使達に成仏させられるので天国の方がオススメです」


 当然といえば当然だ。

 

 霊という言葉に良い印象はない。そもそも天使が霊を逃すのはダメだろう。


「早川さん、どうしますか?」


 


 キューピッドに聞かれた青年は答えが出るまで少し待ってほしいと答えた。


 キューピッドは不思議そうに首を傾けたがすぐに納得したのか、


「分かりました。答えが決まりましたら近くのキューピッドに申し付けてください。それではこれで…」


 そう答えたキューピッドは体積に見合わない羽をパタパタと動かし何処かへと飛んでいった。


 青年は独りになると、先程のキューピッドに出された二択について考える。


 天国へ行き幸せになるか人間界に留まり霊と化すか。

 

 天国へ行けば人間だった頃を忘れて幸せに暮らせるのだろう。だが、人間だった頃を忘れるのは少し怖いと青年は思った。


 では人間界に留まり霊と化すのか。


 これはもっと嫌かもしれないと青年は思う。


 人間界に留まれるの自体は少し魅力的に思えたが、霊になりたいわけではない。

 それに、天使達に追われるのも嫌だなと青年は思った。


 なら、天国へ行くのが正解なのだろうか?


 答えは何時まで経っても出ない。


 沈黙だけが時間を奪っているときだった。


「宝物庫にて盗難発生、宝物庫にて盗難発生。付近の天使は至急宝物庫に向かってください」


「繰り返します。宝物庫にて盗難発生、宝物庫にて盗難発生。付近の天使は至急宝物庫に向かってください」


 青年の周囲一帯が薄く赤い霧のようなものに包まれ、繰り返しアナウンスが宝物庫とやらに何かが起きたことを知らせる。


「一体何が起きたんだ…」


 近くにいたキューピッド達も死者の案内を止め、おそらく宝物庫の方向に向かって飛んでいっている。


 先程までここが天国ということが信じられるような光景が広がっていたが今では天国全体が何かに怯えているようだった。


「…!」


 青年が思わずその場を飛び退くと、先程まで青年がいた場所に黒い靄のようなものが出てきて、靄が集まり何かの形を作り始めた。


 靄は楕円形の形になり、靄がどんどん濃くなっていき最初は半透明だったのに今ではハッキリとその存在を露にしている。


 そして、靄の中から一人の女性が現れた。


「ふぅ、天使達は偽物(ダミー)に引っ掛かっているようね」


 青年の前に現れたのは、刺々しくも異性を魅了するような衣服に身を包んだ妖艶な美女だった。


 淡いピンク色の髪は長く、腰にまで伸びており、色気を醸し出している。


 ほっそりとした手足はすらりと伸び、しかし出る所はしっかりとその存在を主張していた。

 

 青年には刺激が強かったがそれよりも気になることがある。


(今、天使達はと言っていた。ということはこの女性は敵対関係にあるか天使ではない()()なのだろうか?)


 女性は青年と目が合うと、優しい笑みを作り雲の上なのにツカツカとハイヒールの音を鳴らしながらこちらへと歩いてきた。


「君は死者ね」


 女性の質問に対し青年はコクりと頷くことしか出来なかった。色気もあるがそれよりもこの女性からは何か恐ろしげな何かを感じ取ったからだ。


「ふぅん、早川颯太君て名前なんだ。あらあら、殺害されてここに来ちゃったのねぇ。恨みも買ってないでしょうに可哀想」


 女性の一言に青年は驚いた。刺傷とは書いてあったが事故ではなかったということに。


「条件的にはピッタリだし…」


 女性は一人でぶつぶつと喋ると、


「颯太君、生き返りたい?」


 女性の質問に青年は数秒考えると答えを出した。


「生き返りたい」


 そりゃそうだ。


 寿命で死んだならともかく恨みもなく他人に殺されて終わるなんて耐えられなかったからだ。


 女性は嬉しそうにニヤけると一言だけ、


「人間としてじゃないけどいい?」


 え? そう答える前に青年を紫色の光が包んでいた。


 辺りの風景が歪んでいき、耳から聞こえる音もブワンブワンと歪む。


 ある程度のところで先程のキューピッド達のような天使達の姿が見えた気がするが既に青年は人間界に戻っていった。





 そして、早川颯太の魔王としての人生が幕を開ける。


  

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