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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

身体を売って人体実験 ~全てを失い、蘇って進化する魔物となって俺は復讐を果たす~

5000字程を想定していましたが倍の10000字になってしまいました。

まとめるって難しい……。

「……お兄ちゃん、私のためにいつもごめんね。ゴホッゴホッ」


「大丈夫だ。お前はつまらないこと気にするな」


 俺はティラのおでこをコンコン軽く小突く。


 俺のたった一人の肉親、一つ年下の妹であるティラは大病を患っていた。

 ベッドの上でしか生けていけない妹にとって唯一の楽しみは俺が帰ってきたときの土産話だけだった。


 ティラの大病を治すには俺のような平民が一生働いても払えないような大金が必要だ。ポジティブに考えれば、お金さえなんとかなればティラは大病は治る病なのだ。


 そう思い俺は日々、馬車馬のようにただひたすら働きに働いた。


 実は少し前まで俺には希望があった。


 それは成人の儀。

 成人となった者には神から祝いとしてスキルが授与される。

 そのスキルに期待していた。


 授与されるスキルはランダムなので強力なスキルが得られれば、それだけで将来が約束されるようなスキルもあった。

 理想としては、【剣術(上級)】か【火魔法(上級)】。冒険者として名を馳せたり、貴族の護衛や騎士団に入団することも夢ではないスキルだ。


 しかし、現実は非情だった。


 期待に胸を膨らませて教会の荘厳な雰囲気の礼拝室で行われた儀式。

 俺の他にも数人が儀式を行い、全員が授与され終わって司祭様の『これにて儀式を終了とする』の声を合図として各自一斉にスキルを確認する。


『ステータス』


 俺もそう呟いて目の前に表れたステータスウインドウのスキル欄には、


 ・【死んだら経験値】

 ・【進化】


 と言う訳のわからないスキルが鎮座していた。


 儀式を行ってくれた教会の司祭様は各人のスキルを確認して国に報告する義務がある。

 もし有能なスキル保持者がいれば、国としても有効に活用したいと言うことらしい。


 数多のスキルを見て国に報告している経験のある司祭様より一人一人のスキルを確認する際、一言二言アドバイスを贈っている。

 そうした中、半ば放心状態の俺にこのスキルに対するアドバイスを、と期待していたのだが、


「……ス、スキルが二つ。しかもどちらも聞いたことも無いレアスキルである。………………お、大いに期待するといい」


 何にっ!?

 どこの誰に、何を期待したらいいんですか!?


 それで儀式は終了した。


 呆然とした状態で膝をついたままの俺を尻目に他の連中は大はしゃぎで礼拝室を出ていく。


「やったぜ! 【剣術】だった! これで冒険者として一旗揚げてやる!」

「【回復魔法】ですって! 医療関係への就職決まったようなもんね!」

「はぁ~、【料理】かぁ。これで家業の宿屋継ぐことが決まっちまったよ。あー、俺も冒険者になりたかったぜ」


 司祭様に無言で退室を促され、ふらふらと教会を後にした。

 その日はどうやって家に帰ったか覚えていない。


 気が付いたときには朝だった。


「ステータス」


 夢であって欲しいと思いながら、ステータスを確認するもスキル欄にはしっかりと


 ・【死んだら経験値】

 ・【進化】


 のスキルがあった。


「夢、じゃなかった、のか」


 くっそ! 何だよ、【死んだら経験値】って一度でも死んだら人生終わりだっての! 経験値が貰えるからって死ぬやつなんていねーよ!

 もう一つの【進化】も訳わかんねーよ! 魔物ならいざ知らず、人族で進化なんて聞いたことがないよ!


 気持ちに余裕が無く、半ば無意識に壁を殴り項垂れていると隣の部屋から


「ゴホッゴホッ。お兄ちゃん? 起きたの? 昨日は様子が変だったけど大丈夫? あっ!?」


 妹のティラがフラフラとおぼつかない足取りで壁伝いにやってきたと思ったら、段差とも呼べない段差で躓いてしまった。


 ……俺はバカだ。

 普段苦しくて全く歩けないティラにこんなに心配をかけてしまうなんて。

 スキルが何だよ! 訳のわからないスキルだって生きていく事は出来る! 金を稼いで早くティラを元気にしてやらないと!


「大丈夫か、ティラ!? 昨日はすまない。スキルを貰って色々と考え事をしていたんだ。けど、もう大丈夫だ」


「ホント? あんなお兄ちゃん初めて見たから私に心配だよ……」


「本当だとも。スキルでどうやったら金を稼いでティラを元気にさせてやれるかを考えていただけ。ついつい、熱中しすぎたみたいだな。心配させて悪いな」


 不安顔のティラをベッドに運び、俺は仕事へと出かけた。


 ~~~


 そうして普段の生活に戻って数日が過ぎたある晩。


 その日は朝から大雨で仕事にも影響が出て、いつもよりも帰りが遅くなってしまった。

 普段から人通りが少ないこの通りは大雨と時間が遅いせいで人が全くいなくなっていた。


 そんな中、足早に家路へと向かう俺の反対側から女性が一人、傘も差さずに歩いてくる。


「傘が無い? いや? 何か変だな、あの人」


 不審に思いながらもお互いが近づいた時、俺は女性を見て何が変なのかを理解した。


「この大雨で全く濡れていない!?」


「あなたが()()レアスキルの持ち主ね? ねぇ、その身体……私に売らない?」


「え!? いや、あの、その……」


 な、なにいってんだ、このひと!

 ちじょってやつなのか!?

 いや、でもよくみればめつきはきついけどかなりのびじんだし……


 俺が慌てふためいたのを察してか女性が言い直す。


「ってあれ? あれれれれ? もしかして()()()()()()でとらえちゃった? ゴメンね、そうじゃないの。言い直すと私の実験のために貴方には協力して欲しいの」


 ……なんだ、そういう意味か。

 ほっとしたような、残念なような気持ちが入り交じる。

 何とか落ち着きを取り戻した俺は改めて女性を見る。


 羽織っている外套は宝飾で飾られ、靴も何の素材かわからないが高価そうだ。手に持っている杖の先端には俺の拳ほどの宝石が収まっている。

 一見して魔法使いとわかる。


 それでも俺が何も言えないでいると女性は、


「私の名前はセレンよ。さっきあなたの家に行ったのだけど、帰宅途中していなかったみたいだから出直そうと思ったの。ここで出会えたのはラッキーだけど……、さすがにこんな大雨の中で話をするのも、ねぇ?」


 そう言ってセレンと名乗った女性は両手を肩の高さまで上げて肩をすくめる。


「お、俺に協力して欲しいって俺にはなにも出来ませんよ?」


「知ってるわ。()()()()()()()()()私はあなたに協力を持ちかけるの。詳しい話はまた明日の朝、あなたの家で行うわ。彼方の職場には渡しがこれから言って事情を説明してはお休みにしておくから大丈夫よ」


 セレンは俺の了解も取らず、言うだけ言って俺が来た方向へと歩いて行った。

 俺は傘を差したまま、その後ろ姿が見えなくなるまで呆然と立ち尽くしていた。


 翌朝、セレンが予告通りやってきた。


「おはよう。早速だけど昨日の話の続きをいいかな?」


 入り口のドアを開けるなり、づけづけと勝手に上がり込みどこからしいともなく豪華なテーブルと椅子を二脚取り出す。


「!? いったいどこからそんなのを出したんだ!?」


「マジックバック。知らない? 見た目普通の鞄だけど、見た目以上の物を収納出来る魔道具」 


 それがあの噂のマジックバック、か。仕事先の商人の人達がことある毎に欲しいといっていた魔道具か。


「ま、そんなことはどうでもいいわ。まずは妹ちゃんにお土産。体力が回復するポーションよ。睡眠導入効果もあるからとりあえず飲ませてきてもらえない? 害が無いことは()()が保証するわ」


 セレンは外套の中からごそごそと何かを取り出すとテーブルの上に置いた。


「これって宮廷魔法師の紋章!? ほ、本物? で、あれば――」

「畏まらなくていいわ。公の用件でなくて個人的な用件なの」


 床に伏せようとした俺をセレンは手で制す。


「取りあえず妹ちゃんにさっきのポーションをあげてきてくれない? あなた以外には出来れば聞かせたくないのよ」


 テーブルに置かれたポーションを受け取ってティラのところへ行き、それを飲ませる。


 普通であれば、こんないきなり来た女の物なんて大事な妹に飲ませるなんてしない。だがセレンは紋章を出した。紋章は宮廷魔法師や王国騎士団等身分が高い人間の持ち物で、それを偽造したり他人の紋章を使う等悪用した場合には厳罰が処せられることは有名だった。


 セレンがいる部屋へと戻って来た俺にセレンが無言で椅子へと促す。


「改めて自己紹介。私はセレン・マグレシア。さっきも見せた通り宮廷魔法師よ。今回来たのは昨夜言ったようにあなたに協力して欲しいからよ」


 そこで一旦言葉を切り、セレンは指をパチンと鳴らす。

 するといつの間に置かれていたのか、テーブルと椅子を囲むように四つの魔石があった。

 魔石は淡く輝き、その内側を魔力で包んだ。


「え、え? これっていったい!?」


「慌てなくてもいいわ。さっきも言ったように人には聞かせたくない話なのよ。だから一応、防音結界を張らせてもらったの」


 俺が結界に驚いてキョロキョロしていると、セレンはまた外套の下から何かを取り出した。


「とりあえずこれは前金、と言うか口止め料ね。この革袋に入っている金額だけでも妹ちゃんを治すのに必要な額の半分近くくらいはあるわ」


 そう言った後、セレンは鬼気迫るほど真剣な眼差しで俺に問いかける。


「…………言いたいことがわかる? 私が頼みたいことはそれだけリスクがある内容ってことよ。ここから先の話を聞く覚悟があるので有れば、前金を受け取りなさい。受け取ったら依頼内容を話すわ」


 ……これだけの大金。

 …………宮廷魔法師がリスクがあると称する依頼。


 明らかにただの平民には過ぎた話であることは明白だった。……明白だったが俺の人生を半分以上費やしても届かないかも知れない金額を前に抗うことは不可能だった。


 気が付けば、俺の手は革袋を握りこんでいた。

 背中には冷や汗が流れ、掌は手を洗ってきたかのようにグッショリと濡れていた。


「ふふっ、それでいいわ。他人に喋りさえしなければいいんだから簡単よね」


 両手を軽く上げて肩をすくめるようにして笑うセレンだったがその目はまたしても鋭くなる。


「ここからが本題よ。この話、依頼を聞いた後でも嫌なら断ればいいわ。ただし、他言絶対禁止! その為の口止め料よ。いい――」


 セレンが話したのは驚愕の内容だった。


 セレンは王城のとある場所にて隠し部屋を見つけた。その中で古い魔道書を見つけ、その解読に成功した。


 魔道書に記されていたのは不死に関する秘法だった。


 セレンはその研究に没頭した。

 様々な動物実験を経てついにあと一歩、人体実験を試すまでに至った。

 だがここで問題が出て来た。


 ――誰で試すか?


 不死の研究は禁忌とされている。ましてや人体実験を行うことも禁忌だ。

 一般的に公募したところで即お縄だろう。


 無事に興味の有りそうな王族? それとも貴族? 素材(被検体)の提供は可能だろうがリスクがあり過ぎた。


 どうすればいいかと思案を続けていたある日。

 表向きの研究室に回覧が回ってくる。

 それは今年の成人の儀で行われた時のスキル一覧表だった。


 王国でも極秘事項に近いこの回覧。

 回された者は己が興味を持った人材を未来の王国のために確保する事が出来るシステムだった。


 興味なさげに何気なくパラパラと紙を捲っているとレアスキルの欄に【死んだら経験値】と言うスキルを見つけた。

 まるで雷に打たれたかのような衝撃が走った。


「他の誰もが皆有用なスキルを得ている中でこんな訳のわからないスキル、しかも死ぬことが前提、とか。()()()しかいない!」


 調べてみれば、親がおらず妹のみの家族構成。親戚もいない。しかも妹は大病を患っている。

 働き口も誰がやっても代わりが利く職場。

 実験にこれ程適した人材もいない!


 と言うことでセレンは昨日この町に来たらしい。


「で、俺はその不死に関する実験(実験)を受ければいいって訳ですか」


「そうよ。そうすれば残りの金額、前金と合わせれば妹ちゃんの大病が二回治せるくらいの金額になるわ」


『二回治せるくらいの金額になる』、その言葉に俺の心が揺れる。

 それだけあれば、ティラを治してやった後も落ち着いた生活が出来る。喉から手が出る程欲しい大金だった。


 了承の返事が出かかるがぎりぎりのところで俺は踏み留まる。


「……失敗する可能性は?」


「無い、とは言わないわ。でも他の動物では()()成功しているから確率は高いはずよ」


「…………」


 ~~~~~


 結局、俺は大金に負けて依頼を受けた。

 元々ティラの日々悪くなる容態にジリ貧を感じていたのだ。

 選択肢は初めから一つしか無かったようなものだ。

 それに万が一失敗した場合、ティラの面倒を看てくれると言うのも俺の背中を押した。


 前金を使ってティラの面倒を看てくれる人と残りの金額をティラに渡してもらえるようにセレンに頼んだ。


 そうして俺はセレンの助手と言うことで王城にあるセレンの秘密の実験室へとやって来た。


「実見は簡単よ。あなたはただ寝ているだけでいいの。さあ、これを飲んで。すぐに眠くなるわ。次に目が覚めたら実……は終わ…………るはず……」


 あっという間には意識を失っていった。



 ~~~~~~~


 ……

 …………

 ………………


 どれだけ眠っていたのだろう。

 あっという間かも知れないし、ビックリするほど長い間のようにも思えた。


 重たくなった瞼をゆっくりと開く。

 天井? ではないな、隣に窓が見える。

 体が重い。長い間動かしていなかったかのように関節が痛い。


 部屋は薄暗く周りがよく見えない、と思ったが次第に薄暗さに慣れて見えるようになっていった。


 ここは……? 俺はベッドで寝ていたはずなのにいつの間にか仰向けからうつ伏せになったんだ?


 !?

 檻!?

 檻の中に入れられている!? これはいったいどういう事なんだ?


 鉄格子に飛びつき、ガシャガシャと揺らしてみるが見た目通り頑丈で壊れる様子は無い。


 しばらく諦めずに揺らしているとそんなところにドアがあったのか、と思うほどわかりにくいドアが開く。


「なによ、もー五月蠅いわねぇ。って、え、嘘、あなたもう目が覚めたの? 思っていたよりも今回は早かったわね」


 寝間着姿のセレンが一人自身の実験の成果を確認している。


「キュキュ! キュキュキュ!」

(おいセレン! これはどういう事だ!)」


 !?


 声を出してみて驚いた。

 いったいなにを言っているんだ、俺は?

 間違いなく人語を発したというのにまるで小動物のような声になっていた。

 よく見れば、手足も人のものではなく、白くてモフモフした手足になっている。


 ニマニマ顔のセレンが見下ろしながら俺に向かって手をかざす。


「じゃ、早速だけど……死んでみよっか?」


 こいつ、なに言って――あ゛っ


 ――俺は次の瞬間、意識を失った。


 一瞬だけ筆舌し難い激痛が襲ったかと思ったら意識を失っていた。


 そして、目が覚めたのはあの檻の中だった。

 見上げれば同じ寝間着姿のセレン。


「うんうん、いいわねー。じゃもう一回」


 ――あ゛


「うんうん、順調ね。もう一回」


 ――い゛


「うんうん、いい感じね。もう一回」


 ――う゛


「うんうん、素晴らしいわね。もう一回」


 ――え゛


「うんうん、予想通りね。もう一回」


 ――お゛


「うんうん、こんなところかしらね」


 本当に不死なのか。

 身体は治るが精神が毎回殺される事に追いつかない。

 生き返っては殺される、生き返っては殺されるを繰り返す内に俺の精神は半ば崩壊して生きることを諦め始めていた。


「これまでの実験だとそろそろ壊れちゃってるのよね。意外に脆いのね、人の精神って。あなたの【死んだら経験値】ってスキルなんだけど、他にも見たことあるのよねー。【死んだら】シリーズって呼んでるわ。【死んだら若返り】、【死んだら金貨】、【死んだらモテる】とかね。みんな面白いように私の依頼に食いついてあなたのように実験台にされたの。毎回笑いを堪えるのに必死だったわ」


 ……なん……だと?


「薄々気付いているかも知れないけど、あなたは今一角兎(ホーンラビット)になってるわ。私は一言も人間のまま不死にする実験なんて言ってなかったでしょ?」


 俺は……騙され……たのか?


「元々古い魔道書には不死にする代わりに人間を辞めて魔物にする方法しか記載されていなかったの。最初は人間を辞めないですむ方法を模索したけど、どうやっても駄目でね。諦めて外に行かなくてもレベルがあげられる、私の経験値タンクになってもらうことにしたの」


 後半、実に嬉しそうに口元を歪めながら語るセレン。


 ふざ……ける……なよ。


「あなたの後ろにいるのが先輩達よ。今ではみんな精神がすっかり崩壊して何の反応も示さなくなって淋しかったのぉ。久々の反応のある経験値タンクなんだからしっかり楽しませて、ね」


 て……めえ、セレ……ン! 殺……してや……る!


「あー、そうそう。あなた三ヶ月くらい寝てたから妹ちゃん、死んじゃったわよ? 野党に押し入られて犯されたあげく、火を放たれて死体も()()()()()()って。その野党はあっさり捕まったみたいだけど証拠不十分で釈放されたって聞いたわ。残念だったわね」


 それを聞いた途端、俺の目の前が真っ赤に染まる!


 てめえ! 約束が違うじゃねぇか! 殺す! おまえだけは絶対に殺す! 何度殺されようが絶対に忘れない! 絶対に許さない! いつか、いつの日か、必ずセレン、お前だけは俺の手で殺してやる!


「おーおー、活きが良くなってまぁ。これはまだまだ楽しめそう。これからも宜しく、ね」


 ――か゛


 ~~~~~~~~


 その日から何度も殺された。


 もう何度殺されたか、覚えていない。


 辛うじて俺の精神は繋がっているが、これもいつまで持つかわからない。


 しかし、いつかセレンをこの手で殺すまで諦めないと誓った。


 その思いだけで生きていた。


 ~~~~~~~~~~


 あれからどれだけ殺されただろう。


 殺されることにも慣れてしまった。


 セレンも俺の精神が壊れていないことはわかっているが俺を殺すことに慣れてしまった。


 俺の中には未だに復讐の炎が燻っている。


 自分の名前すら忘れてしまったが、ティラの事は覚えている。ティラを思えば、いつでも爆発させられる。


 そう言えば、ここしばらくセレンは俺を殺していない。


 顔も見に来ない。


 もしかして新しい生贄が見つかった? とすればそろそろ一年くらい経ったか?


 その時、ふと自分のスキルを思い出す。


 ……【死んだら経験値】と【進化】だっけ。

 そういや、殺されてばっかりで忘れていたけど経験値が貰えるんだった。


「キュキューキュキュ」

(ステータス)


 名前:※※

 種族:一角兎(ホーンラビット)

 レベル:20/20

 経験値:10485/--

 HP:20/20

 MP:1/5

 攻撃力:F-

 防御力:F-

 敏捷:F+

 命中:F

 魔力:F-

 運:F-

 スキル:

【死んだら経験値】

【進化】→進化可能

【突進】……ストライクアタック


 は? 経験値10485だと? こんなに貯まっていた? しかも一角兎(ホーンラビット)カンストで進化可能?


 今の状況を打破するために俺は迷わず、進化を選択した。

 一角兎(ホーンラビット)が何に進化するかなんてどうでも良かった。


 胸の内側が熱くなってくる。

 やがてそれは伝播し、全身へと及ぶ。

 殺される痛みに慣れてしまった俺には動けなくなるほどでは無かった。


 熱さは数秒で収まる。

 身体に変化は? ――ある!

 慌ててステータスを開く。


「わわーわん」

(ステータス)



 名前:※※

 種族:ホーンドック(一角犬)

 レベル:20/20

 経験値:9865/--

 HP:30/30

 MP:1/7

 攻撃力:F+

 防御力:F

 敏捷:F

 命中:F

 魔力:F-

 運:F-

 スキル:

【死んだら経験値】

【進化】→進化可能

【突進】……ストライクアタック


 進化と同時にレベルアップしているみたいで僅かではあるが能力が上がり、兎から犬になって体もいくらか大きくなった!

 これなら進化を繰り返して行けば檻が破壊できるようになるかも知れない!


 その後、


 一角狼→一角鷹→一角蛇→一角牛→一角熊


 と進化を繰り返した。


 檻は一角蛇の時にすり抜けて外に出たので壊れていない。これで部屋に入っても一見して俺の動向に注意を払わなければ、ほんの少しではあるが時間が稼げる。


 なんたって今の図体は熊だからデカい。

 部屋に入ってすぐに見渡されたら簡単に見つかってしまうだろう。

 セレンの注意を引く物が欲しいと思っていたので檻の件はちょうどいい。

 きっと俺がいなくなったと慌てるだろう。

 その隙に、仕留めてやる!


 さて、今のステータスは


 名前:※※

 種族:ホーンベア(一角熊)

 レベル:15/35

 経験値:15/140

 HP:44/44

 MP:1/15

 攻撃力:D

 防御力:E+

 敏捷:F+

 命中:E

 魔力:E+

 運:E+

 スキル:

【死んだら経験値】

【進化】

【突進】……ストライクアタック、ファングダイブ、ボディアタック、テラークロー

【獣の象徴】……気配察知、夜目、野生の勘、集団の主、温度変化、暴走、雑食

【変身】……一角兎、一角犬、一角狼、一角鷹、一角蛇、一角牛



 ……なんだこりゃ、変身?

 今までの種族に変身出来るって事か?

 逃げるときに一角鷹とか便利そうだな。

 だけど今はセレンを殺すのが先だ。


 一度兎に戻って檻の中で待つ。


 驚いたことに何に変身してもステータスは熊のままだった。

 であれば兎姿の方が何かと油断を誘いやすいと思い、兎になった。


 ~~


 準備を済ませてから二、三日してやっととてもご機嫌なセレンが現れ、俺を気軽に数回殺していく。


 俺を殺し始めたときによく似ている。と言うことは予想通り次の獲物を見つけたのかも知れない。

 これ以上、俺たちのような犠牲者を出してはいけない。

 セレンのおもちゃになるのは俺で最後にしてみせる!

 明日、セレンが俺を殺しに来たら殺してやる!


 ~


 夕方、セレンの上機嫌の声が聞こえる。


「ふんふふーん、やっぱりと言うか予想通りと言うか、今年は楽に実験材料が見つかったわね。交渉も拍子抜けするくらい簡単だったし、毎回こうであって欲しいわぁ。あ、笑いを堪えるのは大変だから次はもう少し歯応えがあって欲しいかも。あははははははー」


 今回のターゲットは簡単だったみたいだな。もう少し警戒しろよな。よくよく聞いていたらいろいろと話が旨すぎただろう? って俺も人のことは言えないか。


「さて、あの様子ならすぐにでも彼女は来るだろうけど――ん、来たみたいね」


 セレンの声が遠のき、しばらくしてまた近付いてくる。気配からしてターゲットは女性? いや、やけに気配が小さいな。女の子か?

 いやいや、ってか来るのが早すぎだろ。

 次にセレンがこの部屋に入ってきたら作戦実行してやろうと思っていた――


「お兄ちゃんはどこにいるんですか!? 早く会わせて下さい!」


 !?


 その声が聞こえた瞬間、全身鳥肌がたった。

 と同時に胸の奥から何とも言えない熱いものが込み上げてくる。


 ティラ! あれはティラの声だ!

 生きていたのか!?

 セレンめ、俺を騙しやがったなぁ!

 思えば、セレンの言われるがままを信じていたか。ティラの生死を確認する術がなかったとは言え、俺も今の今までどうしてこの可能性を考えなかったんだ……。


 自責するのは後だ!

 今はティラをセレンの実験材料にさせてなるものか!

 計画? そんなもん知るか! ティラを助けることが最大にして最優先事項なんだ!


 一角熊(ホーンベア)に変身してセレンとティラがいる隣の部屋へと壁をぶち破り突入する。


「キャア!」

「な、なに? 何なの、いったい!?」


 ティラが例の飲み物を飲まされようとしていた。

 あれを飲んではいけない。

 ティラが持っている器だけを爪で弾き飛ばす。


「……へぇ~、一番最初にすることが()()なの。と言うことはお前は去年のガキか。まだそんな事が出来るほどの精神があったとはね。正直驚い――だぶっ!」


 セレンの喉を爪で一突きする。

 そして腕を横薙ぎに払うと大きく痙攣した後、セレンは動かなくなった。


 たった一つ行動しただけで一角熊(俺の)正体を見抜いたのはさすが宮廷魔法師と言えるけど、油断しすぎだろ。

 のんきに講釈していたがお前の話なんざ、最後まで聞く義理はねえよ!


「も、もしかしてお兄ちゃん、なの? ……お兄ちゃんよね! お兄ちゃんでしょ! そうでしょ! ご、ごめんなさい……私の、私の病を、治すため、にそん、な姿に、なっちゃってぇぇエーーン」


 ……なんでわかるかな。

 正直、わかるとは思わなかっ――あ、セレンの『去年のガキ(あれ)』か。

 しゃーないな。


 俺はティラのおでこをコンコン軽く小突く。


「……お兄ちゃん?」


 気にするな。

 こうなっちまったもんはどうしようも無い。

 なるようになるさ。


 というのを身振り手振りで示す。


「……ん、助けてくれてありがと、お兄ちゃん」


 さて、あと始末はどうするかな?

 ……ま、セレンが宮廷に出て来なくなって不審に思った人がこの部屋に来れば、セレンの死体も見つかって家捜しするしか無くなるだろ。

 禁忌に手を出していたんだ、簡単に片付く問題ではないだろうからしばらく騒がしいだろうな。

 俺以外の被害者は生きる屍(あんな)だし、俺まで繋がる可能性は少ないと思う。


 とりあえず一角鷹になってティラを連れてここから逃げるか!

 ティラ、乗れ!


 と身振り手振りで示し、ティラが乗ってくる。


「お、お兄ちゃんどこ行くの?」


 さあな。とりあえずティラの病は治っているみたいだし、どっか南の暖かい町でやり直すか!


「ん、シドお兄ちゃんとならどこだっていいや!」


 そうして俺とティラは新たなる町を求めて飛び立った。

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