スマホの行方
一晩スマホがないまま過ごしたけど、ろくに友達のいない俺には大して問題なかった。
綾子さんと美嘉はすでに家を出ていて、残された俺も靴を履いて鏡を見ていた。
さてと、行きますか。アイツがスマホをちゃんと学校に持ってきてくれるかどうかは疑わしいが、信じるしかない。
校内は広く有名人のアイツでも見つけるのは容易ではない。ましてや俺には友達がいないため完全に自力で見つけ出すしかない。そういった事情がより一層見つけるのを困難にさせている。
だがさすがは有名人。捜索開始から5分も経たずに見つかった。これがもし俺とアイツの立場が逆だったとしたらこんなに簡単にはいかなかっただろう。
自分から話しかけようとして近づいてみたのは良かったのだが、周囲を他の生徒が囲んでいるためとても話しかけられるような状況ではなかった。
だが1人ポツーンと傍観している俺の存在に気付いたのか会話を終わらせて近づいてきた。
「あら。ごきげんよう」
なーにがごきげんようだ。昨日の車の中で会話をしてたときのコイツと比べると悪寒がするほどの豹変振りだった。
「おはよう。昨日スマホをお前の車の中に忘れたと思うんだが見なかったか?」
「……」
なぜか黙りこくってしまった。なんでだよ?絶対知ってるだろ。
「知ってるんだろ?」
「えぇ。でも簡単に返すわけにはいかないわ」
「なんでだよ?返して欲しければ今日の放課後ウチの会社に来なさい」
歪んだ奴だとは思っていたが、想像を絶していた。なんて奴なんだ。
だがこうなってしまった以上従わざるを得ない。
俺は渋々頷いた。
それを見たコイツはしてやったりな笑みを浮かべこう言った。
「よし」
「何時ごろ行くつもりなの?」
「16時に正門前に来なさい」
「わかった。また後でな」
「えぇ。それじゃ」
さっと手を振りアイツは去って行った。
授業を終えた俺が正門前に向かっていると、黒のパンツスーツに身を包んだ美人がこちらを見ていた。
あの美人な運転手だ‼なんて名前なんだろ?気になる……。
「あ、こんにちは」
「こんにちは。ではお嬢様出発しますね」
「ええ、お願い」
って、コイツもう乗ってたのか。指定された時間より5分前に着いたのにそれより前には乗ってたのか。
「よろしくな」
「今は乗り気じゃなくてもウチの会社を見れば必ず入りたいと思うはずよ」
「すんげえ自信だな」
「当たり前でしょ。日本が誇る大企業なのよ。そんな企業があなたを好条件で雇ってあげるって言ってるのよ。こんなにおいしい話そうそうないわよ」
「まあ見て決めさせてもらうよ」
「それもそうね。着いたわよ」
「ここか。随分と御立派な外観だな」
「さっ、行くわよ」
「おう」
前を堂々と歩くアイツの姿はとても凛々しくかっこよかった。
こちらの存在に気付いた社員さんたちが挨拶してくれるので俺も好青年らしい挨拶をした。
社内に足を踏み入れた瞬間から思っていたことなんだが、ここめっちゃイイ匂いするぞ。
「なあ、あとどのくらいで俺のスマホを保管してある場所に辿り着けるんだよ?」
「このエスカレーターで3階に行けばあるわ」
なんだ。もうすぐだったのか。
エスカレーターからの眺めは絶景と呼ぶに相応しいもので、誰でも知っているような絵画や高名な書道家によって書かれた名言などが見えた。
「着いたわよ」
「この部屋なの?」
「そうよ。金庫のカギを開けるからあなたは外で待ってなさい」
そう言ってカードを取り出しロックを解除すると中に入って行った。そう言えばいつの間にかあの美人な運転手さんが消えてる。メインエントランスまで一緒だったんだけどな。
合ったわ。これね。
扉が開いてアイツが出てきた。
「はい、コレ」
「おおーサンキュー。ありがとう」
「次からは気を付けなさい」
「うん」
自分のスマホにメッセージが届いていたかどうかを確認するため電源を起動した。
ん?待てよ。おかしくないか。昨日俺が車に忘れた時点では俺は電源を落としていなかったはず。それにバッテリーも75%も残っていたはずだしあのままの状態で保管していたのなら電源が落ちてるなんてことはないはずだ。
えっ‼今現在のバッテリー残量が100%になってるぞ。ってことは充電してくれていたってことか。
これには感謝しなくてはいけない。